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強盗

「今すぐ、立て!こっちの言う通りにしろ!さもなくば、本当に撃つ!」


 もはや何度目か分からない脅し文句を吐き、男は引き金に指を掛ける。

でも、撃つ気がないのは丸分かりだった。

だって、指に全くと言っていいほど力が入ってなかったから。

それに、撃つ気があるならとっくに撃っているだろう。

こちらは再三に渡る警告を無視しているので。

未だに人間へ危害を加えていないことを思い返し、俺は一つ息を吐く。


 やっぱ、この強盗────素人だな。色々と杜撰すぎる。

ただ、拳銃は本物なんだよな。


 先程破壊された真白のグラスや天井に空いた穴を見やり、俺は『どこで入手したんだか』と考える。

────と、ここで真白が席を立った。

その瞬間、男はホッとしたような素振りを見せる。

本気で人間を撃つような事態にならなくて、安堵しているのかもしれない。


「やっと言うことを聞く気になったか!それじゃあ、両手を上げて床に……」


「────さっきから、凄くうるさいんだけど〜。若くんとのデート、邪魔しないでもらえる〜?」


 そう言うが早いか、真白は相手の拳銃を……というか、手を掴んだ。

と同時に、力いっぱい握り締める。

すると、骨の折れるような音が鳴り響き、


「あ”ああああぁぁぁぁああ!!!」


 男は絶叫に近い悲鳴を上げた。

痛みのあまり蹲る彼は、汗なのか涙なのかよく分からない液体を垂れ流す。


「ねぇ、堪え性なさすぎな〜い?そんなんで、よく僕達に立ち向かおうと思えたね〜」


 スルリと相手の手から拳銃を引き抜き、真白はやれやれと肩を竦める。

『こんな奴らにデートを邪魔されたなんて』と溜め息を零し、男の眉間に銃口を突きつけた。


「恨むなら、無知で愚かな自分を恨んでね。それじゃ」


 一瞬の躊躇いもなく引き金を引き、真白は後ろに倒れた男を一瞥する。

その瞬間、周囲に居た者達は『うわぁ……!』とか『キャー!』とか声を上げた。


 強盗の仲間達も恐怖と不安を露わにしており、後退る。

まさか、返り討ちにされるとは思ってもみなかったのだろう。

『しかも、真っ先に倒されたのがリーダー格の男だからな』と思案する中、彼らは互いに顔を見合わせる。

が、誰も妙案など持っておらず……判断を下すことさえしなかった。

その“遅れ”が生死を分けるというのに。


「君達もすぐあの世へ送ってあげるね〜。こいつみたいに、デートを邪魔してくるかもしれないし〜」


 『懸念材料は排除するに限る』と主張し、真白は続けざまに二発撃った。

これにより、仲間五名のうち二人死亡。

残るは、あと三人となった。


「あっ、弾切れだ〜」


 真白はカチカチと何度も引き金を引き、何も出ない拳銃を見つめる。

『そういえば、威嚇射撃で結構銃弾を消費していたね〜』と呟く彼を前に、俺は懐へ手を入れた。


「俺のやつ、使うか?」


 護身用として持ち歩いている拳銃を取り出し、俺はどうしたいか尋ねる。

すると、真白は空になった拳銃を放り投げて


「ううん、大丈夫〜」


 代わりに、串を持った。それも、複数。

恐らく、武器のつもりだろう。

一応、傍には愛用の日本刀だってあるのに。


「こいつらには、これで充分だよ〜」


 既に戦意喪失しかけている面々を見やり、真白はゆっくりと歩き出す。

その途端、残党の三人は腰を抜かして蹲った。


「ま、待って……!私達は降参するから……!」


「強盗したことは謝るし、罪もしっかり償う!だから……!」


「お願い、助けて!殺さないで……!」


 泣きながら命乞いをする三人に、真白はニコニコと笑ってこう言う。


「や〜だ」


 こいつらのせいでデートのムードを台無しにされたせいか、真白は引かなかった。

『君達の謝罪とか、贖罪とかどうでもいいし〜』と吐き捨て、指の間に串を挟む。

そして、手前側に居る残党二名へ視線を向けると、勢いよく串を投げた。

銃弾ほどではないものの、かなりのスピードで飛んでいくソレは見事彼らの眼球に命中。


「いぁぁああああああ!!!」


「な、ななななな……!!?」


 狙われた残党二名は痛みにのたうち回り、そこら辺の椅子やテーブルをなぎ倒す。

おかげで、店内は滅茶苦茶に。

『これは片付けるの大変そうだな』とぼんやり考えていると、真白が彼らの前で足を止めた。


「も〜、このくらいで大袈裟だね〜」


 呆れたように小さく(かぶり)を振り、真白はちょっと身を屈める。

と同時に、串を引き抜いた。

その瞬間、血と卵の白身のような液体が飛び出し、床を汚す。


「ほら、もう楽にしてあげるから大人しくしてて?」


 まるで駄々っ子を相手するような態度でそう言い、真白は彼らの首筋に串を突き刺した。

すると、大量に出血する。

どうやら、頸動脈を傷つけてしまったらしい。

『これは多分、即死だな』と思案する中、残党二名は血溜まりの上に倒れた。

と同時に、周囲の者達が何人か気を失う。

一般人にこの光景はショック過ぎたようだ。


「さてと、あと一人だね」


 真白は返り血塗れのまま身を起こし、ゆるりと口角を上げる。


「早く終わらせて若くんとデートの続き、しようっと」


 奥に居る最後の一人を見やり、真白はゆっくりと歩き出した。

赤い足跡を残しながら。

恐らく、血溜まりをもろに踏んでしまったせいだろう。

『後でまた新しい靴、買ってやらないと』と考える俺を他所に、真白はどんどん距離を詰めて行く。

────と、ここで最後の一人となる強盗がハッと正気を取り戻した。


「く、来るな……!」


 裏返った声で警告を促し、彼は拳銃を構える。

が、真白に立ち止まる様子は一切なし。

速度を緩めることすらせず、一直線に向かっていった。


「俺に近づかないでくれ!」


 懇願にも似た声色で叫び、最後の強盗は拳銃を発砲する。

多分、自棄を起こしたんだろうが……手も足もガクガクと震えた状態で撃った弾など当たる筈もなく、真白の横を通り過ぎた。


「ひっ……!」


 真白に避けられたと勘違いしたのか、それとも人に銃を撃ったという事実が恐ろしかったのか……最後の強盗は顔を青くする。

今にも卒倒しそうになりながら後退り、視線をさまよわせた。

かと思えば、出入り口の存在に気が付き、ようやく『逃亡』という選択肢を思いつく。

─────が、もう遅かった。


「あれ〜?これって、パトカーのサイレンじゃな〜い?」


 真白はふと窓の外を見て、『だんだん、こっちに近づいてきているね〜』と分析する。

これでは、もう逃亡も不可能だ。


「誰か、通報したのかな〜?」

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