表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/41

俺達を生かす合理的な理由《惇 side》

「じゃあ、俺達を生かす合理的な理由って一体なんだ?」


 『何故、ここに居るのか』という疑問よりも先に彰の動機を尋ね、俺は腕を組む。

だって、どれだけ考えても生かすメリットなんて思い浮かばなかったから。

『殺すメリットなら、いくらでも思いつくんだが』と考えていると、静がふと天井を見上げた。


「彰と早瀬が結ばれる上で最も大きな障害をクリアするため、かな?」


「障害?いや、それ以前に────あいつら、デキていたのか?」


 別に男同士の恋愛を非難する気はないものの、まさか自分の身近でそういうことになっているとは思わず……瞬きを繰り返す。

戸惑いを隠し切れずに居る俺の前で、静は少しばかり頬を引き攣らせた。


「えっ?気づいてなかったの?」


「……やけに距離が近いな、とは思っていた」


 彰にベッタリくっついていた早瀬を思い出し、俺は口元に手を当てる。

と同時に、改めて二人の関係性を考えた。


 これまでは『特別、仲がいいんだろう』と思って、あまり気にしてなかったが……言われてみると、確かにおかしいな。

距離感もそうだが、言動とか視線とか……恋人同士じゃないと、有り得ないところが多い。


 『じゃあ、彰がいきなり本気を出すようになったのも……』と思案し、俺は諸々理解する。

無気力・無関心・無愛想のあいつでも恋するんだな、と驚きながら。


「とりあえず、彰と早瀬が恋仲なのは分かった。で、あいつらの障害って何なんだ?」


 同性なので、そりゃあ壁は多くあるだろうが……俺や静を生かすことで解決する問題など思いつかず、苦悩する。

────と、ここで静がゆっくりと口を開いた。


「端的に言うと、子供だよ」


「はっ?子供?」


 いきなり話が次世代に飛んで困惑し、俺は怪訝な表情を浮かべた。

すると、静はこちらを宥めるように片手を上げる。


「よく考えてみてほしい。同性同士である以上、まず子作りは出来ないよね?でも、彰は桐生組の若頭として跡継ぎを作らないといけない……そこで、目をつけたのが僕達という訳さ」


「ちょっと待て。それって、つまり……」


 ようやく彰の狙いが見えてきて、俺は大きく瞳を揺らした。

衝撃のあまり僅かに表情を強ばらせる俺の前で、静はギュッと手を握り締める。


「ああ、そうだよ。彰は────僕達どちらかの子供をいずれ養子にして、桐生組の跡継ぎにするつもりなんだ。血の繋がった兄弟の子なら、血縁的にも問題ないからね」


 『父上や親戚も渋々納得するだろう』と言い、静は自嘲気味に笑った。


「さしずめ、僕達は種馬という訳だ」


 やれやれと(かぶり)を振って嘆息し、静はやるせない心情を露わにする。

何とも言えない表情を浮かべて俯く彼を前に、俺は


「っ……!ふざけんな!そんな家畜みたいな生き方、出来るか……!」


 と、喚いた。

己の尊厳を貶められたような感覚へ陥り、怒りに身を震わせる。


「俺は絶対、御免だぞ!種馬なんかにされるくらいなら、今ここで命を絶ってやる!」


 人間としてのプライドを捨ててまで生きたいとは思えないため、俺は自身の首に手を掛けた。

『このまま、一思いにへし折って……!』と画策する俺を前に、静は少しばかり目を見開く。


「ちょっ……落ち着いて、兄上。気持ちは分かるけど、ここは冷静にならないと。感情のまま、物事を決めちゃダメだよ」


「うるさい!俺に指図するな!」


 これでもかというほど静を睨みつけ、俺は首を掴む手に力を込めた。

その瞬間────静が思い切り檻を蹴る。

基本、穏やかで物に当たることなど滅多にないのに。

思わず手の力を緩めて固まる俺の前で、彼は少しばかり身を乗り出した。


「兄上は死んだらそれで満足かもしれないけど、残された者達はどうなるの?特に貴方を信じ、慕い、付いてきた者達は」


「!」


 ピクッと僅かに反応を示し、俺はこれまで可愛がってきた面々を思い返した。

『精鋭こそ失ったが、まだ仲間は居る』という事実に、今更ながら気づく。

────と、ここで静がこう言葉を続けた。


「言っておくけど、丁重に扱われることは絶対にないよ。早瀬の残虐性は理解しているだろう?それを肯定する彰の異常性も」


「っ……」


 『また早瀬に自分の部下を殺されるかもしれない』という可能性に、俺は戦慄した。

床に転がった精鋭達の死体を思い出す中、静はそっと眉尻を下げる。


「今までは兄上が防波堤となって皆を守ってきたから、辛うじて無事だっただけ。でも、貴方を失えば……」


 その先の言葉は敢えて口にせず、静はこちらへ背を向けた。

かと思えば、檻に寄り掛かる。


「兄上にとって、『種馬として生きる』という選択肢は屈辱かもしれない。でも、今ここで全てを放り出すのはあまりに無責任じゃないかな?貴方には、部下の面倒を最後まで見る義務があると思うよ」


 『だから、生きるべきだ』ということを熱弁する静に、俺は何も言えなかった。

まさにその通りだと思ったから。


 俺の夢にさんざん付き合わせて、力になってもらって、助太刀をお願いして……それなのに、失敗した途端あの世へ逃亡なんて。

逆ならまだしも、俺から手を放すことは許されないだろう。


 今頃不安でいっぱいになっているだろう部下達を想像し、俺はそっと手を下ろした。

もう死ぬなんて選択肢、取れなくて。


「上等だ、種馬でも何でもやってやる」


 『部下達(あいつら)が俺を必要としなくなる時まで』と奮起し、俺は真っ直ぐ前を見据える。

黒い瞳に、確かな意志と覚悟を宿しながら。

生きる活力で溢れる俺を前に、静は


「それでこそ、兄上だよ」


 と、満足そうに微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ