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若頭と狂犬

「────桐生組の若頭、桐生(きりゅう)(あきら)!お前の命運も、ここまでだ!」


 俺の名前を大声で叫びつつ、見知らぬ男は拳銃を構えた。

それに倣って、後ろで控えていた連中も発砲準備へ入る。

物々しい雰囲気に包まれる別荘の一室を前に、俺は一つ息を吐いた。


 一体、どうやって俺の居場所を割り出したんだ?

尾行には、充分気を配っていた筈だが……いや、今はそんな事どうでもいいか。


 おもむろに前髪を掻き上げ、俺は黒い眼でしっかりと敵の姿を捉える。


「一応聞くが、退く気はないんだな?」


 低い声で威圧するように問い掛けると、リーダー格の男は小さく笑う。

まるで、こちらを小馬鹿にするように。


「ないに決まっているだろ!お前を屠る、またとないチャンスだからな!」


 そう言うが早いか、男は一思いに拳銃の引き金を引いた。

部下達もそれに続き、俺を蜂の巣にする────筈が、一発も当たらなかった。


「な、何で……!?」


 全弾回避した俺を見つめ、男は明らかに狼狽える。

『本当に人間なのか!?』と困惑する彼の前で、俺は小さく肩を竦めた。


拳銃(チャカ)をオモチャみたいに扱うお前らの弾なんて、当たる訳ないだろ」


 『弾道も読みやすいし』と言い、俺は床にめり込んだ銃弾を一瞥する。


 せめて、狙う場所を分散させたり撃つタイミングをズラしたりしていればな……これじゃあ、全く数の利を活かし切れていないじゃないか。


 馬鹿の一つ覚えみたいに心臓目掛けてバカスカ撃ってきた敵達を見据え、俺は呆れ返る。

すると、リーダー格の男が目を吊り上げた。


「いや、だとしても!全弾、避け切るなんておかしいだろ!動きづらそうな格好をしているくせに、妙に素早いし!」


 和服姿の俺を指さし、リーダー格の男は『どういう仕掛けだ!?』と喚いた。

どうやら、こちらが何か細工をしていると考えたらしい。

『単純に反射神経が良かっただけなんだが……』と思いつつ、俺は頭を搔く。

その際、短く切り揃えた黒髪がサラリと揺れた。


「ギャーギャー騒ぐのは勝手だが、急いだ方がいいんじゃないか?そろそろ────お前らの恐れる狂犬(・・)が、帰ってくるぞ」


 俺の側近の一人であり、桐生組一の戦闘狂である人物を話題に出すと、相手は途端に焦り出す。

────が、もう遅かったようだ。


「若くん、ただいま〜」


 意気揚々と襖を蹴破り、現れたのは糸目の男。

異様なまでにヘラヘラと笑う彼は、愛用の日本刀と白いスーツを赤く染めていた。

恐らく、外に居た見張りを殺してきたのだろう。


「今、お掃除するからちょっと待ってね〜」


 黒の革手袋越しに日本刀を握り締め、彼はこちらを振り返る。

後ろで結んだ白髪を揺らながら。


「────す、スイレンを象った簪だと……?」


 リーダー格の男は白髪によく映える花の髪飾りを凝視し、震え上がった。

恐怖と不安で、押し潰されそうな心境を表すかのように。


「じゃあ、こいつが────桐生組の狂犬、早瀬(はやせ)真白(ましろ)……!?」


 怯えた顔で仰け反り、リーダー格の男は腰を抜かした。

何とも情けない姿を晒す彼を前に、真白は


「ご名答〜」


 と、明るく答える。

と同時に、リーダー格の男へ斬り掛かった。

左肩から右腹に掛けて大きく裂けた相手を前に、真白は日本刀を握り直す。

そして、次々と敵を切り捨てていった。

的確に急所を狙っているからか、相手は抵抗する暇もなく倒れる。

一応、何人か拳銃を発砲しているものの……真白にそんなもの当たる筈もなく、完全に無駄打ち。


 この調子だと、五分と経たずに終わりそうだな。


 血の海に沈んでいく敵達を一瞥し、俺は壁へ寄り掛かる。


「真白、全員は殺すな。今回の襲撃について、情報を引き出す必要がある」


「は〜い」


 ヒラヒラと手を振って応じ、真白は残りの数名を峰打ちで仕留めた。

白目を剥いて気絶する奴らを前に、真白はゆったりと身を起こす。


「若くん、終わったよ〜」


 日本刀をブンブン振り回しながらこちらへ駆け寄ってくる真白に、俺は苦笑を漏らした。

『せめて、納刀してから来い』と思いながら。


「ああ、よくやった」


 壁から身を起こし、俺はポンポンッと軽く真白の頭を撫でた。

すると、彼は嬉しそうに頬を緩める。


「うん」


 満足そうに頷く真白は、子供のように無邪気で……でも、ゾッとするほど恐ろしい狂気を孕んでいた。

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