人魚の王子様との恋は(千文字作文)
君のことが好きです。
そう言えればどれだけ楽だろうか。
「やあ、こんばんは」
「こんばんは、人魚の王子様」
彼は人魚の王子様。
夜、暗い海にいつも佇んでいる。
私は彼に恋している。
「ねえ、お嬢さん」
「なに?王子様」
「君は昔、人魚狩りの連中に囚われた僕を助けてくれたよね」
「そうね」
それが私と彼の出会いだった。
「けれどね、僕は実は知っているんだ」
「え」
「君が陸の国の王の娘であること」
ひゅっと息を呑んだ。
そんな私に構わず、彼は続ける。
「陸の国の王が人魚狩りをするのは、全て病弱な娘を治すため…そう、人魚の肉を食えば不老不死になるという噂に縋ってのことだとも知っている」
彼の鋭い目が震える私を捕らえる。
「君だよね?我が同胞が攫われる理由」
私は観念した。
この恋を終わらせるのだと。
この命も終わらせるのだと。
「そう…です」
「けれど僕は知っている」
「え?」
「君が人魚狩りを止めようとしていること」
「…!」
彼は私に構わず続ける。
「君が、捕らえられた人魚を全て解放していることも」
「でも、それは」
「君が原因だけれど。君のおかげで、我が同胞は全て海の国に帰ってきている。未だ、食われた犠牲者はいない」
いつのまにか彼は、とても優しい目をしていた。
「…我が同胞のうち、魔術に通ずる者がとある薬を使った」
「薬?」
「人間の身体を人魚に作り変える薬だ。その過程でどんな病もたちまち治る」
…それは、とても魅力的なお誘いだった。
「君が陸の国から消えれば、人魚狩りの理由はなくなる。君という恩人への礼にもなるし、君という仇への仕返しにもなる」
なるほど、その通り。
「僕の手を取ってくれるよね?」
私は頷き、薬を飲んだ。
激痛と、声を引き換えに。
私は健康な、人魚となった。
「ねえ、お嬢さん。そんなに陸が恋しいかい?」
『いいえ、違うの。ただ、見ていたいだけ』
「そうか…」
私は健康な人魚となり、人魚の王子様と結婚した。
人魚の王子様のお妃様となった私は、海の国で大切にされている。
あれ以降人魚狩りはパタッと止んだ。
一つ気がかりがあるのは、陸の国の王…お父様のことだけ。
血に手を染めてまで私を慈しんでくれた父親のことだけ。
「僕をみて」
彼を見つめる。
そこには優しい眼差し。
「愛してる。君が失ったものの分まで、君を幸せにする」
こんなに幸せで、いいのだろうか。
そう思いつつ、今日も彼の腕の中で幸せを享受する。
宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!