【1話-1】初級魔法と収納魔法で英雄になってやるぜ!
この世界には英雄がいた。
かつて世界を手中に収め、数多の生物たちを蹂躙していた魔王を打倒した。英雄サンファは剣士であり、一度剣戟を放てば海が割れ、魔法を放てば天候が変わるほどだった。
そんな夢のような伝説の話を寝物語として聞いて育った、農家の次男タリスは、自分も冒険者になって、世界が危機に瀕したときも英雄のごとく世界を平和に導ける男になりたいという夢を持っていた。
英雄になるため、5歳になったばかりのタリスは家においてあったおもちゃの木剣を来る日も来る日も毎日振るった。5人兄妹の3番目で兄も姉も妹も弟も相手にはしてくれなかったが毎日剣を振るい、彼なりの修行を行っていた。
英雄になるためには健全な精神を育てることも重要だと考えていたので、稲刈りの手伝い、弟妹の世話、兄姉からの要求も献身的に励んでいた。
7歳になったら洗礼の日で自分の能力を知ることができる!
その日までに少しでも英雄に近い自分になろうと考えていて、来る日も来る日も努力をし、6歳になる頃には村の教会にある本も読めるようになった。
両親も兄妹も誰も字が読めないのに、魔法が使えるようになるには字が読めないとどうにもならないと思い、教会に足繁く通って勉強した努力が実ったのだった。
7歳の誕生日が近づいた夏の暑い日、初めてタリスは魔法を発現させた。
それは手のひらに火を灯すだけの、ごく簡単な火の初級魔法【フレイム】だったが、若くして才能を開花させることができて飛び上がるほど喜んだ。
両親にも喜ばれたが、火打ち石を使わなくても火がつけれる、冬はありがたい、薪の節約にもなる、などと少し思ったこととは違っていたが、自分に魔法の才能が開花してタリスは舞い上がっていた。
洗礼の日になり、神父様が洗礼の説明をしているときも胸の高鳴りは収まらなかった。
「洗礼の水晶に触れると文字が現れます。才があるものは自分の到達限界と現状のレベルが、才が無いものは文字として現れません。剣や魔法の才能がある場合は王都に士官するのもいいでしょう。特殊な才能がある場合はその才能を生かせる職につくと良いでしょう。では皆様に母なる神ラッカ様のご加護があらんことを。」
ソワソワしているタリスに隣の家の農家の娘のキリが話しかけてきた。
「あんた今日がずっと楽しみだったんでしょ?
剣と魔法の才能があるといいわね!」
この村は農家ばかりなので隣もまた隣も向かいの家も農家ばかりなのだが、農家で冒険者を目指しているタリスが珍しいキリは、よくタリスが剣を振るっている時にちょっかいを出してきていたので、神父様の話を真面目に聞いているふりをして無視をした。
続々と7歳になった子どもたちが洗礼の水晶に手を置き、自分の才能を親父様から聞いている。水晶に才能が文字として現れるようだが、この村の識字率は低いので誰も読めていないようだ。
自分の前、キリの番になった。
どうやらキリには馬術と弓術の才能があるようだが、
「うちにはとーちゃんしか居ないのに妹が3人もいるから、王都には行かないよ!」
と、どうやら農家を継ぐようだ。
自分の番になり、神父様が洗礼の言葉を言っていたが、耳に入らなかった。
洗礼の水晶に手を置くとすーっと自分から何かが水晶に伝わるような感じがあった。
神父様が水晶の中の文字を確認しに来たが、タリスは文字を読めるので、水晶を覗き込んでいち早く確認した。
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魔法
火 1/1
水 0/1
雷 0/1
風 0/1
光 0/1
闇 0/1
収納 0/9999
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神父様は言った
「すごい!
6属性の魔法に適正があるなんて、伝説の英雄以来じゃないか!
でも・・・到達限界が1だと初級魔法が限界ですね。
収納魔法の到達限界が囲みたことがないほど高いので、収納魔法を伸ばし
荷物運びが天職かもしれませんね!!」
洗礼が終わった子供は、水晶の前で他の子供達に一言何かを言う。
剣術の才能があったので、王都に士官して王を守る騎士になります!
とか、
鍛冶の才能があったから皆の農具が壊れたらうちに来てもらえるような立派な鍛冶師になります!
とか子供は元気いっぱいに夢を語る。
タリスは荷物運びが天職と言われたことが気にかかっていたが、
「僕は荷物運びにならない!
英雄になってやる!
収納魔法しか使えないかもしれないけど皆を助ける英雄になってやる!」
力強い宣言に、タリスの夢を笑う子供はいなかった。