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リューザの世界紀行  作者: 長倉帝臣
第1章 『神樹界 ~隔絶された世界~』
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第四十話 ジュノ編 ~本部~

 討伐隊の本部は村長の家のさらに奥、恐らくは即席で作られたであろう大型のテントの中にあった。テントとはいっても、仮設的ではあるがそれなりに牢として作られているようだ。円形に建てた木の土台に白い厚手布をかぶせるような形でテントは造られており、天井もまた骨組みによってドーム状に形作られている。


 本部に着いた時、テントの中に入ると既に先客が見えた。テント中央に設置された円卓を囲み十数人の人物が各々の席についている。


「ここにいるのは戦いで腕に自信のある村の精鋭たちだよ。それで俺もそれでここに呼ばれてたってわけ」


 テントへ入るなりゼディックはリューザの方へと向き直って軽い説明をする。


「へぇ、ひ弱そうなアンタがその中にいれられてるってことは程度が知れてるわね」


 ブレダはそう憎まれ口を叩いたものの、実際にその言葉は肯定せざるを得ない。


 円卓を囲んだ人々の顔ぶれを見ればわかることだが、はっきり言ってしまえばここに集められた人物たちはピンキリだ。大柄で全てを跳ね除ける勢いのある豪傑や鋭気溢れる若い闘志から、細身で武器の扱いに不安がありそうな女性や背丈の低い少年まで。


 この本部に集められた人々が一概に一級の戦力になるかと言えば、そうも見えない。


 そんな中で、最も先に目につくだろう人物は深紫色の髪と瞳の色を持つくすんだ緑色の袖なしコートを纏った大柄な男だ。手を伸ばせばそれ程低くないテントの天井に手が届きそうな巨躯もさることながら、その筋骨隆々の肉体はフエラ村で毎日のように力仕事をしていた漁師たちをも軽々と越えるものだった。目つきも鋭く、並大抵の動物が一度認識すれば一目散に逃げ出すことだろう。


 そして、彼以外に目立った人物がもう一人いる。明るい橙色の髪に鮮やかな緑の光を放つ双眸。円卓の最も奥に座る若い青年は、銀色の鎧を纏い、この場にいる者の中でもひときわ異彩を放っている。


 しかしその一方で、華奢な女性や小柄な少年もちらほら見受けられる。その中にはギャレットやクレルの姿も見えた。


 "魔術"という威力が未知数の存在があるのだから、見た目だけでその人物の力量を判断してしまうのはあまりにも早計なことかもしれない。しかし、それは敵とて同じこと。彼らの内の全員が全員、武器という村人側のアドバンテージを完全に生かし切れるとは限らないのだ。


 この程度の戦力で未だ見ぬ敵の狼と渡り合うことができるのだろうか。自分が言えたことではないとは理解しているもののリューザの中で不安が走る。


「遅いじゃねえか、ゼディック! お前が最後だ。どれだけ待たせれば気が済むんだ!」


 ゼディックを見るなり、先ほどの深紫髪の豪傑が怒りの声を上げる。どうやら、予定していた時間を過ぎてしまっていたことに苦言を呈しているようだ。


「悪い悪い。ここに来るまでにちょいと道草を食ってたんだ」


 ゼディックが軽く流して自分の席に向かって歩みを進めると、彼を制止するように怒気を露わにする。


「道草だと!? 討伐実施の前日にお前は何を考えているんだ!?」


「兄さん落ち着いて、今こんなところで言い合って至って仕方ないわ。彼も反省しているはずよ」


 大男の隣に座る気丈な雰囲気を持つ青髪の女性が、男を宥めようとする。そして、それに続くようにして二人とは円卓の真反対にいる薄檸檬色の髪をしている、リューザよりも少し背が高くブレダと同身長程度の人物が行儀悪く足に履いたブーツを円卓上にのせ、青髪の女性の言葉に乗っかる。


「そうそう。ドンガのおっさんはいちいちシビアすぎるんだよな。気楽にいこうぜ」


「盗賊風情が、知った口を聞くな! 大体ゼディック、お前はいつまで経ってもそうだ。俺はお前のそう言ういい加減な態度には嫌気がさしてんだ!」


 ドンガと呼ばれた大男は一瞬だけ薄檸檬髪の少年に怒号を飛ばすも、すぐにゼディックに向き直り再び しかし、少年の方はドンガの言葉に引っかかったようで彼に異を唱えていく。


「ちょっと、過去のことは水に流してほしいんだけど。今の僕に盗賊と呼ばれる謂われはないよ」


「そもそも、ハノン! なぜお前がここにいるんだ!」


 さらに別の場所から、ハノンと呼ばれた少年の方へと野次が飛ばされる。すると、堰を切るようにして多方向から言葉が飛び交い、円卓は無法状態に陥っていく。


「はぁ……、何しにここに来たんだか……」


 ブレダもこの状況に呆れかえっている。


 口角泡を飛ばし舌戦が繰り広げられようとしたその時――。



「口舌はそこまでだ」




 突如、凛とした声が響き渡る。その途端にテント内にいる者たちは、今までの喧騒が嘘のように瞬く間に口を閉ざす。リューザが声の主を確認してみると、その人物はやはり円卓の奥で悠然と人並みならぬ雰囲気を纏っていた橙色髪の青年だった。


 そして、青年は立ちっぱなしのままのゼディックに鷹揚とした態度で続ける。


「今は内輪もめをしている時じゃない。ゼディック、ドンガの言うように明日は狼討伐の当日。君のことは頼りにしているけど、もう少し緊張感を持つべきだ。君自身のためにもね」


「あぁ……悪かったよ」


 橙色髪の青年の言葉で、先ほどまではあまり反省を表に出していなかったゼディックが露骨なまでにその打ち沈んだ様子を彼に見せた。


「ドンガもそれでゼディックを許してやってくれ」


「はあ、ナハトがそう言うんなら俺は何も言わねえよ……」


 今の今までゼディックに業を煮やしていたドンガもナハトと呼ばれた男の一声ですぐにおとなしくなってしまった。その横でドンガを兄さんと呼んでいた青髪の女性がホッと胸を撫でおろす姿が見えた。


「ハノンについては、反対意見があるのは分かっている。だがまず聞いて欲しい。森に住むニファ様から山林の狼達が近頃不穏な動きをしていると聞いた。恐らくはこちらが生活の限界を感じて討伐を開始するのを見越してのことだろう。知っての通り奴らは人間同等の知能を得ている、一筋縄ではいかないのは確かだろう。そして、村長と熟考した結果として急ぎで彼の力を借りようという結論に至った。そのことに関してはこの後口述する作戦内容の若干の変更のことで話そうと思う。各々、賛否はあると思うが、そのことに触れるのは話の後からにして欲しい」


 ナハトがそう言うと、ハノンに文句を言っていた人物たちも互いに顔を見合わせて怪訝そうな表情を浮かべる。


 そして円卓の様子が落ち着いたのを確認すると、今度はナハトはリューザの方へと目を向ける。


「ところで、君たちは一体なぜここに?」


キャラクター紹介



ドンガ 39歳、討伐隊の中でも有数の豪傑。ゼディックやハノンを目の敵にしている。

ハノン 19歳、討伐隊に参加している人物。子供のような姿だが、この村では歴とした大人。

ナハト 30歳、討伐隊の指揮者となった青年。落ち着いた風貌と柔軟な機転の良さを持つ。

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