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リューザの世界紀行  作者: 長倉帝臣
第1章 『神樹界 ~隔絶された世界~』
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第三十八話 ジュノ編 ~解術師の小屋~

 部屋に入ると、リューザたちの目に飛び込んできた光景はなんとも異様な雰囲気を持ったものだった。


 室内を見回してみれば大小の気味の悪い形をした植物が鉢に植えられた状態で机や床中に並べられているのが見える。さらに、部屋を囲むようにして木の棚が部屋のいたるところに設置されていてそこには瓶詰の液体がいくつも置かれている。


「なんだか随分と青物臭いわね」


 ブレダは口鼻を手で覆いながらそう言う。確かに彼女の言うように、植物独特の香りが家中に漂っている。恐らく、部屋に並べられた植物のせいだろうが、それだけではない。この家を囲んでいた森の中で感じた青臭さに比べてこの部屋に充満した臭いは格段に濃いものとなっているのだ。


 そして、その他にも獣の臭いや正体不明の嗅いだこともない様な妖しい匂いをリューザは感じ取れた。


 ギャレットが床に散らばった鉢を避けるようにして歩いていく。リューザたちもそれに続いていくと、部屋の奥へと進み廊下へと出る。細い廊下には左右にいくつかの扉があり、廊下の突き当りの窓からは陽光が差していた。


 ギャレットは廊下の突き当りまで来ると向かって左側の扉をノックする。

 すると、すぐに中から返事があった。


「おや誰だい?」


 しわがれた声、恐らくは老女のものだろうか。その声が聞こえると、ギャレットはそれに答えることなく扉を開く。

 リューザもギャレット越しに部屋の中を覗いてみると、入口で見た光景とは全く異なるものがリューザの目に入ってきた。その部屋はあまりにも殺風景すぎたのだ。部屋内には見る限りベッドが一つだけ。奥の窓辺には机が置いてあり、その前に椅子に座って一人の人物が向こうを向いたまま何やら作業をしているようだ。


 そして、ギャレットたちに気が付いたのかふとその人物は作業の手を止める。


「あら、ギャレット。あんたが私に会いに来るなんて珍しいこともあるもんだねえ」


 その声とともにその人物は椅子越しに振り返るが、リューザはその姿を見て少々あっけにとられる。村から離れた場所に住む実力派の"魔術師"と聞いてどんな面妖な容貌をしているのかと身構えていたが、実際に今目の前にいる人物は緑のワンピースと着用し赤い布を肩にかけた年老いた女性だったのだ。その姿には威厳もなにもあったものじゃない、どこにでもいそうな十人並みの老婆だ。


 とはいえ、一方で雰囲気からは何物にも動じそうもない貫禄と、少し垂れながらも黒くまっすぐと貫いた双眸からは理知と思慮深さが見て取れた。


 老婆はリューザたちの方へと目を向ける。


「そっちの二人は……ああ、そう言うことかい」


 彼女は二人の素性を尋ねようとするもすぐに自己解決してに納得したように首を上下に振って頷く。


「私のことはもう聞いてるね? この村一の"魔術師"である、ニファ婆様だよ。まあ、この村自体、私に張り合えるほどに"魔術"が発達しているわけじゃあないんだけどねえ」


「なによ、自惚れちゃって」


 恐らくニファの言葉は半分冗談のつもりだったのだろうが、ブレダは真に受けて癪に障ったのかニファには聞こえないような小声で愚痴を漏らす。


「ええと、ボクたち――」


 説明をしようとするリューザをニファが制する。


「いいや、皆まで言わなくていい。こんな森の奥まで態々足を運んできたということは大方"魔術"を教わりたいということだろう」


 ニファは目を閉じて、リューザとブレダの方へと右手の手のひらをゆっくりとかざす。


「おや、魔術書かい? 珍しいものを持っているのねぇ」


「え……?」

 

 リューザはそんなものを持っていたのかと一瞬戸惑ったものの、ふとあることを思い出してハッと表情を変える。


「もしかして……!」


 そう言うと、リューザが麻袋の口を開いて中を漁りだす。そして、ふと手に触れた感触を確かめると袋の中からそれを取り出したのだ。


「……これのことですか?」


 リューザの手に その顔には困惑の表情が見られた。

 なぜなら、この巻物は……。


 戸惑うリューザにニファは間髪入れずに答えた。

 

「おお、恐らくそれだろう」


「それって……!」


 ブレダは驚いた表情でその巻物を見る。

 正直に言うと、リューザ自身も半信半疑だ。この巻物はアルマが村にいた時にずっと持っていたものだ。そして、どういう経緯なのかは不明だが、湖畔の森の遺跡との関係もあった。アルマの行方に近づくための最も重要な道標だったのだ。実際、リューザはこの土地にはアルマの手掛かりがあるのではないかと期待はしていたが、まさかこんな形でそれに相まみえるとは思いもしていなかった。


「魔術書は最も簡単に"魔術"を会得できる方法の一つさ。魔術書を"解術師"に託してその書に込められた術を解放してやるんだ。あとは、"魔術"の使用者にそれを付与すればいい。……ただ如何せん魔術書自体が数に限りがあるからね。一度で使いきりの魔術書の書き手もそう多くはないんだよ」


 ニファの言葉にリューザは我に返り、言葉を紡いでいく。


「そうなんですか?」


「そうさ、しかもこの一帯じゃあそもそも紙を使うこと自体が少ないからね。大抵のことは"魔術"による契約によって済ませるんだ。じゃあ、どれ、見せてもらうよ」


 そう言って、ニファはリューザが差し出した巻物を受け取ると、巻物を机の上に開いてルーペを手に取ると巻物の文字を読み始める。


「ふーん、魔術って何でもできちゃうのね」


「確かに魔術は便利だが、無条件で使えるわけじゃない。制約が伴っているんだ。魔術書なら、他の"解術師"に術を解いてもらえばそれで済むが、他の方法での会得だとそうもいかない。才能があって生まれながらに"魔術"を使いこなすものもいるがそんなのはごく一部。並大抵のものは自力で"魔術"を学んだり、時間をかけて修行したりする必要が出てくるからねえ」


「そっか……、ならボクが魔術書を持っていたのはラッキーだったかも……」


「あとは、場所の問題もある」


 それを聞いてブレダはマルサルも似たようなことを言っていたことを思い出す。


「ジュノの村では誰一人として魔術を使っていなかったろ。あそこには"魔術"の源となる"脈流"が通ってないからだよ」


「脈流?」


 疑問符を浮かべるリューザたちにニファは続ける。


「"脈流"は地中や大気中を流れる眼には見えない気の一種さ。"脈流"のある場所はそうそう変わることはないから、"魔術"を使いたいなら予めどこに"脈流"が流れているかは調べておいた方がいいだろうね」


「ふーん、でも"脈流"さえあれば便利な"魔術"を使い放題にできるんなら、"脈流"のある所に人が集まりそうなものよね」


 ブレダがそう言うとニファはは直ぐに答える。


「そういうこともあって遠国では"脈流"を巡って数十年かけた戦争があったなんて話もざらにあるくらいさ。魔術の発達した地域において脈流は必要不可欠なんだ。この村だって例外じゃな……」


 そう言いかけたところでニファは突然口を紡ぐ。


「おっと、これは村の者以外には口にすべきじゃないかね……。私も年のせいか耄碌してきたみたいだわ。さて……この魔術書は私が預かっておくよ。解読するには少々時間がかかるからね。そうだねぇ……多く見積もって三日もあれば終わりそうだ。それまでの間は村に滞在するといい」


 そう言うニファに対して、リューザは恐る恐る訪ねてみる。


「あの……対価は……」


「なぁに、クレルの恩人から金をとる気なんかないよ」


「どうしてそれを!?」


 驚いたリューザだが隣を見ると今まで表情を一切変えることのなかったギャレットが、覆われた口元は見えないが少し目元を緩めて笑みを浮かべてるのがわかった。


「それじゃあ、ギャレット。帰りもその子らを村まで送って行ってやってくれ」


 そう言うとリューザは礼を述べギャレット、ブレダとともに村への道を辿って戻っていく。

 リューザは村へ帰る道中、アルマに一歩近づけたことに望みを膨らませる一方で彼に対するさらなる疑問が心の中で渦巻き始めていた。


キャラクター紹介


ニファ  72歳、ジュノの森の奥に住んでいる老女。見た目は並大抵の老女だが、解術師として名を馳せている。

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