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情報収集! 成果は如何に?

少し間が空いてしまいました。

冒険の基本は情報収集です。詳しい会話内容まで書いてしまうと大変なので、様子を想像しながらお読みいただけましたら幸いです。

 翌朝、って言っても大分お昼に近い時間まで僕たちは寝入ってしまったんだけど、軽く食事を済ませてから(やっぱり不味かった……)、バズに心当たりをいくつか聞いて、僕たちは二手に分かれて情報収集を開始した。

僕とクリストが一緒になると、まとめて襲われる恐れもあるし、第一、ノイズとリードを二人にすると何をしでかすか分からない。それに、女同士っていうのも危ないっていうんで、珍しく僕がリードと一緒に行動することになった。女同士でもノイズの戦闘能力は極めて高いから大丈夫だろうし、僕もいざとなったら攻撃呪文があるからとは思ったんだけど、念のためにね。

 今回の情報収集のターゲットは、アパートの多いこの街の中で、一軒家を持っている人たち。一筋縄じゃいかないだろうけど、避けては通れない道だからね……何事もなく終了することを祈るしか、僕にはできなかった。


情報収集を開始してからおよそ二時間が経過していた。

「ありがとう。それじゃ少ないけどこれ、情報料ってことで受け取ってくれる?」

「いやいや……久し振りの現金収入になったのぅ……。こっちこそ感謝するよ、気ぃつけて行って来いよ、お若いの」

「おう、爺さんも長生きしろよ?」

 リードの言葉に、半ば以上歯の抜けたその口を笑みのかたちにして爺さんが応える。僕たちは軋むドアをようやく閉めて、アパートの路地裏に傾きながら建っていた一軒家を後にする。

 僕たちの行動は、思った以上に気持ち悪いくらいに順調に進んでいた。

 昨日酒場で聞いたように、僕たちは一軒家を持っているお年寄りを中心に聞き込みをしていた。今回の爺さんも、昔は冒険者として各地を旅していた人で、同じく冒険者という道を歩む僕たちを歓迎してくれた。今回の冒険の情報に限らず、彼らの経験から得た知識というものも譲ってくれたんだ。

情報だって立派な資源だし、それを基に商売をしている人だって存在しているわけだから、情報分の礼金というのもしっかり払ってある。僕たちの懐具合も決して豊かではないんだけど、予想に反して謙虚な人たちばっかりで、正直助かっちゃった。こんな街に腰を据えてる人たちだから、もっとがめついのかと思ってたんだけどね。

……この街には何か、人に疑念を抱かせる大きな要素があるような気がしてならないんだよね。あのパスランと関わってるらしいから、そう感じるだけなのかなぁ。

「なあルシア」

 前を歩くリードが不意に振り返って声をかけてくる。

「何?」

「腹減らねえか?」

「………………うー……ん……宿のご飯美味しくなかったからさ……あんまり食べれなかったから、空いてると言えば空いてるんだけど……」

 と、言葉を濁す僕。リードの口が少しだけニヤっとしたのが見えた。

「どっかで休もうぜ? 果物くらいだったらそんなに不味い物ねえだろうしさ」

「ん、果物だったらいいかも」

 順調に情報収集が出来てるから、僕にも少し余裕があるみたい。リードの提案に賛成して、今度は一軒家じゃなく、果物が並んでいるお店を探して歩き出した。

 僕たちがこうして青空の下をのんびりと歩いている間、ノイズとクリストの話になったんだけど、今回はあんまり心配していない。クリストのことはいつも心配なんかしないんだけど、場所が場所だしね。だから心配っていうよりは、どれだけの情報が集まるかに期待してるんだ。

 気が付くと、僕たちは裏通りを抜けて、街の西側の通りに出ていた。

「お、おいルシア、ここ!」

 少し前を歩いていたリードは、言うと目的地に向かってダッシュした。その背中を追っていくと、かすれた看板とはがれかけの屋根の下、くたびれたガーデンテーブルとガーデンチェアが見えた。もう少しで潰れてしまいそうな店頭の台の上には、カラフルな果物が並んでいる。

「へえ……」

「ここならどうだ?」

「うん、いいんじゃない? あ、こんにちは」

 答えてリードの向かいに陣取ると、ぼろぼろの建物の奥から、人の良さそうなおばさんが出てきた。

「いらっしゃい、あんたたち旅の人だね? この街の連中は滅多にここにはこないからねえ。で、何が欲しいんだい?」

 決してスマートとは言えない体型のそのおばさんは、エプロンからメモ帳を取り出しながらゆったりとした口調で聞いてきた。

「そ、冒険者だよ。取り敢えずさ、飲みやすい物と……ちょっとつまめるものがあればありがたいんだけど」

「ふふふ……街の食事は口に合わなかったようだね? ウチのはそんなに不味くないだろうから、安心しなよ。そっちのお兄さんはどうするんだい?」

「あんま期待させないでくれよ、おばさん……俺もこいつと同じ物で頼むわ」

「はいよ、ちょっと待っておくれよ」

 リードと僕に笑いかけて、おばさんは店の奥に引っ込んでいった。

「リードってば失礼だよ、あんなこと言って」

「冗談だと思ってくれてんだろ? いいおばさんじゃねーか。……それより、クリストたちはどこだろうな?」

「さあ……僕たちとは反対側方面に行ってるからね。ここはどうやら西の端に近い場所だろうし」

 鞄からマップを取り出して眺めながら答える。それほど重要視してなかったんだけど、知らない街だし、情報収集に出る前に街のマップを買っておいたんだ。こうなってみると、本当あってよかったかな。この街の通りは複雑で、後から建物が増築されたりしていて、マップが無ければ完全に迷子だ。

ノイズたちは街の東側に行っている。夕食の時間に合わせて宿に戻ることにしてるんだけど、二人も僕たちと同じようにお腹空かせてるんじゃないかなぁ……。ここみたいに親切なお店が見つかるといいんだけど。

「まともな店がここだけってワケねーだろうから大丈夫だろ」

 僕の言いたいことを察したのか、彼なりに気遣っているらしい。……けど、冷たいフルーツジュースと手の平サイズのフルーツワッフルが目の前に置かれると、あっという間に食べる方に意識が集中したらしい。味の話しかしなくなった。

「んー……新鮮で美味しい! 久し振りだね、こんなの食べるの。ねえ、ノイズとクリストに持って行ってあげようよ?」

「もごぅ……んだな」

「………………口の中に詰めすぎだよ、味わって」

「むぅ」

 何となく溜め息が漏れてしまった。ストローに口をつけて、リードから視線を外すと、ふと目に入ったのは二つの人影。

「あれ?」

「ん?」

 まだ口の中に入っているのか飲み下した後の返事なのかよく分からない声を出すリードも、僕から視線を外して、僕の目線の先に顔を向けた。

「あ、やっぱり二人だ! おーいっ! ノイズ、クリストーっ! ここだよここ!」

 叫びながらグラスを持っていない方の手を思いっきり振ってみる。二人もすぐにこちらに気付いたようで、小走りに近寄ってきた。

「どうしたの二人とも? 東側に行ってたんじゃなかったの?」

 二人に空いている椅子を勧めながら問う。ちょうど店のおばさんも出てきてくれたので、二人の注文を聞いてから、質問の答えを待つことにした。

「あんたらねぇ……二人だけでこんな良い店発見するなんて狡いわよ。ねえクリスト?」

「本当、道に迷って正解でしたね、ノイズ?」

 正直なことを言っているのか、嘘はついていないけど多少の皮肉を言っているのか分からない口調でクリストがノイズに答えた。

「ちょっ、何よ? あたしが悪いわけ?」

「いえ、そうは言ってませんよ……ただちょっと……私の話も聞いて欲しかった、と……」

 ノイズの一睨みがクリストの言葉を曖昧なものにしたようだ。この雰囲気から察するに、地図を見ながらも暴走したノイズを、クリストが止められなかったらしい。

「違うのよ、ちょっと近道しようと思って、屋根の上に架かってる橋を渡ったら降りるところがなくて、気がついたら西地区に入っちゃってただけよ」

 運ばれてきたフルーツジュースに口をつけて、ノイズが決まり悪そうに説明した。

「でも良かったじゃないですか、ノイズ。さんざんお腹すいた喉かわいたって言ってましたしね」

「ま、怪我の功名ってやつよね」

 メニューの数が少ないのが難点ではあるけれど、僕たちはしばらくの間、疲れた体と乾いた喉、そして空腹に嘆いていたお腹を満たすことに専念した。

 ジュースのお代わりをそれぞれの前に置いて、僕たちはその場で、これまでの情報を整理することにしたんだけど、集めてきた情報量はこれもまた予想以上だった。

「樹海って、ここから見えるあの大きな森だよね? どうやって抜ける?」

「いきなり大問題だよな」

「うん。話じゃこの樹海って……コンパス使えないんだよね……。地下に通路があるって聞いたんだけど、それは?」

 僕たちが集めた情報には、食い違うものがなかった。それはどういうことか。……その情報がほぼ正確であることを意味している。

 で、情報によると、目的の遺跡に辿り着くためにはどうしても、街との間にある樹海を抜けなくちゃならないんだ。だけどその樹海、前から噂程度に聞いていたように、コンパスが狂わされるらしい。おまけに昼間でも太陽の光が届かずに薄暗く、昼夜を問わずにモンスターが徘徊しているという。

 そして遺跡に入るためのルートというのもちゃんと存在しているらしく、その地下通路を通れば樹海を抜けることができるという。ただ、僕が言うように、その地下通路に行くためにはやはり樹海を通らなきゃならない。それはほんの短い距離なんだけど、通路に案内板があるわけじゃないから、どうしても樹海には入らなきゃならないんだ。

「距離的には、普通に歩いて半日程でしょうか……短いとは言え迷ったら出られないでしょうね」

「そうね……いきなり行き倒れ、なんてあたしはご免だわ」

「俺だってヤだよ……」

「それじゃ王道」

 僕が提案したのは、ロープを使う基本的なマッピング。四人がそれぞれ同じ長さのロープを持って、正方形を作りながら地道に進んでいく方法だった。

「面倒臭えけど、それしかないか」

「街を出る前に方角だけ確認して、出発地点を考えなきゃね」

「よし、じゃ一旦戻ってもう一回作戦会議だな」

「うん」

 言って僕たちはほぼ同時に椅子から立ち上がる。またしてもタイミング良く現れたおばさんに代金を払うと、おばさんは何やら楽しげな顔。ふと目をやった店の片隅に、古いけれど立派なブロード・ソードが立てかけてあるのが見えた。……このおばさんも冒険者だったんだ……しかも多分ファイターだ!

「おや、あれを見つけてくれたのかい? アタシの剣さ。両親が冒険者でね、そのパーティにくっついて、よく冒険に出かけたもんさ。あんたたちの楽しそうな話聞いてたら懐かしくなってね……。あんたら、西のパスランの遺跡に挑戦するのかい?」

 おばさんは懐かしそうに目を細めて、僕たちの頭越しに西の樹海に視線を置いた。つられて僕たちも視線を送る。……って、パスランの遺跡? 僕は弾かれたようにおばさんに視線を戻した。

「知らなかったのかい?」

「いえ……何となく……そうじゃないかなーとは……」

「この街に住んでてもその話をする者はそういないだろうからねぇ。昔アタシの両親が調べてるのを見たことがあるだけなんだけど、あの樹海の中心が伝説発祥の地さ」

「ほんとに……?」

「ああ、その真偽を確かめるってだけでも、あんたたちは勇気あるわね。期待してるからね!」

 バシッと僕の背中を叩いて、おばさんは満足気な表情だった。

『ありがとう!』

 僕たちは声を揃えて叫ぶようにおばさんに応え、足取りも軽くその店を後にした。


 街を出て、樹海を少しだけ通り抜けて地下通路に辿り着いたら、そこから伝説の都市へ。

 期待は高まる一方だった。不安がないわけじゃないけど、これから始めようっていう気合の前では出番なし。僕たちは宿の部屋に戻ると、集めた情報をしっかりとシナリオに書き加え、ついでに買い足しておいた装備品や道具をチェックして準備を調えた。

 ……そして翌朝。

「行くか!」

「ええ!」

「うん!」

「行きましょう」

「えれえ気合入ってんじゃねーか、坊主ども!」

 横に並んだ僕たちの後ろから、バズの大声が聞こえてきた。彼にも今回の冒険のことは話してあるし、ここまで来るのにお世話になった馬と馬車のお世話を頼んであるんだ。樹海に馬車は連れて行けないからね。バズは快く引き受けてくれて、食料の調達にも協力してくれた。

「おうよ。それじゃバズのおっさん、馬と馬車、頼んだぜ?」

「おう、安心して行ってきな。生きて帰って来いよ」

「ああ、サンキュ!」

 バズの大きな声に見送られ、僕たちは地図の上で確認した、街の西端のポイントへと出発した。

 空は雲ひとつなく晴れ渡り、乾いた風が頬を撫でる早朝、新たな僕たちの冒険が始まった。


  ッゴウッ!   バキバキみしめしっ……

 一陣の凶悪な風が、周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりの勢いで逆巻き消える。女の細い腰周り程度の木々が半ば以上抉られるほどの威力を持った魔法の風は、僕たちの周囲を取り囲んでいた無数のモンスターを薙ぎ払っていた。そして……

「あ。ごめん!」

 役目を終えたはずの凶悪な風は、真っ直ぐ重力に逆らい空へと抜ける。が、一部が流れに反して僕たちがやって来た方向へと逸れていった。……失敗しちゃったみたい……。

「ルシアっ! あんまり凶悪なの使うなよ!」

「そうよ、リードはともかくあたしに当たったらどうすんのよっ!」

「てめっ……俺はともかくってどういうこった?!」

「ごめんって最初に言ったでしょ! それより二人とも、ちゃんとロープの端持っててよ」

「二人とも大丈夫ですか? ……はい、できましたよ。もう離して大丈夫です」

 リードとノイズの抗議の叫び声、それをたしなめようと努力しつつも怒鳴り返している僕の声、そして落ち着き払ったクリストの声が、多種多様の植物が混在する樹海の森に響き渡る。

「これで何回目だよ……?」

 疲れきった表情は体力的なものだけが原因ではないだろうリードが、早くも情けない声を上げている。

「……何が?」

 僕も似たような顔をしてるんだろうけど、やっぱり似たような声を出して、一応リードの疑問に反応してみる。

「何がって……ロープ持って走るのと、モンスターの襲撃」

「襲撃はさすがに数えてませんけど……、マッピングの回数なら答えられますよ?」

 メモ帳をパラパラと眺めながら答えたのはクリストで、今までやってきたロープを使ったマッピングをしっかりと記録しているのも彼だった。

「いい、いい! 言わなくていい! 聞いたら残り回数も言うだろ? 余計疲れるから聞かないことにする」

「……賢明ですね」

「ってことは、まだまだ先は長いの?」

 クリストの言葉に反応したのは、今まで黙っていたノイズだ。体力を使う仕事は得意分野のはずの格闘組の二人なんだけど、単なる戦闘じゃないし、ましてや成果が目に見えてはっきりと分かる仕事じゃないのとで、まるで覇気がない。

 樹海に入る前、街を出る直前に、これから進もうとする地下通路までの入り口を目指したマッピングを開始。あらゆる方向にその枝を伸ばす木々の間を縫って、ロープで正方形を作りながら地道に直進してるんだけど、これがまた大変な作業だった。

 だだっ広い場所でやるのとは大違いで、まずロープを直線に伸ばすことが難しかったんだよね。普通の森ならここまで苦労はしないんだろうけど、今回は普通じゃなかった……。

お読みいただきありがとうございました。


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