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エピローグ〜冒険終えて〜

しばらく間が空いてしまいましたが、今回のお話はこれで終わります。

現在シリーズの続編考案中。

 賑やかな昼食が終わって、僕たちは満腹を抱えて部屋に戻ってきた。みんなで食べると美味しいね、って、いつも以上にそれを実感する昼食だった……。

「あー、ちょっと食べすぎちゃったなぁ……眠くなるぅ」

「さあ、眠くなっている場合ではありませんよ。荷物を片付けましょう。それに」

「預けてあった馬車の整備だよね。これはリードに」

「おう、任せとけよ」

「でも結構時間かかるよね」

 そう、ここに来る時に通った街道でボロボロになっちゃったあの馬車。穴に落ちたりもしたしね。で、そのままバズに預けてあったんだよね。

「じゃあ僕たちは」

「荷物の整理ね」

 と、簡単に言ってはみたものの……毎回のこととはいえ大変なんだよね。細かいところまでチェックして、泥や煤で汚れたものをきれいに落とす。損傷がないかもその時にチェック。そして、次に使いやすいように整頓して鞄に戻す。汚れ落としが一際大変なのは、ありとあらゆる隙間にゴミなんかが詰まっちゃってるからなんだよね。毛布にしてもそうだし、調理器具の隙間とか、細かいところが大変なの。

「私はリードを手伝ってきますので、お二人はこちらをよろしくお願いしますね」

「うん!」

「任せなさい!」

 言ってクリストはリードを追いかけて部屋を出て行った。クリストが手伝ってくれるんだったら、馬車の方も大丈夫だよね。……ちなみにリードの手入れが雑なわけでは決してない。むしろ逆で、リードの手入れはすごく丁寧なんだよ。それをクリストが手伝うとなると、より一層きちんと整備されるはず。

 僕たちは使ってきたいろんな道具をきれいにしながら、パスランの遺跡を思い出していた。リードたちもきっと、同じようなことを考えてるんだろうな……。

 一つの冒険が終わるたびに、僕たちはどことなく切ないような、満足したような、どちらともいえない気分になる。

 そんな気分も、冒険の醍醐味。旅の疲れも、モンスターの恐怖も、お宝を発見した時の喜びも、出会いも別れもたくさんあるけど……それも含めて全部、僕たちの財産になるんだ。

 町へと帰るその準備も、着々と進んでいる。


「じゃあな、みんなっ! 元気でな!」

 リードの声が、早朝の『犯罪街』にやたらと響く。

「おうっ、お前らも元気でな! 嬢ちゃんの小説と姉ちゃんのダンス、いつか見に行くからよ!」

「ありがとうバズ!」

「絶対来るのよ! あんたたちもねっ」

 バズのダミ声も、僕とノイズの声も、それに続く冒険者たちの声も、街の貴重な早朝の静寂を破って高らかに響き渡る。

「またどこかで会おうな!」

「ちゃんと冒険してろよ、お前らっ!」

「いつか君たちの町にもお邪魔するよ」

「ええ、待っていますよ」

 賑やかなお別れだった。

 街の灯は消え、朝日が眠そうに頭を持ち上げるこの時間、ひとときの静寂を迎えるはずの『犯罪街』の一部は、かなり傍迷惑なお別れの場となっていた。

『お世話になりましたぁっ!』

 僕たちはそろって声を張り上げ、歪んだ門の外側から一礼。それからは、振り返ることなくあの街道を真っ直ぐに進んでいく。街はあっという間に周りを囲む森に隠れて見えなくなった。


 ……きた時に襲われたような悲劇はないにしろ、やっぱりこの街道……

「タチ悪いったら! うわきゃあっ!」

   げしいっ!

 ノイズの悲鳴と回し蹴りが同時に炸裂、哀れな森のモンスターは驚きの咆哮とともに森の中に回れ右。

 そう、この街道の噂も忘れてた。ダンのパーティと出会ったとき、この街道のモンスターや嫌がらせのようなトラップは、彼らが仕掛けたものばかりだと思っちゃったんだよね……。っていうか、わざわざシナリオを売りつけるためだけに僕たちの町に来てたってことなのかな……まぁ別ルートもあるワケだけど……良く分からないな……あの人たち。

 でもここ、周囲を取り囲む森から現れるモンスターは、嫌がらせでも呪いでもなく、実際に起こるもの……言わば自然現象だったんだ……。この街道が使われていない理由が今になって理解できたよ……。

「やっぱあいつらの仕業でした、なんてことはないよな?」

 飛びかかってくるサルのような動物(これはモンスターの類じゃないよね……)から必死に自分の髪の毛を守りながらぼやくのはリード。

「ええ、シナリオの術は完全に解けていますから、これは……」

 苦笑しながら一人結界の中で静かに応えるのは、当然の如くクリストだ。なぜ彼一人が結界の中かというと、みんなが結界に入っちゃったら、襲ってくるモンスターに攻撃できないから。ちなみにいつも僕たちの身を包んでくれるアレは……忘れたんだよね。タイミング的に難しかった。

「ウィル・ガッシュ! ……キリないね、やっぱり」

   ヴァヒュンッ!

 みんなの道を開けるべく、進行方向に向かって何度目かの景気の良い攻撃魔法を放つ僕も、そろそろ疲れてきちゃった。

 『犯罪街』を出て、街が見えなくなった途端にこれだ。

 森から凶悪な顔つきのモンスターや、単に僕たちをエサとして標的に定めた猛獣に襲われながら、僕たちはしかし確実に、僕たちの住む町への道を辿っていた。

 ……まあ、あの『嫌がらせ』がない分ずっとマシなんだけどね……。せっかくキレイにしてきた馬車も、すでに泥だらけのキズだらけになっちゃった。

「ねえクリスト、今どの辺り?」

 華麗なステップでモンスターの牙を避け、一発喰らわせた流れ作業のついでのように、ノイズがクリストに向かって声をかける。

「まだまだ。五分の一程度も進んでいませんよ。もともと平坦な道のりだったとしても、一週間はかかるとみてくださいね。モンスターたちとの戦闘も含めて」

「そうだね、行きはその三倍もかかったもの。少しでも楽になったことに感謝しようよ。あとバズのお弁当にも。ね、リード?」

「おうっ、今夜はそれに期待して、今は前進あるのみ!」

 叫んで目の前の猛獣に勇敢にも斬りかかる、命知らずなリード。……が、いつもの如くステップが甘い。いきなり返り討ちにあったリードを猛獣ごと蹴り飛ばしたのは、これまた言うまでもなくノイズだった。

 そう、あの『犯罪街』唯一の宿屋の主・バズは、僕たちの帰路に食料を用意してくれてたんだ! 一週間分の食料も彼が用意してくれたもので、僕たちはその中身を見てびっくり! 馬鹿みたいに口を開けたままでバズのことを眺めてたっけ。

 帰り際、僕は自分の分け前の中から少しだけ、お礼も含めて宿代よりも多めに渡してたんだ。僕以外のみんなも、こっそりと彼にはお礼を弾んでたみたい。受けた恩義はしっかり返す。これも、冒険者の心がけってやつだね。


 両脇の森から襲ってくるモンスターや猛獣たち、そしてエサを求めてリードを揶揄いに来る野生動物を片っ端から追い返し、僕たちはゆっくりと進み、森でのキャンプもそろそろ飽きて来た頃。

「着いたぁ〜」

「着いたよ、やっとね」

「着いたわ〜」

「着きましたね」

「ヒヒーンっ!」

 ちょっと疲れた僕たちの声に続いたのは、かなり元気だった馬だった。

 行きの街道では馬も馬車ごと酷い目に遭ったからね、今回はほとんど無傷での帰還となった。……荷台部分は結構……ボロボロだけど……。

 …………帰りの道、ダンたちに別ルートでも聞いておくんだった…………。

「ルシア………………それは言うなよ」

「………………」

 僕の頭の中を覗き込まれたみたいだった。僕はひとつ大きく息を吸い込んで、吐く。すると……

「んー……っ、なんか懐かしい匂いがする!」

「そうね、久し振りね」

「とりあえず、だ」

「みんなでご飯でも食べに行きましょうか?」

「お? お、おう!」

 いつもなら真っ先にリードが言うの台詞だけど、今回は珍しくクリストに先を越されてしまった。一瞬振り上げた拳を宙に彷徨わせてから、それでも気を取り直して拳を突き上げ、先頭切って歩き出すリード。僕たちも、急に襲ってきた空腹を抱えて歩き出す。

 目指すは、僕たちの馴染みの食堂のある、いつもの場所!

「あの宿屋も変わってたね……」

「元が監獄だったと言っていましたか」

「うん」

   がちゃり……

 クリストと話している間に、リードが入り口ドアを開ける。比較的重厚なデザインの、両開きのドア。その片方を押し開けて入った先には先客がちらほら。

 到着したのがお昼少し前。宿泊客や町のあちこちから集まってくる時間帯だ。

「お? おおおっ?」

「ん? おうっ!」

 店の奥から聞き慣れた声が『お』を連発する。リードが気軽に声をかけたのは、この店の料理長だ。……普段の料理は宿の主人が兼任しているけど、それとは別に食堂を仕切っている人がいるんだ。

「お前ら、帰って来たのか? いつ?」

「今さっき。だから腹減ってんだよ、適当に四人前頼むよ」

 ちょっとそこまで、買い物帰りのようなリードの台詞。この料理長も含めて、もちろんというかなんというか……町の人はほとんど、僕たちがどこに冒険に出ていたのかを知ってるんだ。出発の朝、ものすごい激励を受けたしね。……無事に帰って来れて良かった……。

 こんな物思いにふけっている間にも、料理はどんどん運ばれてくる。空腹を刺激する香ばしい匂い。みんなのお腹がいっせいに鳴った。


 料理長自慢の『おまかせコースを』きれいに平らげた僕たちは、今回の冒険を簡単に話して聞かせた。これが明日には、この店を訪れるお客さんたちに余すところなく伝授される。もちろん、尾ヒレハヒレもついてくるけど。

 僕たちは、デザートまで詰め込んだお腹を抱えて町の通りをゆっくりと歩いていた。

 宿に落ち着く前に、やっておかなきゃならないことが沢山あるからね。

 まず、お世話になった馬車とお別れ。結構強引に貸してくれた、気前のいいおっさんの店の前で、馬と荷台を返す。

「おう、嬢ちゃん! 無事に帰って来てくれて嬉しいよ、俺は! しっかり店の名前、覚えてってくれよ?」

「うん、分かってるよ! ありがとう!」

 それから、アイテムをそろえたお店や、情報収集で回ったお店にも顔を出して、お礼と一緒に冒険の成果を報告。そんなことを繰り返して、僕たちが落ち着いたのは、太陽もかなり傾きかけた頃だった。


 僕たちがいつもお世話になっている宿。……さっき食事を摂った食堂の二階の客間にふた部屋借りて生活してるの。

 みんな何気なく一つの部屋に集まって、何をするでもなく時間の経過を感じていた。じんわりと、足の先から疲れが忍び寄って来ていた。

 古いけれども磨かれて、キレイな木の床に直接座り込んで、僕たちはしばらく、帰って来たことを実感していた。

「帰ってきたな」

「終わったんだね……」

「あんたは小説、書くんでしょ?」

「私も、冒険の記録をまとめないと」

「うん……でも。……楽しかったよね?」

『うん』

 そろって頷いて、僕たちは顔を見合わせ大爆笑。緊迫するシーンも悲しいお別れもあったけど、全部含めて『楽しい』って言えること、そして今こうして笑っていられ自分たちがいることに、改めて感謝。


 それぞれの部屋に戻ってベッドに入っても、冒険の余韻はしばらく抜けそうになかった。余韻に浸っているうちに疲れも手伝って、僕は一番落ち着く自分たちの『住む町』で、ゆっくりと眠りに落ちていった。



 さあ、今回の冒険のお話はこれで終わり。

 僕たちが手に入れた『お宝』の行方、それはみなさんのご想像におまかせしますね。

 今度みなさんにお会いできる時には、また新しい冒険の話とか、僕たちの出会いの話とか、色々できたらいいなぁ……と、思っています。それでは、僕たちももう少しお休みします。目が覚めたら、また、僕たちのお話を聞いてくれますか……?

ご愛読ありがとうございました。

このシリーズは作者的に気に入っているものなので、いつかまたお会いできれば光栄です。


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