表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

始まりの街・犯罪街へ

家に帰るまでが冒険です。彼らの家はまだ遠い町にありますが、とりあえずひと段落でしょうか。

 地下通路ではみんな無口で、ただ歩いた。だけど、抜けた先の樹海、そこではしんみりと無口でいるワケにはいかなかったんだ……。

「忘れてたけど、ここってば迷うから! あんまり遠くに行かないでね!」

 叫んでから攻撃魔法を一発。

「だからあんまり凶悪な魔法使うなっ!」

 すれすれを掠めていく攻撃魔法を躱しながら、リード。遠くからノイズの叫び声がけたたましく響いてくる。木々の間から彼女の姿がちらりと見えた。

 そう、この樹海。最初にここに来たときにしっかりと目印をつけたはず。……なんだけど、どうやら木々も好き勝手に動いているのか成長しているのか……つけた目印がどこにもない。

 ……というワケで、僕たちは来たときと同じように、地道に目印をつけながら街へと戻る羽目になったんだ……。あれだけ苦労した、ロープを使う方法でね。

 ようやく街に辿り着く頃には、陽もすっかり傾いてしまっていた。

 ヴォイドと別れた悲しみも、直後の苦労に消されちゃったみたい。きっと同じ苦労をするんだろうけど、また会えるならそれもいいかな。

「なんだかえらく懐かしいのは気のせいかしら……」

 埃と泥にまみれて、通称『犯罪街』の門の前に、僕たちは立っていた。充実した気持ちで門をくぐるのは、もう少し時間が経ってからのこと。


「おああっ⁈  お前らあぁっ!」

 いきなりダミ声で叫びながら僕たちを出迎えてくれたのは、街に一軒しかない宿屋の主人、バズだった。

 歪な門をくぐって間もなく、買い出しの帰りなのだろう両手に荷物を抱えていたバズが、その荷物を振り回しながらこちらに向かって走ってきたのだ。……荷物がいくつか飛び散ったよ……バズ。

「おお、バズのおっさん!」

「お前らあぁ! 無事だったんだなあ! よく帰ってきてくれたぁっ!」

「ちょ、ちょっと待て! その勢いで抱きつくんじゃねえぞっ!」

 荷物を自分の一部のように扱ったまま、僕たちの中心にいるリードに向かって全力ダッシュしてくるバズ。あのガタイで抱きつかれた日にゃ、いくらリードでもかすり傷少しと大きな精神的ダメージが残るだろう。

 なんとか身体を捩ってバズの抱きつき攻撃から逃れたリードが、勢いで吹っ飛んだ荷物のいくつかを拾って、バズの気持ちが落ち着くのを待つ。

「いやぁお前ら……そのナリ!」

 勢いよく僕たちのいる場所を通り過ぎたバズが、戻ってくるなり今度は大爆笑を始めた。……人に言われるまであんまり自覚してなかったんだけど、僕たち、とんでもなくボロボロの格好をしてるんだよね……。

 泥汚れは主にあの樹海が原因なんだけど、その他にも冒険の傷跡というか勲章というか……服も自分たちもキズだらけ。この街に最初に入ったときもボロボロだったけど、今はそれ以上だった。

「よほどの道のりだったらしいな?」

 笑いを少しだけ引っ込めて、バズ。

「おうよ、土産話ならいくらでもやるぞ」

 胸を張って、リード。

「話もいいけど、お宝とかはねーのか?」

「ある。あるが宿代以外は払わねえぞ」

 キッパリと言い放つリードに、あからさまにがっくりと肩を落とすバズ。

「そんなこと言わないでよ、リード。出迎えてくれたりもしてるんだから」

「い〜コト言うねえ、嬢ちゃん!」

 荷物を持ったまま、器用に手のひらだけで僕の背中を叩くバズと一緒に、僕たちは彼の経営する宿への道を歩き出す。

 街は夕闇に包まれようとしていた。だけどこの『犯罪街』、昼でも夜でも関係ないみたいで通りは賑やかだ。静かなのは明け方だけだと、街で唯一の宿の主、バズが教えてくれた。


 宿に着くと、買い出した食材でバズが夕食を作ってくれた。

 この街での最初の食事が、この宿の地下にある酒場兼食堂でのアレだったんだけど、今回は別。バズが気を遣って部屋まで食事を持ってきてくれたんだ。……この味がまた意外も意外。

「美味いな……バズ」

「ええ……美味しいわ……」

「意外……すっごい意外……」

「……………………」

 みんな想定外の味に言葉が出ない。いくら野宿続きだったとはいえ、そしていくら身体が疲れていたとはいえ……それを差し引いてみても、美味しい。

「なんか……久し振りだよね、こういうご飯って」

「だな、美味いしな」

「口にモノ入れたまま喋んないでよね」

「今日くらい許せ!」

「イヤよ」

「まあまあ、落ち着いてください二人とも」

 いつも通りの、僕たちの食事風景。

 みんなきれいに食べ終わった頃には、身体の疲れが一気に襲ってきた。満腹も手伝って、瞼がだんだんと重くなる。一人のあくびが伝染。眠気と疲労は極限だった。

「じゃあ、おやすみ……」

「おやすみぃ」

 重い身体を引きずって、僕たちはようやくベッドに辿り着いた。荷物の整理もまったく手に付かない状態で、帰ってきて装備品を外したその格好で、あっという間に眠りに落ちた。

 ……目が覚めたのは、次の日のお昼だった。


「リード、いい加減に起きなさいよ!」

 げしげしと遠慮のカケラもなく、毛布にくるまったリードを蹴り起こすノイズ。今回はクリストも止めることなく、代わりに少しだけ苦笑い。僕もその後ろで声をかける。

「あんまり寝てると脳みそにカビ生えるよ」

「そうよ、これ以上おかしくなったらどうすんのよ?」

 もぞもぞっ、と毛布が動く。

「お前ら……その言い方はヒドくないか?」

「いい加減に起きなさいってことよ」

「ええ、そろそろ起きましょう、リード」

 クリストも、穏やかだけど彼を起こす。

「そろそろ起きて、荷物整理しましょう。街の人にもお礼を言いに行かなくてはならないですし」

 彼の言うお礼というのは、この街で情報収集をしたときにお世話になった人へのもの。あの遺跡で『お宝』を手にできたのは、その情報を教えてくれた人たちのお陰だからね。それを、少しだけどお礼として渡そうかって話してたんだ。

「そうだよ、リード。帰るための準備も進めていかなきゃならないんだし、起きてよ、もう!」

 ちょこっと顔を出したリードの毛布を、僕は勢いよく引っぺがした。寝癖と寝跡だらけの寝ぼけた顔が、かなり不満気だった。

「うぅ……ダルい……」

「あんた……夜中に起き出して一人でこっそり酒場に行ったわね?」

「うん。お酒クサイよね。」

「一人でこっそり呑んだバツですね。さあ時間も時間ですし、お食事を頂いて、行動を開始しましょう」

「おう! そうだな!」

 これ以上『こっそり一人酒場』を追及されるのを避けたのか、リードは勢いよくベッドから抜け出した。……もしかしたら、クリストの『お食事』に反応しただけかもしれないんだけどね……。

 この時間のお食事というと、朝はすでに終わってしまっているので、必然的に昼食ということになる。だけど……

「またバズが作ってくれねえかなぁ」

 大きく伸びをしながら、リード。

「それがねえ、さっき探してたんだけどいなくって。また買い出しとかかなぁ」

「となると、あのクソまずい食堂に行くしかないのか」

「まあ、そればかりは仕方がない……ですね」

 というわけで、宿の地下にある酒場兼食堂で、僕たちは本日初のお食事タイム。

「おう、ちょっと待て!」

 さて行くか、ってとき。不意にリードが僕たちを止めた。振り返ると、寝癖だけそのままのリードが片手で僕たちを制している姿が見えた。……ちょっとだけ、悪いことを考えている顔で。


「うし、食うぞ」

 軋んだ音を立てて開くドアをくぐると、まだお昼なのにお酒の匂いが充満していた。

「相変わらず……お酒くさい」

「そりゃ酒場兼ねてるからな」

「なんか……逆だよね、食堂を兼ねてるって感じ」

「そうとも言えるな」

 そんなことを言いながら適当に空いているテーブル席を探す。僕たち三人が席についたのに、リードだけは辺りをきょろきょろと見回していた。

「何してるの? リード」

「いや別に……あああああっ!」

   がたがたっがたぁんっ!

 何を見つけたのか、手近の椅子にクラッシュしながら、彼は慌てた様子で奥へと向かう。僕たちも、メニューを見るのをやめて彼を追いかける。

 リードが向かった奥にいたのは……

『ああああああっ!』

 僕たちの声がハモる。

 目の前にいたのは、真っ赤な長髪が目立つファイター、色っぽい魔法使いに派手な吟遊詩人、嫌味な僧侶、そして無言の巨漢(多分格闘家とかそんな感じ)。

 そう、僕たちがこの冒険に出発するきっかけを作った張本人たち! ……まだこの街にいたんだ……っていうか、住んでんのかな?

「ようお前ら」

「なぁによ……って、えっ?」

 やっぱり呂律が回ってない。確か、この人たちも冒険者……なんだよね……?

「おあっ! お前ら!」

 大袈裟に驚いた声を出したのは、吟遊詩人。僧侶は僕たちの顔を見ただけでびっくりしてるみたい。

「お前ら……行って来たのか? 行けたのか?」

 信じられないといった口調で、二回も確認してくる。

「おうよ。お前らとは違うって言っただろ?」

 自信満々のリード。僕たちもつい、一緒になって胸を反らしちゃう。やり遂げたっていう自信。冒険が、僕たちの誇り。その誇りを掲げて、酒浸りの彼らの前に立ってるんだ。

「し、信じられるかっ!」

 でかい声を出していた吟遊詩人に代わって、赤い長髪のファイターが声を荒げた。

「そ、そうだ証拠! 証拠見せてみろよ!」

 ……その言葉を待っていた。

「よっく見てろよ?」

 言ってゴソゴソと服の中を探る。……リードだけじゃなく、僕たちもね。

 僕たちは目配せをして、ニヤリと笑う。

「せーの!」

 じゃーん! とばかりに、彼らの目の前に金銀宝石の装飾品を広げて見せる。……リードの言ってた準備って、このことだったの。あいつら、俺たちを見たら絶対馬鹿にしてくるだろうから、見せつけてやろうぜって。結果は……ご覧の通り。

 僕たちの両手からこぼれ落ちそうな宝飾品たちをしげしげと、瞬きもせずに見る彼ら。

「あんたらも、もうちょっと早くに行けてたら手に入ったのにな」

「申し訳ありません。我々も生活がありますので……」

 言いながら、僕たちは出した宝飾品をそれぞれ懐に仕舞い込む。

「うああああぁ……ホント失敗したなぁ……真面目にやれば良かったかなぁ……」

 ファイターが、その赤い頭を抱え込む。

「ま、今回を最後にしてさ。次からはまともに冒険やってみろよ? 結構できるんだろ? あんたら」

 ちょびっとだけ上から目線だけど、彼らの実力はちゃんと認めてるリードの言葉。なんとなく、同業者だからかな、雰囲気でレベルがわかる(こともある……お酒が入ってなかったらなお良かったんだけど)。

「ま、……まあな……」

 少しだけ自信なさげに、ファイター。お酒とは違った赤みが差している頬をポリポリ掻きながら、顔を上げる。気づくと、他のメンバーもお酒を持つ手を止めて僕たちとファイターを交互に見つめていた。

「もう少し……真面目に取り組みますか……」

 ぼそりと呟くのは僧侶。軽く咳払いをして、お酒の瓶を隅に寄せている。その流れで、散らかり放題だったテーブルの上の食器やゴミを隅に寄せる。と、それを見ていた店主までもが手伝ってくれて、手近な空きテーブルを寄せて僕たちの分の席を作ってくれた。

 ……意外。こんな街だから、住んでる人もそれなり……なのかと思っていたら、こういう対応をされることが多くて驚いてしまう。人は見た目じゃないって、こういうことだね。

 そのあとは、冒険者について熱く語り合う九人が、賑やかに昼食のお皿をつついていた。ついこの前はリードがいきなりファイターをぶん殴って思いっきり喧嘩腰だったのに……不思議だ……僕たち。

「お前ら、もう帰るのかよ?」

 一度は避けたお酒を食後酒として飲みながら、赤毛のファイターがリードに声をかける。リードも同じお酒を飲んでいた。……心なしか寂しそうに聞こえたのは気のせいかな。

「ああ、荷物整理とかいろいろ済ませてからだけどな」

「そうか……この街に住んでみるのも悪くないと思うけど?」

「絶対やだ!」

 赤毛のファイター(今さらだけど名前はダンっていうらしい)の冗談混じりの提案に、本気で本音を叫んでしまったのは僕。そのあと一瞬の間をおいて、僕以外の全員が吹き出した。ひどい、クリストも肩を揺らしてる……。

「……むぅ……だあって!」

「だって?」

「……ご飯が美味しくないのが多い……」

 むくれて答える僕の言葉に反応したのは、うちのパーティメンバーだ。

「それにステージもないってのはね。あたしの魅力が半減しちゃうわ」

 美味しいご飯に魅力的なステージ、そして落ち着いた教会のある、静かだけど楽しい町……僕たちはそれぞれに自分たちの町を思い出していた。そんなに長い間離れていたワケでもないんだけど、なんだか無性に懐かしい。

「みんなそれぞれの生き方とか、落ち着く場所っていうの? それがあるからいいんじゃないの?」

 派手な衣装を身に纏った、吟遊詩人のやたらと明るい声。

「そうですね。お互いに落ち着く場所があるのなら、そこからまたスタートしていきましょう」

「ん……それがベストだ」

 クリストの言葉に同意したのは、終始無言だった大男だった。すごく低くて、お腹に響いてくる声。……迫力だ。

「あーあ、みんなしてそういうこと言うのぉ? 寂しいよぉ……」

「情けない声出さないでよ! そんなに寂しいんならあたしが手紙でも書いたげるわよ?」

「い、いいっ、いらないわよ! アタシだってそんな子供じゃないわ!」

 こっちはこっちで、いつの間にか仲良くなったらしいノイズと魔法使い。

 それぞれに打ち解けて、楽しい食後のひととき。いろんなことを教えてもらうことができたし、僕個人としては、次の小説のネタにもなったし、すっごく得した気分になっちゃった。

 ご飯の味は……まあ、すごくとは言わないけど、美味しかったかな。でもやっぱり、僕たちの町の、あの食堂が一番だね。

お読みいただきありがとうございました。


すっかり忘れられていたと思われる面子が再登場でした。


ご意見・ご感想よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ