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未来への思い、残された意志

意識が暗転、その後のみんなの反応は……? 帝国都市パスランが残したものとは……。


お楽しみいただけましたら幸いです。

『みんな……大丈夫?』

 ぼんやりした頭に、心配そうなヴォイドの声が聞こえてきた。ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前にはパスランの葉。

 どうやら仰向けらしい体勢のまま頭だけを動かしてみると、リードもノイズもクリストも、向きは違えど僕と同じように横になっていた。

『ボク……分かったよ。みんながいなくなった理由』

 静かに、ヴォイドが噛み締めるように言う。

「うん……僕も分かった……。なんか……大きすぎ」

「まったくだ!」

 リードの声は元気だけど、起き上がる気配はない。

 僕たちはみんな、放心状態で転がっていた。どのくらいそうしていたか分からないほどに、僕たちは凄まじい衝撃に打ちのめされた感じだった。

 身体的に苦痛とか、そういう衝撃じゃなくて……なんて言うのかな、うまく説明できないけど、すごく感動した……っていう感じに近いのかもしれない。


 パスランは、戦っていた。多くの犠牲を伴う戦争とは違う次元で、戦っていたんだ。

 この都市が栄えた理由や発達した独自の文明……栄華を極めた時代の知識と技術は、あのキューブに全て納められていたんだ。

 発達しすぎた文明が争いの引き金になることを恐れたのか、それともそれがいつか自らの命を絶つということを悟ったのか……そこまでは分からないけれど、彼らは、自分たちと他の文明に生きる者たち、そして未来を生きる者たちのために戦って、そして去って行ったんだ。

 大いなる知識と技術を護るため、多くの『悪意』というものに対して、戦った。


「だから……僕たちはこの都市のこと、知らない方がいいのかもね……」

 まだ上手く頭が回らないけど、僕はぼんやり呟いていた。

 そもそも気を失っていたのか、夢を見ていたのかさえ分からない。だけど僕たちの頭の中には、パスランが辿った記憶がしっかりと残っていた。

「そうね。あたしたちには大きすぎるわね」

 寝転んだまま、ノイズもぼんやりとした声を上げた。クリストの声は聞こえなかったけど、きっと僕たちと同じようなことを考えているに違いない。

『ボク……これからもここにいるよ。きっとまた、誰かが戻ってきてくれるから……それまで』

「『悪意ある者』を追っ払う、か?」

『うん』

 ずっと知りたかったパスランの謎。

 知ってみて初めて、その大きさに衝撃を受けた僕たち。もう少しだけ、この大地の温もりを感じていようと、しばらくその場に寝転んでいることにした。


 かつて、世界の頂点とも言われた帝国都市があった。

 発達した文明、優れた技術、そして人々の高い精神を育んだその都市は、自らの文明がいずれもたらすであろう悲劇を予感した。

 彼らは選択した。このままの文明を維持し、他国からの侵略に対抗しながら危険な道を歩み続けるか、それとも、その手でこの文明を封印し、自らも姿を消すことで世界全体の均衡を保つべきか。

 彼らは後者を選択した。世界随一の文明は、その時にしてすでに世界全体を考えるに至っていた。

 争いを避け、自然を愛した文明は、自らの進化を止めることで世界を護った。

 彼らの文明はただ一つ、それがその場所にあった形跡だけを残して去った。

 悪意ある者は、近づくことすら許されない。その遺跡には今でも、帝国都市の遺志を受け継いだ守護者が、ゆったりと時の流れに身を任せている……。


「ま、こんな感じかな……」

「できましたか?」

「『一部』ね」

 みんなの気持ちが落ち着いて、荷物を置いていた祭壇のある空間に戻って。やっぱりすぐに外に出る気にはならなくて、僕たちは結局、この空間でもう一夜を過ごすことにしたんだ。

 で、休憩を兼ねたゆっくりとした時間、モンスターの気配もないし、ほんのりと緑の香りが漂う中で、僕は自分の趣味であるところの『執筆活動』というやつをやっていたワケ。

 パーティの行動記録っていうのは、僕とクリストが交代でつけているんだけど、その他に僕が個人的に書いているノートがある。それは冒険が終わって僕たちの町に帰ってから小説風にまとめるためのメモみたいなものなんだ。それを印刷屋さんに持っていくと、雑誌に掲載してくれたり、一冊の本にまとめてくれたりするから、結構な収入になるんだよね。ノイズが踊り娘という副業を持っているのと同じように、僕にもそういう副業があったりするのだ。

 ご飯も食べ終わって、昼間の疲れが出てきた僕たちはそれぞれ好きなように過ごしていた。

 リードはそのまま柔らかい地面に大の字になって寝転がっているし、ノイズも荷物を枕にして横になったまま器用に爪のお手入れなんかしている。僕とクリストは、荷物を背もたれにして自分のメモにペンを走らせていた。ヴォイドは、そんな僕たちの様子を少し不思議そうに眺めている。

『みんな……明るくなったら帰るんだよね?』

 ヴォイドが小さな声で言った。みんなの視線が彼に向けられる。

「そうだな。目的は……一応達成したし」

「パスランの都の謎、ね」

『リードの一応、っていうのは?』

「ん? おう、それはだな……」

 何やら勿体ぶった様子のリードは、ゆっくりと体を起こす。俯き加減の表情は、僕たちには分からない。ちょっと寂しげだったヴォイドの興味は、彼のちょっとした不満に向けられたらしい。

「僕も聞きたいけど?」

「なに勿体ぶってんのよ?」

 ノイズも起き上がってリードの答えを待つ。

「それはだな……。『財宝』の『ざ』の字が当てはまるようなモノがなかったからだ!」

『………………あ』

 はっとして僕たちは顔を見合わせた。そう、僕が最初に言い出した話の中には『ダンジョンにまだ発見されていない秘宝が眠っている』っていうくだりがあった気がする。

「でもねぇ……パスランっていう立派なものがあったじゃない」

「そうですよ。絶滅種と言われていたパスランですが、ここには存在していたんです。大発見ですよ?」

「ま、持って帰るわけにはいかないけどね」

「確かに」

 僕とクリストはこの結果に十分満足してるんだけど、そういうことに興味のないリードとノイズは、当然物足りなさを感じている。

 仮に、パスランを持って帰る、あるいはその情報を公にすることができるなら話は別なんだけど。今この世界に、僕たちが発見した情報を流したとしたら……この遺跡は跡形もなく消えるだろう。もちろん、僕が後でまとめようとしているメモにもパスランの名前は出していない。名前は変えてあるけど実際の冒険を元に書いてあるんだもん、どこに情報が漏れても世界が変わっちゃう(……思えばそれくらいの大発見なんだ)。

『財宝って……例えば?』

 不満気な様子のリードとノイズに、ヴォイドが問う。

「そうだな、キラキラと輝く黄金とか」

「まばゆい宝石とか装飾品ね」

『へぇ……そういうのが欲しいの……キレイなものなら昔見たことあるけどなぁ』

『本当っ⁈』

 ヴォイドの呟きに、今度は僕たち全員が思いっきり反応した。

『え? う、……うん』

 僕たちの勢いにかなり押されるヴォイド。僕が同じ立場だったら、きっとダッシュで逃げたくなるくらいの迫力があったと思う。

「どこ? それ見たのってどこよ?」

「ここから近いのかっ?」

『え……ちょ、ちょっと待って……』

 目をぎらつかせて迫るリードとノイズに、なんとか『待った』をかける。……自分の触手を精一杯使って、ようやく。

『場所はなんとなくだけど覚えてるから……、その、明日になって明るくなったら案内するから、ね……』

「そうだよ、今はみんな疲れてるんだからさ」

「ヴォイドも困っているじゃないですか……」

 僕とクリストも二人を宥めてみる。……ヴォイドの影に隠れて。いつもだったら場所が分からなくても真っ先に走り出す二人だけど、今回はずいぶん疲れてるみたいだね。珍しく素直にその場に落ち着いた。

「もう……分かったわよ。明日ね、忘れるんじゃないわよ?」

『だ、大丈夫だよ……』

「んじゃ、明日な」

『うん』

 『財宝』の話題が切り上がる頃には、僕たちを包む空間の天井から漏れる光が闇色を増してきていた。

 太陽に代わって月の光が柔らかに差し込む空間。本来ならばほとんど見ることができないだろう星の光さえも届いてきそうな空間には、静かな時間が戻ってきた。

「キレイだねぇ……」

「別世界に来たみたいだな」

 ごろりと横になって、天井を仰ぎ見る。木々が折り重なって作り上げられたドーム状の天井いっぱいに、小さな光が瞬いている。

 柔らかくて不思議な大地と空に包まれて、静かな夜が過ぎていく。


『おーい、みんな起きてよぅ』

 どこか遠くから、爽やかな鳥のさえずりが小さく聞こえてくる。目を開けると、周りは光に包まれていた。

「うわ、朝っ?」

『うん。よく寝てたね、みんな』

 跳ね起きて、一瞬にして覚醒した頭で周囲を見回すと、もぞもぞと寝てるような起きてるような、そんなみんなの姿が目に入った。……普段のキャンプでは絶対にこんなことないんだけど。

「おう……ヴォイド、早いな」

「違うわよ。……あたしたちが寝過ごしたらしいわ……」

 ぼさぼさになった頭を押さえながら、ノイズも不機嫌そうな顔で起きてきた(彼女の寝起きの悪さはいつもと変わらないな)。

『みんなの準備ができたなら、昨日言ってた場所に案内するね』

「おう!」

 ヴォイドとリードの言葉で、僕たちはいつも通りに朝の一連の準備に取り掛かる。……これが終わったら、ヴォイドとは会えなくなっちゃうんだ……これからの『財宝』に辿り着くまでの楽しみと、その後に必ず待ってる『別れ』の悲しさ。こんな複雑な心境、きっと僕だけじゃないよね。

 いつものように食事をとって、いつものように装備品を確認。荷物をまとめる。

「よし、準備はいいな? 思い残したことはねぇか、ルシア?」

「えっ? 僕?」

 リードが僕の方を見てお兄さんみたいな顔をして、そんなことを言う。

「そうよ、小説のネタはしっかり集めたの?」

 ノイズもお姉さんみたいだ。二人とも、僕のこと気遣ってくれてるのかな……? クリストはいつものように優しく傍にいてくれてる。

「え、うん……。うん、大丈夫!」

 杖を握りしめて、順番にみんなの顔を見て、頷く。これが合図で、僕たちはこの空間を後にした。


 来た道をひたすらに戻る。来たときにはモンスターに襲われた場所も無事に通過。

「そう言えばあのモンスター、何だったんでしょうか……?」

 クリストが疑問を口にする。確かに、神殿の中にはモンスターがいるってことは最初にヴォイドから聞いてたけど、ここまでの道中では危険な目には遭っていない。

「あの赤い目……っていうか、赤い玉みたいの、あれが本体なんだよね?」

 僕はここのモンスターに共通した赤い光を思い出していた。

「ああ、あれね……そう言えば、ここに来る前の地下通路の中でも出たわよね?」

「その光が生み出していたんでしょうか……」

「今となっちゃ分かんないね」

 モンスターの話をしながらもどこかのんびりとした空気の中、僕たちはゆっくりと来た道を辿っていた。……凶悪モンスターと戦った広々とした祭壇のある空間、仕掛け扉のある無機質な空間、大きな緑の門をくぐって街のメインストリートへ。

 大きな緑の扉をくぐった先にある、ヴォイドと出会って案内された木の根の空間。ヴォイド曰く、ここのどこかに『財宝』が眠っているらしい。

「どこか、ったって……広すぎるわよ」

 半眼になって、ノイズ。

「何かヒントになることある?」

『待って……今思い出すから……』

 ぐるぐると身体を捻って考え込むヴォイド。あれ……そう言えば……

「ねえヴォイド、考えてる時にごめんね?」

『何?』

「ヴォイド、この街が破壊されたって言ってなかったっけ? ……朽ちて滅びた感じがするから、どこが破壊されたのかなって……」

 彼が人間たちに匿われてからどれだけの時間が経って地上に出てきたのかは分からないけど、ヴォイドが『破壊された』と表現するには何か理由があったんじゃないのかな……。

『あっ!』

「思い出したかっ?」

『うん! こっち!』

 言ってヴォイドは、僕たちを先導しながら入り組んだ通路をずんずん進み始めた。

「わっ、待って!」

 興奮を抑え切れないのか、ヴォイドはどんどん先に行ってしまう。僕たちも荷物を抱えて全力で走る。でも少しずつ距離が離れていく。

「ヴォイドーっ!」

「……あれ?」

 角を曲がってしまったヴォイドの尻尾(?)が動かない。追いついた!

『うわ……』

 ヴォイドに追いついて見上げた先には、巨大な建物が天井を貫いていた。だけど、柱を残してほとんどが瓦礫と化している。ここだけは、何か外部からの強い力で破壊されたみたいだった。

『壊されたのはこれだよ』

「これ、何の建物だったの? すごい大きいけど……」

『ここはね、キレイなものをしまっておく場所だったんだ。そういうものをヒトが持ってると、必ず争いが起きるからって、偉いヒトがここに集めて、封印してたの』

「へえ……」

 自分たちの文明を封印するにあたり、この建物を破壊したのだそうだ。……パスランは手にするな、代わりにここにある物を授けよう……。そんな願いを込めた破壊だったのだろう。

「ありがとう、偉いヒト! 遠慮なく!」

 どこか空に向かって一声叫ぶと、リードは崩壊した瓦礫を乗り越えて、いきなり建物の中に入って行ってしまった。

「あっ、待ちなさいよ! 抜け駆けは許さないわ!」

 叫びながらノイズも続く。

『嬉しそうだね』

「うん」

「私たちも行きましょう」

 先に行った二人の姿は見えなくなっちゃってるけど、はしゃぐ二人の声はここまで聞こえる。相当なモノがあるんだろうなぁ……。続いて入って行った僕とクリストは、リードたちとは正反対の反応だった。つまり、……びっくりしすぎて声が出なかったの!


『みんな……気をつけてね、……元気でね』

 しょんぼりしたような、それでも気丈に振る舞っている感じのヴォイド。

「おう、お前もな! しっかりここを護ってろよ?」

 にかっと笑って、励ますような頼もしいリードの声。

『うん、頑張るよ。みんなも冒険、頑張ってね』

「きっとまた会いに来るよ。それまでに仲間が増えてたらいいねぇ」

『その頃にはきっとルシアもお婆ちゃんだよ?』

「うっ……それはちょっと……」

「あたしはその頃までこの美貌を保つわよ」

 さっと髪をかき上げて、根拠のない自信たっぷりのノイズ。

『あはは、楽しみにしてるよ、ノイズ。クリストも、元気でね』

「ええ、いつかまた、きっと会いに来ます」

 静かに、だけど安心するのはクリストの声。

『きっと、きっとまた来てね……来てくれるの、ボクずっと待ってるからね……!』

「泣くなヴォイド! 生きてりゃ絶対また会えるから! じゃ、それまで元気でな!」

 少しだけ涙声で、僕たちは口々に叫ぶようにして別れを告げる。

 僕たちが四人で進んできた地下通路。あの水のモンスターに襲われた、樹海へと通じる洞窟のような通路に僕たちが消えていくのを、ヴォイドはずっとずっと見守ってくれていた。

お読みいただきありがとうございました。


出会いがあれば別れも……。彼らが手に入れた『お宝』……もう一生遊んで暮らしたらいいよ。


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