失われた都、秘密の本質
ヴォイドの生まれ故郷を見にいく感じです。そこはヴォイドさえも知らない場所。
お楽しみいただけると幸いです。
バキィッ!
やたらと景気の良い音を立てて、縦に入った亀裂が大きく広がる。
……音ばかりがかなり大きいんだけど、開けた部分は思ったよりも小さい。縦方向への衝撃は割と弱かったらしいんだけど、横への力に対しては、僕たちが思っていた以上に強いらしい。とはいえ、同じ作業(……リードが力任せに破壊するだけ)を繰り返して、なんとか僕たちが入り込めるようなスペースが出来上がった。
「問題はお前だな、ヴォイド」
『え? 大丈夫だよ。このくらいならサイズ変更できるし、ボクがいた空間に着いたら、かなり広いはずだからね』
「そうか?」
リードは、それ以上確認するでも追求するでもなかった。よく考えたら、ヴォイドってこの辺りから出て来たんだもんね……出られたならまた入れるってことか。
リードをはじめ、僕たちは穴の中に入り込む準備は万端整っている。ちなみに、僕たちの荷物。ほとんどがキャンプに使うものばかりだから、この入り口の近くに移動させてある。携帯していくのは簡単な救急セットと栄養補給のチョコレートくらい。かなり身軽になって、僕たちは順番に広げた入り口から地下へと身を滑らせる。
造ったスペースは、縦に伸びてひしめき合っている木々を無理矢理にこじ開けた、人ひとりがようやく潜れる程度の三角形。……僕はまだ楽な方だけど、当然ながら先頭切って入ろうとしたリードが一番苦労してたみたい。
「早く行きなさいよ!」
「待てコラ押すなってばノイズ! この下取っ掛かりがねえんだって! ってコラ! 押すなってか蹴るなぁっ!」
「あ、落ちた。」
「てめえぇ覚えてろよおぉおおぉぉ……よぉ……」
「こだましてるよ……深そうだね……」
リードの頭があった場所から下を覗き込んでみる。真っ暗だ。何も見えない。
「あ、リード引っかかってるよ」
手のひらサイズの魔法の光の球を操って、前にやったように下を照らしてみる。と、見えたのはどこかに引っかかったらしいリードの頭。ずいぶんと深くに落ちてしまったようで、結構小さく見えたけど、あの黄色のツンツンはリードだ。
「ちょっと大丈夫ー?」
僕の脇から覗き込んで、ちっとも心配なんかしていないようなノリで、ノイズ。
「おうっ! 狭いのは入り口だけだ、下はかなり広いぞ!」
つい一瞬前までの叫びもケロリと忘れ、僕たちが続くのを余裕で待っている様子。
「ね、ねえノイズ、先に行ってよ……」
「何よ、怖いの? 仕方ないわね。じゃあ灯りだけでも誘導しなさいよ?」
「うん」
僕は小さな光球をもう一つ創り出すと、今度はノイズの足元を照らすようにコントロールする。
「あ! ルシア! 俺が覗いたときには何もしなかったくせにっ!」
「だって仕方ないでしょ? リードいきなり落ちるんだもん」
「お前なあ……ま、いっか」
相変わらず、リードは軽い。ま、これが後々まで根に持つようなタイプだったら、今のリードにはなり得ないんだけどね。
『ボクの触手に掴まって行っていいよ』
言ってヴォイドは、自分の顔の周りにある太い触手を一本、ノイズに向かって差し出す。
「下まで届くの?」
差し出された触手をしっかりと掴みながら、ノイズが問う。
『大丈夫、ボクの身体と同じ仕組みだから。長くなると太さが変わるから、それだけ気をつけてね』
「分かったわ」
言うなり、闇の空間に滑り込んでいくノイズ。彼女を照らすのは、魔法のわずかな灯りのみ。
なるほど、狭いのは入り口だけみたい。彼女はヴォイドの触手に掴まりながら、縦穴の壁に足をかけてゆっくりと、それでいて滑るように降りていく。
『はい、ルシア』
「ありがとう」
僕とクリストも後に続く。僕がものすごくしっかりとヴォイドの触手を掴んだから、彼は僕の手首にもう一巻き触手を伸ばしてくれた。
「お前ら……ズルいぞ」
「子供みたいなこと言わないで欲しいわね。あんたがなんの計画もなしで降りるからでしょ?」
「お前俺のこと蹴り落とした事実を忘れてねえか?」
「覚えてないわ」
「んだとうっ?」
「やめてよ二人とも」
すとん……とんっ
足元の二人は言い合いながらも縦穴の底に順番に着地成功。僕たちはそのままヴォイドの触手で降ろしてもらったんだけど、リードは壁の小さな取っ掛かりに器用に手足をかけて。
「ヴォイドー! いいよー」
未だ入り口で僕たちを見守っていたヴォイドに声をかける。
『うん!』
しゅるしゅるしゅるしゅる……
『お待たせ』
『早っ!』
あっという間に僕たちに合流したヴォイドに、全員の声がハモった。ちょっと、いやかなりスリムになったヴォイドの顔はすぐそば。だけど身体の半分以上は、未だ入り口の向こう側に残っているらしい。
「よし、行くぞ」
僕たちが降り立った場所は、入り口から垂直に降りた柔らかい土の地面。少しだけ、湿気を帯びた空気が肌に触れた。
陽の光はあまり差し込まず、上の空間よりは薄暗いけど不自由するほどではない。一応魔法の灯りはそのままにして僕たちの周りを照らしている。僕たち四人と細長くなったヴォイドの半分くらいは余裕でいられる程度の空間だった。
その控えめな空間の一角に、半ば以上が崩れ落ちた木製の扉。元々かなり古ぼけていたみたいだけど、さっきの上での戦闘でトドメを刺されてしまったんだろう。真新しい傷口を残して、向こう側に倒れていた。残っているのは下の三分の一くらいの扉の残骸。
崩壊した扉の向こうには、大きな空間が広がっているみたいだった。扉だったものを乗り越えて見た先は、
「広いですね……上のドームと同じくらいでしょうか」
『こんな風になってたんだ……』
「見たことなかったの?」
『ボクがいたときは、この扉があったから……ここから出ないように、って言われてたし……』
「え? じゃあ僕たちの前に出てきたときはどうやったの?」
『ほら、ここの隙間』
ヴォイドが触手で示す場所には、本当に目を凝らさないと分からないほどの穴。朽ちて崩れた扉から少し離れた隅っこに、それはあった。
『ここから細くなって出てみたの。声と、匂いのする方に』
「扉を開けるという行動はとらなかったのね」
『だって、開けるなって言われてたから……』
素直。……まあその話はともかく、僕たちは扉の残骸から広い空間を覗き込んで、見渡す。
ちょっとした丘のようになっている地面の中心部分の天井、ちょうど上の祭壇が合った場所から下の地面に向かって、石の柱が貫き立っている。
「あれって、上にあった祭壇だよね」
「そのようですね」
天井は、柔らかそうな土や木々の枝(もしかしたら根っこかも)に隙間なく覆われ、壁になっている部分は、上の空間と変わらないみたいだった。地面も含めて、あらゆる部分からほんのりと緑がかった光に包まれて、とても地下の空間とは思えない。
僕は魔法の灯りを消した。なんとも言えない穏やかな気持ちになる光に包まれて、僕たちはゆっくりと丘を登っていく。
結構な時間をかけて柱のある場所まで登り切ったところで、今まで見えなかった向こう側の景色を眺める。と。
「あれ……お墓かな?」
端っこの方には、小さな長方形の石がいくつも並んでいた。クリストがいつも持っている十字架のような装飾はないけれど、なんとなく、佇まいからそんな感じがした。
『うん。亡くなった人たちの身体は大地に返して、魂は神々が創る波に乗って天に召されるんだって。昔話してくれたことがあるよ。お墓は波に乗るための台なんだって。実物はボク初めて見るよ』
「へえ……」
何気なく、足が墓石の方に向かう。墓石の間やその奥は陽だまりになっていた。
「あそこにだけ違う種類の植物があるのね」
僕の後ろを歩くノイズが言う。ノイズの言葉に視線を移すと、陽だまりの中に、今まで見てきたものとは違う種類の植物がこんもりとした茂みをつくっていた。お墓は、その茂みに半分くらい埋まってしまっている。
「ホントだ……変わった植物だね……。……………………クリスト」
「……………………ルシア」
「これって……」
『パスラン⁈』
僕とクリストの声がハモった。間違いない! 図鑑でしか(しかも想像図)見たことなかったけど……本物だっ!
「うわっ、これ、そうだよね?」
「ま、間違いないと思いますよ!」
クリストも興奮を隠せない。こんな所に……絶滅したはずのパスランがあったなんて!
『これ、珍しいの?』
戸惑った声のヴォイド。そうか、ここが『パスランの遺跡』なんだったら、パスランを珍しく思わないのは当然だよね。
「これね……」
僕はかなり興奮した状態なのを自覚しながら、一気に喋り倒した。パスランの生息に関すること、今では絶滅種として、どこにも生息が確認されていないこと。パスランの利用方法、これによって栄えた都市の繁栄と衰退。そして、僕たちがここに冒険に来た理由。
『へえ……。……じゃあ、ここの人たちが消えた理由っていうのは?』
僕の話の内容を飲み込んで、ヴォイドもいきなり興奮した声。
「多分、この絶滅したパスランを争って……っていうのが定説なんだけどね。……でも」
この街の状況をこれまで見てきて、とても戦争で滅んだとはどうしても思えないんだ。戦争に負けてしまったのなら、もっともっと破壊されていても良さそうなのに、どう見たって途方もない時間の経過で朽ちた……って言う方が合ってる。それに、この空間に入るまでのあの神殿みたいな場所。あれが何の影響も受けずに残っているのも腑に落ちない。
『じゃあ、戦争っていうのでみんないなくなったんじゃないんだね?』
「んー……多分、ね。あ、リード! 取ったらダメだからね!」
「わ、分かってるよ」
目敏く見咎めた僕の指摘に慌てて手を引っ込めるリード。
「少し、調べてみましょうか……」
クリストの提案に賛成したのは僕。リードとノイズは、いつもの通り。『調査』という地道な作業には興味がないらしい。ぶらぶらとその辺を散歩したり、おやつを食べたり、果ては手合わせをし始めてしまった。
僕とクリストは、陽だまりを中心に調べてみる。
墓石に刻まれた文字から始まり、パスランの観察はもちろん、その周りの土の性質などを細々と調べていく。そんな中で壁際に奇妙な凹みを見つけた。
「何だろうこれ」
「スイッチのようなものでしょうか……?」
「手、入るかな」
片手が入るかどうかのサイズで、覗き込んでみたけれど真っ暗な穴が見えるだけ。思い切って手を入れてみることにする。……ここまでの決断は早かった。
「な、なんかいたらどうしよう……」
ローブの袖を捲り上げて手を突っ込んでみてから、ずいぶんとタイミングのズレたことを言ってしまった僕。それでも手を抜かずに奥まで突っ込んでいる自分、えらい。
肘よりも少しだけ進んだその先に、小さなボタンみたいな突起が触れた。
「押してみてもいい?」
「リードたちに知らせましょう」
こくんっ
リードとノイズも近くに来てもらってから、僕は思い切ってボタンを押す。……これが結構気持ちいいもので、ワクワク感が半端ない。
押し込んだ小さな突起は軽い音を立てて、すとんと下に潜ったような感触。
「何が起こるんだろう……」
「さあ……」
誰も何が起こるか想像がつかない。一瞬の沈黙。緊張が走る。
ざああぁぁ……
「? ……風?」
不意に風の音が聞こえたと思った瞬間、急に辺りが暗くなった。
「あっ!」
これまで見えていたものが全く見えないほどの暗闇。
「動くなよ!」
リードの声が鋭く響いた。
ごぐううぅん……
鈍い音が低く響く。そしてまた唐突に、視界に光が差し込んでくる。ただし、今までのものとは全く異質の光だった。
「……あれ見て! 祭壇の柱!」
最初に声を上げたのはノイズだった。柱を指差している。
「何これ……?」
「回ってるけど……周りに何か出てきてるわ」
僕たちは、信じられないようなものを見ていた。
ゆっくりと回転する柱。ずぅん……と低い音を響かせながら。
回転する柱の周りに忽然と現れたのは、いくつもの漆黒の立方体。
それは空間に浮かび上がっていた。大きさは大人一人分くらいはある真っ黒いキューブ。
光は、その漆黒のキューブから発せられている。……太陽のものとも魔法のものともつかない、無機質に輝く光。
「なんか……頭の中に入ってくるみたい……」
光が直接頭の中に届くと、こんな感じなのかな……そんな感覚。
「頭の中が……おかしなことになってるみたいよ……」
「気持ち悪ぃ……ような、そうでもないような……」
「誰かの意識みたいですね……自分じゃないような……奇妙な感覚です……」
『ボクにも分かるよ……みんなの声がする!』
ヴォイドには、声、言葉として聞こえているのだろうか。
無機質な光の洪水が、僕たちの目から身体から、そして直接頭から全身を駆け抜けていく壮絶な感覚。
……そして、僕たちの意識は暗転した。
お読みいただきありがとうございました。
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