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遺跡の秘密、さらに奥へと踏み込む先には……

毎回サブタイトルに悩みます(なければないでいいんですけど)……サブタイで内容に興味を持っていただけることを願って。

今回もよろしくお願いします。

「さっきの魔法……効いてるみたいだな……」

「……少しはね」

 戦闘開始の合図となった僕とヴォイドの魔法の一撃は、モンスターの硬そうな皮膚を焦がした跡を残して消え去っている。赤黒いモンスターの硬質な皮膚が溶け出し、地面に染みを作っているのが見える。

 ノイズとリードの一撃も、しっかりとダメージを与えているみたいだったんだけど……気持ち悪いことに、千切れかけた頭もそのままに、未だに昆虫めいた動きを止める気配はなかった。

「どうする? また同じように行くか?」

『でも、警戒してるんじゃ……』

 ヴォイドが遠慮がちに言う。

「……ヴォイド」

『何?』

「魔法、使えたんだね……」

 別に今言わなくてもいいことが、つい口に出た。

『あ……うん。急に思い出したんだ、前に人間たちが使ってたやつなんだけど……』

「じゃあ、ここを襲ったのって、あいつ?」

 ちらりと目線だけをヴォイドに送る。もちろん、モンスターへの警戒は解かない。

 ヴォイドはあのモンスターが現れたときにも大きな声を出してたし、見覚えでもあるのかと思って聞いてみたんだけど……

『あ、ううん、違うよ。魔法を使う声が聞こえてただけ』

「あ……」

 そうだった。当時のヴォイドは人間に庇われて何があったのか見てないんだった……。

「おいルシア、どうした? 大丈夫か?」

 リードの声に我に返る。……モンスターへ注意は向けたまま、僕は器用に話に夢中になりかけていた……戦闘中だよ……忘れてたワケじゃないんだけどさ。

 ひとまず話は中断。改めて、モンスターの動きに注意を向ける。……その時!

   ビュシュワァアッ!

「避けろッ!」

「うあぁあっ?」

 リードの鋭い叫びに反応するよりも早く、ものすごいスピードでいきなり眼前にまで迫ってきたモンスターに驚いて、僕たちは反射的に飛び退いていた。……僕たちの後ろは壁、必然的に二手に別れるかたちになる。

「おいっ!」

「だ、大丈夫! 何とか……っ」

 モンスターを間に挟んで、向こうからリードの声が聞こえてきた。僕はびっくりしすぎて心臓が喉元まで来ているような、そんな感覚でようやく声を絞り出した。

「みんなは……?」

 急いで状況を確認する。

 僕の傍にはヴォイドとノイズがいた。ということは、向こうにいるのはリードとクリストか。

「リード、クリスト! 平気っ?」

「ああ、こっちは大丈夫だ! 畜生……脅かしやがって……」

 リードのぼやきも聞こえてきた。

 モンスターは、自分が突進してきた勢いで壁(木々の枝だか根っこだかが絡まっているようなものだけど)に豪快に激突、盛大な土埃を舞上げてクレーターを作り出していた。舞い上がる土埃の中に、凶悪に光る棘のようなものがゆらゆらと天井に向かっているのが見える。これまで僕たちサイドからは見えなかった部分、多分尻尾。……色から察するに、毒でも持っていそうな、そんな感じの棘。

「……ノイズ、ヴォイド……」

 呟いて、僕はノイズとヴォイドを誘導して後退しながら、持っている杖の先をモンスターに向ける。

  ビビビビッッ……ビビッ……

 杖の先で、モンスターの昆虫のような羽が歪な、耳障りな音を立てて羽ばたきを繰り返している……そこに狙いを定める。

『偉大なる汝の力を……メガ・フレイムッ!』

   ヂュドンッ!

「……っ!」

 息が詰まるような短い炸裂音、続いて、巨大な火柱が立ち上がる!

 僕たちは巻き起こった熱風から自分たちの身を護りながら、さらに後退する。火柱を上げるモンスターの後ろでは、同じように自分たちを庇いながら結界の中にいる二人が目に入った。……何も言わないで発動させちゃったんだけど、さすがはクリスト。この状況で僕が魔法を使わないワケがないもんね。

「やるわねルシア……熱いわ」

『すごいや……熱いね』

 僕の少し後ろから二人の声が聞こえてくる。ぼやきも一緒だ。熱い。目の前には火柱と化したモンスター。……が。

「まだみたい」

「……ね」

 ぎちぎちとかなりぎこちない動きではあったけど、炎の塊のような身体は動いている。

 やがて魔法の炎は威力を無くし、残るは異臭を放つ黒煙のみ。それを纏ってどす黒く変色した身体を動かして、めり込んでいた壁から身を引き剥がすモンスター。

「しぶとい野郎だな!」

 向こうからリードの舌打ちが聞こえてきた。同時に、クリストの呪文詠唱の声が微かに。

 かなりの魔法とそれを付与された攻撃を立て続けに喰らい、自らの突進で壁に穴を開け、巨大な火柱となってもなお息がある。体勢を立て直すために歪で不安定な動きは止めない。

「ノイズ、もう一回行ける?」

「当然よ!」

 頼もしく応えて軽く走り出すノイズ。僕は急ぎ口の中で呪文の詠唱。

「行くわよリード!」

「OK、任せろっ!」

 向こうも走り出したみたいだった。僕は杖をノイズに向けて、唱えていた魔力を解き放つ!

『迸る力よ! 雷と化て与えよ!』

『蒼き力よ! 光と化て与えよ!』

 僕とクリストの声が重なる! 同時に、ノイズの拳が、リードの剣が、金と銀の光を帯びる。

 ビクビクと痙攣しているような嫌な動きを見せるモンスターだけど、容赦はしない。

『はあっッ!』

   ドゴォン……っ!

 楕円形に歪んだ膨らみをリードとノイズ、それぞれに直撃! そのままの勢いで、二人はすれ違いながら見事に着地。……リードとノイズの立ち位置が逆転する。

「よし……っ!」

『ルシア!』

 リードとノイズ、そしてクリストの声が僕を呼ぶ。

 応える代わりに杖を振り上げ、唱えていた『力ある言葉』を魔力と共に解き放つ!

『我らに仇なすもの……滅せよ! グラウディ・ブラストッ!!!』

   ッゴゴガガガォゥン……ッ!

   ギャヂャアアアアアア…………

 大地から突き出した無数の槍が、雷を纏ってモンスターの身体を突き刺す!

 ……大地の標本と化したモンスター。長い長い雄叫びは周辺の壁に反響していつまでも耳に残る。やがてゆっくりとその動きを止め……消し炭のように真っ黒になった。その残骸もまた、どこからか訪れた一人の風に攫われるようにして塵と化し、消えた。


『…………………………』

「…………終わった……」

 誰かが呟いた。みんな放心状態だ。……倒した。

「……………………」

『……っ、やったああっ!!』

「おい、やったぞ! 勝ったぁっ!」

「やりましたね!」

 一瞬の沈黙ののち、僕たちは張り詰めていた糸が弾けて切れて、大騒ぎ。

 僕の魔法が作り出した大地の槍は、モンスターが消滅するのを待って、静かに地に還っていた。モンスターがめり込んで開けた壁のクレーターだけはそのまま、モンスターが存在した証のように残っていたけど、僕たちはそのすぐそばで、勝利を噛み締めていた。

「ラッキーだったなぁ……」

「ホント、まともに攻撃が効いてくれて助かったわ」

「腕痺れてない? ノイズ」

「んー……ちょっと、ね。でも平気よ」

「ヴォイド、あなたは大丈夫ですか?」

 それぞれが思い思いに口を開く中、クリストは未だ放心状態を引きずっているようなヴォイドを気遣う。

『あ、うん……大丈夫……。なんかびっくりしちゃって……みんな、強いね』

 まだちょっとぼんやりしているような響きの、ヴォイドの声。

「ううん、運が良かっただけ……それより、今回勝てたのはヴォイドのお陰じゃない?」

『え?』

「まあ、確かにそうだな。最初の魔法もあれだよ、攻撃のきっかけになったしな」

 リードも言う。

「アレがなかったら一方的にやられてたよ、きっと。それにさ、僕の魔法もね」

『何?』

「ヴォイドの詠唱聞いてね、思い出したっていうか創ったっていうか……」

 ちょっと決まり悪くなる僕。自分で振った話題だったんだけど、失敗だったかな……。ノイズが素早く反応した。

「そう言えばあんた、雷系の魔法なんて珍しいと思ってたのよ……って、ちょっとルシア!」

「うわごめん! でもちゃんと成功した魔法だったんだし……初めてってワケじゃ……」

 そう。僕がこれまで使っていた魔法は、炎系か風系の魔法ばかり。僕にとって一番扱いやすくて属性的にも合っている魔法なんだけど、ヴォイドの詠唱内容を聞いて思い出したのが、さっきノイズの拳にかけた雷系の魔法。使ったのは実戦では初めてだけど、ちゃんと練習はしてたんだよ、練習は。

「……まあ、今回は許すわよ、勝ったんだしね」

「はは……ありがと」

 見えないところで溜め息をついてみる。……ノイズって、怒り出したらクリスト以外は誰も止められないんだよね……怖いから。

「疲れたな……」

 気の抜けたようなリードの言葉に、これまでの疲労がみんなの上にどっかりと腰を据えてしまった。僕たちは、焼け跡残るクレーターから少し離れた場所、祭壇との間辺りに輪になって、休憩をとることにした。


「そう言えばさ」

「あんだ?」

 香草と干し肉を温めて和えたサラダを口に運びながら、僕が話を切り出した。大きな口を開けて簡易パンをかじろうとしていたリードがそのままの口で答える。

 ついさっきとまでは打って変わって、静けさの中に心地良い炎がはぜる音。

「さっきクリストが呼んでくれた祭壇の文字ね、どういう意味なんだろう?」

「ええと……

  『真の心を持つものに捧ぐ、癒し、正義、優しき勇気、我を読み解くものに捧げよ』

ですね?」

 クリストが取り出したメモを見ながら言う。……そうだった。これを読んだ直後にあのモンスターが出てきて戦闘になったんだよね。

「『我を読み解くもの』って、単純に考えてクリストのことかしら?」

 サラダに入れていた香草の一つをつまみ上げて苦い顔をしているノイズが言う。……彼女、苦味の強い香草は苦手なんだよね。

「いえ、この場合は我々全員のことを指していると思いますよ」

「じゃあさ、『真の心を持つもの』っていうのは誰のことかな? その人が僕たちに『癒し』と『正義』と『優しき勇気』っていうのをくれるってことだよね? ……ん? 逆かな……この場合前者と後者の二人に捧げよ、ってこと?」

 ……ややこしいな。

「ややこしい上に抽象的だなぁ……くれるんだったらお宝の方がいいな」

「うーん……前の文は「読み解いたものに授ける』という意味にもとれますね……」

 あっという間にパンとサラダを平らげていたリードが、呑気に口を挟む。対してクリストは、ゆっくりとパンを噛み締めながら真剣に考え込んでいる。

「抽象的でもさ、なんか『冒険者』っぽくていいと思うけどなぁ」

 お腹が満たされてきた僕も、結構呑気だ。

『癒しとか正義とかって、ボクが見てた人間たちがすごく大事にしてたんだ』

「へえ……」

『彼らにとっては、それが宝物みたいにね』

「だとしたら、遺跡に眠る宝というのは、まさにそれのことかもしれませんね」

 ヴォイドは、遠い過去を思い出すように、祭壇に目を向ける。祭壇は、何事もなかったかのように静かに、ひっそりと佇んでいた。

 穏やかな陽の光が入り込む、ドーム状の空間の中。最初に訪れたときよりも、陽光は柔らかく変化していた。傾きかけてきたらしい太陽が放つ光は、僕たちの上にも祭壇にも同じように降り注ぎ、影を作り出す。

「…………ん?」

「どうしたの?」

 不意に視線が止まった僕の様子を見て、ノイズがパンを飲み込んでから問いかけてきた。僕もパンを口に入れたままだったから、飲み込んでから答える。

「あの影の先、不思議な形が見えない?」

 僕が指さしたのは、祭壇から伸びた影の先、ちょうど祭壇のてっぺんに当たる部分の影だ。

「? 何かしら……?」

「確かに、何かを象っているようにも見えますね……」

「ちょっと見てくるな」

 言いながら立ち上がるリード。

「あ、待ってよ、僕も!」

 急いで残りの食事を片付けると、僕たちもリードの後を追う。荷物はその場に置いたまま、ちょっとの距離だと思ったからね。念のため、杖だけは忘れていない。

「何かある?」

 影の落ちた部分を覗き込んで調べているリードに、僕は後ろから声をかける。

「ああ、何かあるな。……ほら」

 言って場所を譲ってくれた。彼が調べていた地面には、柔らかい土の上に落ちた薄暗い影と、

「文字だね」

「確かに。これは先程の古代文字と同じですね」

 追いついたクリストも、覗き込んで即座に言う。祭壇の上の石碑の文字を解読したのもクリスとだったから、この文字に見覚えがあって当然だ。

「なんて書いてあるのよ?」

「待って下さい……

   『陽に向いて仰ぎ見よ……在りしものが、真の心を持つものなり』

 ……ですね」

 行って振り返り、僕たちの後ろに目を向けるクリスト。柔らかな光が彼の眼鏡を薄く反射する。僕たちもつられて後ろを振り仰いで見る。……そこに居たのは。

『ボク?』

 ヴォイドが戸惑いながら問い返す。彼もまた、僕たちと同じように後ろを振り仰いで見ていたけれど、彼の後ろには何もなかった。木々の隙間から傾いた太陽がちらりと見えただけ。

「ヴォイド……何か心当たり、ないの?」

『うー……ん……ボクが思い出せるのはここにいた人たちの声とか、言葉とか…………あ!』

「何っ?」

『そう、そうだよ、ボクがずっと隠れてた場所! そこなら何か見つかるかも!』

 この街が何かに襲われた時に彼が匿われた場所。今思い出したその場所は、なんとこの空間の中にあったんだ。

『ほらあれ、あのモンスターが出てきた場所の近くに、縦長の切れ目が見えるでしょ? あれのすぐ下なんだ。だからボク……ボクがいた場所が壊されたんじゃないかって思ってたんだ』

 それならばすぐに……! と思ったんだけど、休憩場所の後片付けは忘れずに、ね。僕たちは早る心を必死に押さえつけながら、あっという間に片付けて出発準備を整えた。


 ヴォイドが僕たちを案内するように先頭に立って、モンスターが出現した辺りにやって来た。

『この下にね、ボクが居た空洞があるんだけど』

「ヴォイドはその中をよく見てみたりしなかったの?」

 何かあれば一番に思い出しそうなんだけど……。

『人間たちが必要なモノって、ボクにとっては必要じゃないモノの方が多かったから……』

「そうか……ま、とりあえず行ってみようぜ?」

 縦長の切れ目に首を突っ込むようにして、その下を観察していたリードが、なんとも気楽に提案する。その様子を傍目に観察するに、リードの頭がギリギリで入って中を覗き込める程度の切れ目で、幅は……とてもじゃないけどリードが通るのは無理そう。まあ、そこは適当に穴を広げてみることにして、僕たちはヴォイドが居たという空間を目指すことになったんだ。

お読みいただきありがとうございました。

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