表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

神聖な 空気打ち消す 脅威の目

サブタイトルからも想像できるかと思いますが……戦闘に突入します!


状況を想像しながらお読みいただければ幸いです。

 小さな扉には、何もなかった。……模様もなければ蝶番もなく、ノブもない。扉というよりは、ただの壁で行き止まり。

「ねえヴォイド……」

『何?』

「この奥って……この奥?」

 意味不明な質問だとは分かっていつつも、それ以上に混乱した頭で、僕は問うていた。だってヴォイド、この奥って確かに言ったもんね……。

『そうだよ、この奥』

「だってこれ、行き止まりだろ?」

 リードも問う。ノイズもクリストも、その表情には疑問符ばっかり。

『そんなことないいよ。ちょっと仕掛けがあるんだ。仕掛けっていうか……ボクじゃないと開けられないのかも』

 言いながらヴォイドは僕たちの間に進んできて、頭部についた太い触手で何もない壁に触れる。ヴォイドの触手が触れた場所から仄かな光が浮かんできた。不規則なようで規則的な触手の軌跡に沿って、その光が不思議な文様が浮かび上がった。

  カタカタカタ……

 何かカラクリ箱の仕掛けが動くような、軽い音が響く。

「うわ」

 思わず声が漏れる。

 ヴォイドが何かをなぞるように触手を動かすと、それに従って淡い緑色の光が帯になって連なっていく。古の都に伝わっきた『神の文字』……そんなふうに形容しても決しておかしくない、そんな神々しさをもった紋章のようなものが出来上がると、静かに壁は色を無くしていった。……つまり、透明になって、そして消えたのだ。

「……どんな仕掛けなんだろう……」

 誰も応える術をもっていなくても、多分みんな同じことを考えているに違いないはず。これを開けたヴォイド自身も、この仕組みの説明を求められても困ったんだろうな。

 消えてしまった壁の奥には巨大な空間。ただそこは、これまでの無機質とも言える空間とは正反対。緑の光あふれる広場みたいだった。

「…………っ」

 目が慣れるまでに随分時間がかかるほど、そこは光に満ちていた。

「ここは……?」

 光に目が眩んだままのぼんやりした頭で、小さくヴォイドに問う。

『みんなが目指してた、あの木の中だよ』

 心なしか嬉しそうなヴォイドの声。

「き……木の、中ですって?」

 今度はノイズが問う。……無理もないよね。だっていくら大きな木って言ったって、これほどの空間が広がっているなんて考えられないもん。

『そう、中だよ。ほら上見て』

 言ってヴォイドは触手の一つを天にかざす。

「……ほんとだ」

 見上げた先にあったのは、網目のように広がった枝から差し込む、幾筋もの太陽の光。太い枝や細い枝、そして木の葉が揺れる様子が、天井に広がる根の隙間から見える。……そこでようやく、僕たちはここが根のドームに囲まれた地下空間であることを認識したんだ。

 今僕たちが立っているのは土の上なんだけど、外の土よりもずっと柔らかい。踏んでもいいのかなって躊躇うくらいには繊細。小さな植物はたくさんあるけど、短い芝生くらいの背丈しかない。

 そして周りを囲んでいるのは、僕たちが最初に目指していたあの巨木の根(多分内側)。細かく複雑に入り組んで、かなり高い位置まではほとんど垂直の壁みたいになっている。……多分その壁の外側は土なんだろう。ちょうど境界線があるように、そこから上には隙間ができてて、外の光が入り込んでいた。……もしもヴォイドに出会わなかったら、きっと僕たちはその境界線付近でこの木を見上げていたんだろうな……。

 そして、この空間の中央には……

「何だ? あれ……」

 リードが指差す方向に、大きな祭壇のようなもの。石でできているみたいだったけど、無機質な感じはしなかった。……さっきまであんなのあったかな……なんていう疑問が頭を掠めたけど、今は気にする余裕がなかったのも事実だったりする。

「祭壇……のようなものでしょうか」

 クリストの声も久しぶりに聞いたような気がする。僕もクリストの考えと一緒だったことに安堵していた。

『うん。人間たちはそう呼んでいたけど……』

 ヴォイドの声が小さくなる。というより、そこから先はよく分からないといったふうだった。

「ま、とにかく行ってみましょ? ここに突っ立ってたって始まらないわ」

「そうだな」

『…………………………』

 この状況に早くも順応してしまった二人は、僕たちの反応も待たずに歩き出す。

「あ、待ってよ!」

 一瞬呆けて眺めていた僕たちも、慌てて二人の後を追う。……ヴォイドも一緒に。


「何だろうこの文字……クリスト知ってる?」

「んー……」

 僕が発見したのは、祭壇の上に祀られた石碑に小さく刻まれた文字のようなもの。『ような』と言ったのは、単にそれが読めないから(……………………)。

「古代文字の一種ですね……」

 言うとクリストは、何やら自分の鞄を探り始めた。

「おいクリスト、分かるのか?」

「ええ……多分。私の持っている本の中で見かけた覚えがありますから」

 そうか。僕には読めなくても僧侶であるクリストが読める文字があってもおかしくない。もともと僕たち二人が得意にしている分野は真逆の属性にあるからね。……魔導文字と神聖文字。これが神聖文字に当たるなら、クリストが読める可能性は高い。

「ねぇヴォイド、あんたは読めないの?」

 クリストの背中から目を逸らさないまま、ノイズが問う。

『うん。ボクが生まれたときからこのままだし、こんな文字を読んでた人間はいなかったから……』

「ふうん?」

 実はヴォイド、彼もまたクリストの行動から目が離せないらしい。……彼のどの部分が目なのかはよく分からないということは伏せておこう。

「……ありました」

『ええっ?』

 みんな一斉に身を乗り出す。……と、どうなるか。

「……ちょっと……頑張って読みますから……ちょ、重いですよ……」

『………………ごめん』

 ふう、と眼鏡の位置を直すクリスト。

 クリストに乗っかって押しつぶしちゃったみんながのそのそと距離をとると、そこで改めて石碑に向かう。

「……真の心を持つものに捧ぐ……癒し、正義、優しき勇気……我を読み解くものに捧げよ……、ですね」

『…………………………?』

 何だろう。みんなの目が点になっている。

「……謎解きか?」

『分かんない。ルシア、分かる?』

「さあ……」

 せっかく読めたのに、意味がわからないんじゃそれこそ意味がないよね。とにかくみんなの頭の中は(もちろん僕も含めて)真っ白だったに違いない。

 と、そのときだった。

   ゴゴゴゴゴゴ……

「何っ?」

「地震?」

「伏せろ、でかいぞッ!」

 リードの合図でみんな一斉に頭を庇いながらその場に伏せる。

 何の前触れもなく僕たちを襲ったのは、かなり大きな地震。周りの木々の根を引きちぎる激しさで、僕たちのいる空間そのものが上下左右に揺れているみたいだった。

「………………収まった……?」

「ああ……大丈夫そうだ」

『ああああっ!』

「ヴォイド? どうし……っ?」

 僕たちよりも大きいヴォイドが、僕たちの頭上をぐるりと見渡していて見つけたんだろう。ヴォイドの身体が向いている方向に視線を向けると、そこには今までになかったものが現れていた。

「な……何よアレ……」

 呆然とした口調で、ノイズ。みんなの呼吸が思わず止まる。緊迫した空気が僕たちを一瞬にして取り囲んだ。

『モンスター……だよね』

「ああ」

「しかもかなり凶悪ね……あの面構えは」

 静かに剣を抜き放ったリードが短く応え、腰を落として拳を握りしめたノイズが、目の前に突如として姿を現したモノから目を離さずに言う。

 僕たちの前に現れたのは、まさしく『凶悪なモンスター』と言うべきモノだった。

 宙に漂うその身体は、全体に光沢のある昆虫のそれに近い。昆虫の特徴を色濃く持っている薄い半透明の羽根が、嫌な音を立てて絶え間なく羽ばたいている。いくつもの関節があるのだろう、奇妙な形に先を向けるのは、胴体のほぼ真ん中にある三対六本の鉤爪。

 楕円形に歪められたような膨らみが上部に一つ。一回り小さいものがその下にぶら下がるようにして繋がり、そこからは、僕たちの方に向かって大きく開いた口のついた細長い顔。身体や羽根は昆虫のそれだけど、顔はドラゴンと鳥を足して二で割ったような、不気味で悍ましい。それが、確実に僕たちを捉えていた。……その目には、どこかで見た紅い二つの光が宿っている。

「間違いなく、僕たちを標的にしてるみたいなんだけど……クリスト……」

 背中に冷たいものが走る。……怖い。こんな形態をもつモンスターには出遭ったことがない。

「……後ろにある大きな歪み……この場所で人知れず進化を遂げたものであることは間違いないようですね……」

 クリストの声もかき消されそうだ。

 彼が言う大きな歪み、それはそのモンスターの背後に見えた。壁に入った亀裂と、何かが収まっていた形跡が見える。……巣穴だったんだろうか。

   ヴィイイイィイ……ン……

 静まり返った空間に、目の前のモンスターが発する羽音が響く。

 武器を携え、臨戦体勢に入ったまま、タイミングを見計らう緊張した時間が流れた。

 ……何時間も経ったような幻覚に襲われる。いつもなら、クリストが防御結界を張り、僕が先制の攻撃魔法を浴びせるところなんだけど……凍りつくほどの恐怖って、こういうのを言うんだ……。

『……我らが行く手を阻む……邪悪なる意志を持つ者に……』

 不意に聞こえた声に我に返る。……ヴォイドだ!

 反射的に杖を握り直して、僕も彼に続く。

『ゆらめく紅き流れよ、我が意に従い力となれ!』

『久遠の眠りを……っ!』

『バースト・フレアっ!』

   ッゴウッ!

「う……っ」

 杖の先から迸った巨大な炎の塊は、同時に放たれたヴォイドの光の玉に重なり、螺旋を描くように目の前のモンスターに向かって恐ろしいスピードで軌跡を描く!

   ガウンッ……!

 巨大な爆音を響かせて、視界が煙に遮られる。……直撃!

 その時、僕たちの前には煙とは違う何かが壁となって、爆風と熱から護ってくれた。……クリストの結界だ。間に合った。咄嗟に放った魔法だったし、まさかヴォイドが攻撃魔法を使えるとは思わなかったから……もし少しでもこの結界が遅れていたら、僕たちは爆風で飛ばされていただろう。そのくらいの威力はあった。……が。

「行くぞノイズ!」

「いいわっ!」

 爆風と熱、焦げ臭い空気の中、クリストの結界をすり抜けて二人は躊躇いなく疾る。

『勇気纏う者に祝福を!』

 走る二人の背を追いかけて解き放たれた聖なる光が、しっかりとリードとノイズの身体を覆う。

   だんっ!

 靴音を響かせて力強く踏み込んだノイズの拳は、すでに煙の中にちらつくモンスターの射程内。……立て続けに早口で唱えていた次の魔法は、敵を捉える直前、ノイズの拳に届く!

「はァッ!」

   ドグッ……!

 短い気合いに続く、鈍いヒット音。煙の残響さえも払い飛ばす勢いで、ノイズの拳はモンスターの頭を直撃! 勢いのまま仰け反るモンスター。

   ギャアアァァァオウゥッ……!

 悲鳴のような雄叫びのような、耳についたら離れない恐ろしい音。どこから発せられているのか分からないけど、そんな醜悪な姿を晒して大きく体をくねらせる。そこに、ノイズの攻撃から一つ間を空けて宙に舞ったリードが、怒涛のコンボを繋げていく。

「喰らえっ!」

   ドシュッ!

「やったっ!」

 思わず叫んだのは僕。

 リードの剣は、落下の勢いを伴って振り下ろされた瞬間、頭と胴体を繋いでいる辺り(……首の部分になるんだろうか)、そこに見事に突き立てられた。そのまま引きちぎるように剣を振り抜くと、リードは素早く身を翻してこちらに向かって走ってくる。

「まだだっ!」

「えっ?」

 リードの顔から緊張感が抜けていない。

 ちらりと振り返ったリードの視線の先。

「……ノイズっ! 後ろ!」

   バチイィッ……

「…………っっ!」

   ずざざざっ……

「ノイズ!」

 リードよりも先に攻撃を仕掛けていたノイズが、引き返してくるときに何かに捕らわれた。攻撃方法の違いからか、モンスターから離れるのに一瞬のズレがあったんだ。

 彼女はモンスターの鞭のような脚に背中を打たれ、弾かれるように飛んだ。そのまま何度か地面を弾むようにして壁の付近まで転がり、止まった。

 一瞬にして血の気が引いた。

「……っ……ノイズっ!」

 リードの攻撃に未だのたうっているのは頭と首の辺り。三対の脚は、のたうった影響なのか攻撃のための動きなのかは分からない。ダメージを受けていることは間違いないけど、目を離さないように細心の注意を払いながら急いでノイズの元に駆け寄る。

「ノイズ、ノイズ!」

 勢いでうつ伏せに倒れたノイズ。

「…………うう……ん……」

「ノイズ……?」

 彼女は、助け起こそうとする僕の手をしっかりと握り返してきた。……大丈夫だ。

「……やってくれるわね」

 押し殺した声で、ノイズが怒りの一言。

「大丈夫……だよね?」

「当たり前よ! あたしを誰だと思ってんの? まだそんな顔される怪我はしてないわ」

 僕の肩に掴まり直して、ゆっくりと体を起こす。

 ノイズの武器はその拳や蹴りなんかの攻撃だけじゃない。柔軟な身体だからできる体術そのものが、彼女の武器なんだ。……背中を打たれる直前、前に踏み込んでダメージを減らした。それに、地面に落ちた瞬間にはしっかりと受け身をとってダメージを極力減らしている。

 わしっ、と僕の頭を撫でると、ノイズはまたその場に構え直す。僕も、追いついたリードもクリストもヴォイドも、改めて目の前のモンスターと対峙する。

「……行くぞ」

 一瞬の攻防の間に、僕たちの中にあった未知なるものへの恐怖心、それが少しだけ消えていた。

 ……改めて、戦闘開始。

お読みいただきありがとうございました。

ご意見・ご感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ