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踏み入るは、神の名をもつ地下神殿

仲間に加わったヴォイドに案内されて、一同が向かう先には何が待ち受けているのか……


お楽しみいただければ幸いです。

  ずずずず……ずっ……

 重いものを引きずるような奇妙な音が、僕たちのお腹に響いてくる。……音の出どころは、僕たちの前を行くヴォイドだ。

「ねえ」

『何?』

「いや……ヴォイドにしてみたら、この道って狭いよね?」

『ん、ちょっとね。でもボクの身体はこの道と同じだから、苦しいとか、そういうのはないんだ。……ちょっとうるさいけど』

「はははっ、自覚してんのか」

 会話に割って入ったのはリードだ。彼はヴォイドの後ろを僕と並んで歩いている。

 僕たちはヴォイドが飛び出してきた地面の穴から入ってきたんだけど、ヴォイドがそこに戻るまでに一苦労だった。なにせ穴をみっちりと塞ぐように飛び出してきたもんだから、一旦その身体を全部、穴の外に出さなきゃならなくて。出てきた時も大きいと感じたけど、彼の全長は飛び出した部分の三倍はあった。ずるずると、表面の皮膚(?)を蠕動させて器用に穴から這い出て、今度は頭から穴に潜る。それを追うようにして穴の中に入ったんだけど。

「それにしても……広いですね。……あ、皮肉ではないですけど……」

「分かるわよ、クリスト」

 クリストの呟きに、なにやら鷹揚に腕組みしながら頷いたのはノイズだった。クリストは周りを観察しては感心し、記録を取ることに余念がない。

「あたしたちが普通に並んで歩けるんだもの、それは広いと言って間違いじゃないわ」

 そう、穴の中は大人が余裕で四、五人は歩ける広さだった。

 ……ここで補足。穴をみっちりと塞いで出てきたヴォイドは、今この空間の壁にほとんど密着状態。彼の身体は、見た目よりも遥かに柔軟性に富んでいるらしく、細長くなったり太く短くなったりすることができると言う。ただし、中身の容量が変化するわけではないので、体積を無視して小さくなるなんて芸当はできない。……壁に密接して擦れてるんだから、少し細くなってみたらとも言ってみたんだけど……そうすると、僕たちの声が遠くに聞こえるから嫌なんだって。

「それにしても、ずいぶん枝分かれが多いんだね?」

 僕たちは、ほぼ直線上を地上で見たあの巨木に向かって進んでいた。いくつもの別れ道が僕たちの横を通り過ぎる。どの道にも柔らかな陽光が差し込んでいて、神秘的な雰囲気を醸し出していた。

『ここがメインストリートになってるんだ。街中の道があるからね。結構入り組んでるから、迷わないでね』

「へえ……建物が見えなくて道だけあるとこんな感じなんだね」

 入り組んだ道をよくよく見てみると、僕たちが入り込んだ穴と同じものに繋がるらしい、上に繋がる道も、別れ道と同じくらいあることに気がつく。それぞれが人の居住空間に繋がっているみたいだね。この街の住人たちは、独立した道を使って移動していたんだ。

「これが全て木の根だとは……俄かには信じ難いですね」

「実際に歩いてるけど、なかなか実感できないわね……夢見心地って感じ。でも……空気が気持ちいいわね」

 のんびりと歩きながら、ノイズがゆったりと伸びをする。確かに、地面の下を歩いているというのに、空気が澱んでいないどころか清々しいほどに澄んでいる。

「さすがにモンスターの気配はないけど……他の植物たち……ヴォイドみたいな生き残りはいないの?」

 ヴォイドには悪いと思ったけど、一応、訊いてみる。

『いるよ』

「えっ?」

 思わぬ方向の即答に、声が上擦った。

『ボクみたいに大きくはないんだけど、ほら、そこら中に見えるでしょ?』

 ヴォイドの言葉に辺りを見回してみるんだけど、彼が言うような、動いているものは見えない。

『一度は本当に何も聞こえなくなっちゃったんだけど……何年か前から少しずつ植物たちが成長し始めてるんだ。ボクみたいに知恵を持ったり、話せたりはしないけど』

 栄華を極めた時代の遺伝子が、目覚め始めているのだという。ヴォイドだけは特別な存在のようで、ここの人間たちが改良や実験を繰り返した結果の生命らしい。

「お前、実験されてたのか?」

『うん……でもボクを造った人たちはすごく優しかったよ。家族だった』

 『実験』なんて聞いたけど、何か悪質な意図があって造ったわけではないようだ。純粋に、共に暮らす家族となる植物を造り出したかった……ヴォイドは、その研究の結果生まれた、彼ら人間たちの大切な『家族』だった。

「でも、その人間たちも、やがて滅びた……君だけが生き残った」

『そう……ボクはボクを造った人たちに匿われて、何も見えないところで息を潜めるように言われて……。そうしたら、急にいろんな音が聞こえてきて……消えたの』

「何があったの……?」

『分からない……ボクもそのあと、ずいぶんと時間が経ってからだけど、いろいろと調べてみたら、街が壊れてて……誰もいなかったんだ……』

『……………………』

 悲しそうなヴォイドの声に、僕たちは言葉に詰まる。

 ゆったりとした時間の中、ゆっくりと前進する僕たちは、広場のような場所に辿り着いた。目の前には巨大な門が見える。

『あれが、神様に繋がる門だよ。ボクが生まれたのは、この奥。人間たちは神殿って呼んでた』

「神様の門に神殿、か」

 何やら感心した風に、リードが呟く。

 ここに近づくにつれて、さらに広がる空間。

 光に満たされた空間を覆うように、鮮やかな緑の植物がトンネルのように僕たちを迎え、導かれていく感覚。柔らかな、不思議な色の光が、その場所をさらに神秘的にさせていた。

 見えていた門は、思っていたほど大きくはなかった。けれど、普通の人間にとっては大きすぎるサイズだ。素材はよく分からないけど、周りの植物とは明らかに違っていて、人間が造ったものなんだと想像がつく。

 もともとはかなり立派な造りなのだろうが、さすがに年季が入りすぎている感は否めない。装飾のほとんどは風化しているようだけど、周辺の植物が見事にそれを補って目隠しの役割を果たしている。

 今まで歩いてきた道と禁足地とを隔てる扉みたいだ。

「……入ってもいいの?」

『もちろん。ただ……』

「ただ?」

『ここから先は、今までとは違うんだ。……みんながモンスターって呼んでる生き物もいて』

「モンスター?」

 でもヴォイドはここから出てきた。正確にはここではないかもしれないけど、たった一人で、モンスターの巣食う場所で暮らしてたっていうの……?

『ボクはじっとしてるとただの植物にしか見えないから大丈夫だったんだ。だけど、みんなは普通の人間だから……気をつけて』

「おう」

 言って真っ先に門扉に手をかけたのはリード。

 誰も言葉にはしなかったけれど、ここから先、特にモンスターがいるなんて聞かされて、ヴォイドで目の前を塞がれたままで進むには勇気がいる。特にヴォイドを敵として認識していないモンスターとなると、陰からいきなり襲われかねない。

『ボクは後ろから案内するよ』

「うん。ヴォイドも気をつけててね。僕たちはヴォイドみたいに丈夫じゃないから」

 あえて軽い調子で言ってみる。僕たちは、にわかに襲ってきた緊張感を抑えきれず、口数も減っていた。みんなは僕の気持ちを汲んでくれたみたいで、深く短く、ちょっと笑いながら深呼吸。

『分かった』

 ヴォイドの言葉に頷いて、ゆっくりと門扉を押し開ける。……そこから先の世界は一変していた。


「…………何だここ……」

 呆然と、先頭を行くリードが呟く。

「……今までの場所と……違いすぎるわね……」

 リードの後ろをついて行くノイズも。

 門の奥は暗かった。不思議な光で満たされ、ほんのりと温かささえ感じていたのに、踏み込んだこの場所には何もなかった。……無機質とも言える空間。

  カツン、カツン……

 硬質な音が響く。僕たちの足音だ。それが静かに、どこまでも続いていくかのように、響いて行く。

 広いんだけど、ただそれだけ。空間全体は黒っぽい石のようなもので造られているようだ。ただ共通しているのは、この空間にもいくつかの別れ道があるということ。どうやってそこに行くのか、という純粋な疑問を抱きたくなるような空間のど真ん中にも、別の道への入り口が口を開けている。

「随分とまた……閉鎖的だな」

「根っこの中も閉鎖的と言えばそうだけど……ここは別格ね」

 僕たちが通ってきた門から先は、ずっと奥へと続く閉鎖的な空間。四角く張り巡らされた壁や天井、床そのものは黒いけど、ほんのりと灯りを宿しているようだった。そんな不思議空間を、僕たちは奥へ奥へと進んでいく。

『ここは神様の中なんだ』

「へ? ここが神様?」

『そう。何千年もの間に木が硬質化したんだって。それを人間たちが加工したって聞いたよ』

 考えもつかない技術。いろんな神様がいるけど、ここの神様って、この巨木よりもそれをこんな風に加工して使った人間たちの方かもしれない。巨木は何かの象徴だったのかも。

 僕たちは入り組んだ『神殿』を、ヴォイドの案内で奥へと進む。…………ふと。

「……何かいる」

「ええ」

 先頭のリードとノイズが、足を止めて前方を見据える。

 二人の言葉を合図に、僕たちはすっと身構える。もはや決まりとなった攻撃・防御の呪文詠唱が小さく響く。……ヴォイドは静かに僕たちから離れ、後方で見守る。

「……何だろう? リード」

「さあな……でも小さいぞ」

「小さいの?」

「数は多いわよ……来るわっ!」

 さっと身構えたノイズとリード。その正面から。光のない、空間から。

  バタバタバタッ!

「う……っ」

「うわっ!」

 光のない空間、と思ったんだけど。実はそれ、黒い無数のモンスターの塊だった。

『ウィル・ガッシュ!』

  ごうっ!

 解き放ったのは『風』。羽音を響かせて飛来する漆黒のモンスターを直撃! 黒い塊になっていたモンスターたちは、一部を残してバラバラと落ちる。

「こいつっ!」

  ヴィシュッ、ざんッ!

 風を切る鋭い刃の音と、ヒットする音が連続する。飛んでいるモンスターに対しては、リードの武器が本領を発揮する。

 リードの意志に従って長さも形態も変化するという彼の剣が、中空を漂うモンスターに次々と襲いかかり、ことごとくを切り裂いて床へと誘う。

「はっ!」

 ノイズも負けてはいなかった。軽く助走をつけると軽やかに宙を舞い、身体をひねって繰り出す脚と拳で、容赦なく叩き落とす。

 クリストの防御結界は、僕たち四人を個別に包み込んでいる。死角からの攻撃や、あるいは互いの攻撃から身を護ってくれている。……主に僕の攻撃魔法の余波を喰らわないように……。

 僕たち三人が三人とも、かなりの数のモンスターを叩き落としたんだけど、それほどにその数は多かった。

 最初『小さい』とは思っていたモンスターだけど、それぞれが両手を軽く広げた程度の大きさはある。全身漆黒、真っ赤な目が三つもついていて、暗闇にそれだけが異様に目立っている。嘴のようなものがあり、無数の牙が不気味に光って見え隠れしている。鉤爪付きの翼や脚についた爪での攻撃の他にも、噛みつき攻撃もありそうだ。

 一見コウモリのようにも見えるけど、どちらかと言うとカラスに近い。どちらに近いにしろ、ここまで凶悪な面構えのものはいないだろう。

「クリスト、できるか?」

 リードが剣を繰り出す合間を縫って振り返り、クリストに問いかける。

「ええ、もう少し!」

「僕も!」

 数発の『風』を解き放ったあとで続け様に唱えておいた別の魔法も完成間近。クリストの方も完成に近い。その間にも、リードとノイズが叩き落としたモンスターが床の上に小山のように積もっていた。飛んでいるものはもうわずかなんだけど、それでも執拗に襲いかかってくるその根性。そのモンスターたちは、激しく動くリードたちの方に標的を絞ったようで、二人はうまくそれを利用しながら動いている。

「いいかっ?」

 もう一度振り返って、リード。気づくと、モンスターは見事に二人の陽動に引っかかり、ほぼ一箇所に集められていた。

 僕たちは頷くだけで応えて、リードとノイズがタイミングを見計らう。……二人同時にその場から飛び退く、その瞬間!

『光よ、悪しき者への制裁を!』

  ギキインッ……

 クリストの十字架から銀色の光が床に向かって延びる。延びた光は結界を描き、中にモンスターを閉じ込めて動きを封じた。

『我らに仇なす愚かなるものに……従え』

 ここでアレンジした魔法を解き放つ。……『魔法』っていうのは、その場で効果を発揮するだけではなくて、炸裂する前に自分の魔力で制御することで操ることができる。……ま、そんなことはどうでもいいか。

『ブレイク! バースト・フレア!』

  ゴフウッ!

 弾けた炎の球が、クリストの結界の中で円柱状に燃え上がった。その結界に囚われたモンスターごと、炸裂した炎に喰われた。焼ける臭いだけが僕たちの鼻についたけど、それもやがて消え去った。

 僕が使う炎の術は、僕以外の周辺にかなりの影響を与えることになるのだけど、クリストの結界を応用して協力してもらうことで、その威力を抑え込む、つまり結界外に影響を出すことなく使えるわけだ。

「……ふぅ」

「大成功ね」

 モンスターの消滅を確認してから結界を解くと、炎と、それが生み出した熱風の名残が僕たちの顔を撫でる。それがすっかり落ち着いてから、離れていたリードとノイズが戻ってくる。

「怪我はないですか?」

「ええ、大丈夫よ」

『みんな……すごいや』

 離れていたヴォイドも、恐る恐る戻ってきた。

 もう一度、魔法を発動させた場所を見てみる。クリストの結界もあったから、周りの床や高い天井には何の影響もなかったみたい。

「しっかしこの床、丈夫だな……」

「え?」

「俺さ、何回か剣の切っ先ぶつけてんだけど、傷一つできてねーから」

「……下手クソね。」

「何?」

「飛んでる敵叩き落とすのに、なんで床に剣が届くのよ?」

「それは……勢い余ってだな……」

 ノイズの指摘に、リードは口籠もりながら言い訳する。ま、いつものこと。

『今の……モンスター、だよね?』

「そうだよ、なんで?」

『あれも、人を襲ってたみたいだけど……』

「どしたの? ヴォイド」

『この街の人間たちが消えたときは……あんなモンスターとか、見たことなかったから……』

「え?」

 てっきりこの街、モンスターに襲われて全滅、滅亡したものだと思ってたんだけど……ヴォイドの口振りから察するに、そんな風にして滅びたわけではないらしい。モンスターだとしたら、ヴォイドはもっとモンスターに対して警戒心を持っているはずだしね。

「じゃあ何で、この街は滅びたんだ?」

 リードの言葉に、ヴォイドは僕たちの横をすり抜けて、さらに前方を示した。

『はっきり知ってるわけじゃないんだけど、きっとこの奥に、ヒントがあると思うんだ』

 奥。

 ヴォイドが見据えている先には、黒い壁に四方を囲まれた小さな扉が見える。

 帝都パスランを襲った悲劇、その真相に、僕たちは近づいていた。

お読みいただきありがとうございました。

冒険も佳境に近づいて参りました。最後までお付き合いいただけると幸いです。


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