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未知との遭遇

探索に行ったリードがどんな情報を掴んで戻ってくるのか……彼のことだから期待はしない方がいいかもしれません。

とりあえず続きをどうぞ。

   ごぐうぅん…………

「…………?」

   ぐううんん……

「……何? この音……?」

「さあ……」

 リードが穴に入ってからしばしの時間が経った頃。地面の下から響いてきた音。

「地鳴り……揺れてる?」

「ええ……かなり遠くですが……」

「リード、どこまで行っちゃったのかしら」

 不規則なようで規則的な間隔で響いてくる音は、かなり通い。だけど……やっぱりお約束とでもいうのか、近づいてきている不気味な音。

 リードが探索に行っているのは、僕たちが覗き込んでいる穴の奥。真っ直ぐの竪穴なのか曲がっているのか、どこまでどんな風に進んでいるのか検討はつかないけど……音の発信場所は地下だろう。

「リード……」

 呟いて、僕はゆっくりとリードが入って行った穴を覗き込んでみた。

「…………………………」

「? ……ルシア? どうしたのよ?」

 覗き込んだ途端にその不自然な姿勢で固まった僕に、背中からノイズの声が届いた。

「ふ、ふ……二人とも……いいい急いで」

「何をよ?」

   ごぐううぅうん……っ

 さっきよりも大きくなった音。僕たちのいる場所にも揺れが届き始めていた。

「せっ……せせ」

「せ?」

「戦闘準備っ!!」

『はあっ?」』

   ごごごごご……っっ

 二人そろって思いっきり疑問の声を上げつつも、一段階大きくなった地鳴りの音に合わせるように一気に腰を上げて戦闘態勢をとる二人。僕も固まった身体を無理やり穴から引き離し、杖を握り直して立ち直る。瞬間。

   ごがあんっっ!!

「ぎゃあああああっ!」

『リードっ?』

「ああああっ? お前らこれ何とかしてくれぇっ!」

 入った穴を豪快に破壊して巨大化させながら、地面の下から文字通り飛び出して来たのは、探索に行っていたはずのリードと、その(余計な)オマケ。

「なななななな……なっ、何なのよおっ⁈」

 リードよりも、その彼を地上遥か上まで吹っ飛ばした『余計なモノ』から目を離せないまま、ノイズが『な』を連発。クリストは言葉もないのか、同じように視線を固めたたまま十字架を握り締めている。

 リードを吹っ飛ばしたのは、間違いなくモンスターと呼ばれる類の生き物だろう。

 地下へと続く穴を押し広げるように飛び出してきたのは、巨大なミミズのような身体をした細長い生き物。全身は黒っぽい茶色で、弾力のある木の幹のように長い。ぐにゃりとしならせたその先端の部分には、無数の触手が蠢いている。その触手、一本一本は男性の腕ほどもある。……アレに捕まったらヒトの骨などひとたまりもなさそうだ……。

 そんな触手で器用にお手玉をされるように、リードは未だ地上に足をつけることができないでいた。逃げても逃げても足元にやってくる触手の上を器用に転がりながら逃げているその様子は、サーカスの団員のようだ。……とんでもなく高い場所で曲芸やってるピエロみたい。

「ど……どうしようっ」

 一瞬リードの曲芸に魅入ってしまっていたけど、杖を構え直して二人に聞いてみる。あの巨体相手にどうしたらいいだろう……。

「どうするったって……コイツ……リードに夢中みたいよね?」

 握り拳にグローブ嵌めて構えながら、ノイズはクリストに意見を求める。

 僕たちの目の前にあるのは、このモンスターの胴体であろう部分。そこから人間が三人くらい縦に並んだ程度の高さまでそれが続き、さらにその先端の触手の上にリードがいる。その触手、長さはリードの背丈よりも長い。僕たちに触手が伸びてくることもなく、リードを転がして遊んでいるようにも見えた。

「とにかく……リードを助けないと……」

「……それもそうだね。……でも、どうやって?」

「たぁすけてくれぇええぇ……っ!」

 遥か頭上からリードの悲痛な叫び声。

「じゃ、じゃあ、この辺、攻撃してもいいかな?」

 僕は見上げながら目の前のくねっている胴体(?)辺りを指差して声を張り上げる。

「何でもいいから早くしてくれぇっ!」

「分かったぁ! 『メガ・フレイム』っ!」

   ゴウッ!

 叫んだ勢いで炎の塊を至近距離からぶっ放す。

「うわごめんっ!」

 もう一つついでに叫んでから、ノイズとクリストを追って距離を取る。……炎の術の爆風が、まともに僕たちを襲ったんだよね。これだけ至近距離で使ったモノだから当然といえば当然なんだけど……顔や手がちりちりする。前髪あたりが少し焦げたかもしれない。

「どうですか? 様子は?」

 ローブの袖で顔を覆いながら、クリストが冷静に聞いてくる。

「そ、そうだね」

 思わず背を向けていたんだけど、慌てて振り向いて『敵』に視線を戻す。……が。

「ダメ! ちょっと焦げたくらいしか効いてない!」

「おーいっ! 焦げ臭いぞぉ!」

 触手の上で転がっているリードが、何かコツでも掴んだようだ。しっかりと起き上がってステップを踏んでいるような足取りのまま叫んでくる。

「なぁによ、ずいぶんと、余裕じゃないのっ!」

   ゴゴンッ!

「うをわっ!」

   べし……っ

『…………………………おかえりリード』

「……………………おう……」

 叫びながら勢いをつけて思いっきりかましたノイズのドロップキックは、見事に『敵』の胴体にめり込んで、バランスを崩させることに成功した。バランスを崩すということは、もちろんリードが乗っかっていた触手のバランスにまで影響を与えるわけで……。

 結果リードは、ノイズの見事な攻撃によって救出されたのだった。

 無事着地完了とはいかなかったリードは、しばらくそのまま動かなかった。……まともに背中を打ったらしい。

「アイツはっ?」

 ハッとして、リードから視線を巨大な触手付きミミズに戻すと、奴は大きく仰け反った身体をゆっくりと戻すところだった。

「……ダメージはそれほどないようね……」

 悔しそうに、ノイズ。

「僕の上級クラスの魔法なんだけどなぁ……」

 コイツがイキリ立って襲って来たら、どんな術で応戦しようか。……かなり苦戦を強いられそうだ。

 クリストはリードを助け起こしているようだけど、二人の注意も完全にモンスターに向いている。リードはそれほどの怪我もなくむっくりと起き上がり、いつでも動ける状態。

『……………………』

「……何だろう……?」

 だけど、いつまで経っても次の展開に移行しない。身体を元のように地面から垂直に立て直したあと、ゆっくりと揺めきながらそこにいた。ただ、触手だけはこちらを向いて、僕たちはそいつに観察されているような、奇妙な感覚に襲われる。

「……これって…………敵なの?」

「……ううむぅ……俺を襲ってきたように見えたからな。敵であることは間違いないと思うんだが」

 腕組みをしながら難しい顔をして、リード。

「よくよく考えたらさ、リードで遊んでただけみたいにも見えなかった?」

「言われてみると……そうですね」

「うわっ、クリストまでそんなこと言うのかよ……?」

「だって攻撃してくる気配、ないわよ?」

「…………………………」

「……何だろ、これ……」

 一応の戦闘態勢に入ったまま、僕たちは少しずつ、気を抜いていった。目の前の巨大ミミズは僕たちをただ観察しているだけに見えたんだ。

『……にんげん?』

 え?

『人間……だよね……?』

「……誰だ? 今喋ったの……」

「僕たちの誰の声でもないよ」

『ボクだよ、今君たちの目の前にいる』

 や、やっぱり……

 いきなり聞こえた『声』は、今目の前にいる巨大ミミズが発したものだった。有り得ないと思いつつも、実際に聞こえてきている声は、僕ら四人の耳に確実に届いているのだから、疑いようがない。

 その声は、ちょうど僕と同じくらいのトーンで話しかけてくる。

「君は……えっと……」

 『何なの?』と訊こうとしてやめた。いきなりそれは失礼かも……って、不意に思ったからなんだけど。

『ボクは、ここの人間に造られた生命。君たちにとってはモンスターに見えるだろうけど……危害を加えるつもりはないから』

 穏やかに、自己紹介をする巨大ミミズ。

「じゃあ何で俺を吹っ飛ばしたりしたんだよ?」

 腕組みのままジト目で巨大ミミズを睨んで、さっきまで遊ばれていたことを怒っているらしいリードが問う。緊張感は解けたのか、相手に向かってまるっきり普通の話し方。

『ごめんなさい。久しぶりに人間の匂いがしたから、嬉しくて、つい……』

「ったく……殺されるかと思ったぜ」

「そのわりには、あんたも余裕で遊んでるように見えたわよ?」

 半眼になって突っ込んだのはノイズ。彼女もまた、緊迫感から解放された様子ですっかりリラックスしているみたい。ま、相手に殺意と敵意がないのを確認できれば、緊張感を保っているだけ労力の無駄だしね。

 ここで僕たちは少し作戦会議。といっても、ちゃんと話し合ったわけじゃなくて、雰囲気だけで示し合わせる程度だけど。

 向き直ると、目の前には壁のような存在感。

「ねえ君の名前は? この場所で何があったのか、知ってる?」

 僕たちは『彼』を情報提供者、つまり『味方』としてみることにした。何か考え……僕たちにとって不利となることを企てているのなら、嘘の情報を渡しかねないんだけど、その時はその時。今現在、何の情報もない状態で意味もなく探検を続けるよりは、ずっと進展があるだろう……僕たちはそう考えることにした。

 単刀直入に、目の前の生き物からの情報収集を試みる。

『ボクは……ヴォイドって呼ばれてた。何があったのかは……ボクには分からない……。だけど、あの時から急に、誰の声も聞こえなくなった……みんないなくなっちゃったんだ……』

 悲しそうな声で、ゆっくりと話すヴォイド。うなだれたようにゆらゆらと揺めきながら、彼の言う『あの時』を思い出しているのだろう。

「私たちが知ろうとしていることは、きっとあなたにとっては辛いものだと思います。それでも、私たちに教えてくれますか?」

 優しく、そっと手を差し伸べながらクリストが語りかける。

『………………』

 クリストの声を聞き、押し黙って考える様子のヴォイド。

『……うん。ボクも、何があったのか……詳しく知りたいし、誰かに、ボクのこと知ってもらいたいから……協力するよ』

「ありがとう、ヴォイド」

 いきなり穴から出てきたときは、どうやって戦おうかなんて考えていたんだけど……奇跡的に話が通じて助かった。ヴォイドの決意に感謝して、すっかり和んでしまった。リードも怪我しなくて済んだし、なによりヴォイドも協力的。……僕たちって本当に運がいい。

「でさヴォイド」

『なに?』

 いつもの調子で、すっかり友達になったらしいリードが、やっぱり気軽に声をかける。

「お前さ、あの穴の奥にいたんだろ? この穴ってどういう仕組みになってるワケ?」

「なによリード、あんたそれを探りに穴に潜って行ったんじゃないの?」

「ああ? そりゃそうだけどよ……結構複雑に入り組んでるみたいでさ、結局のところ良く分かんなかったんだよ。オマケにコイツに追っかけられて速攻で逃げてきたんだから」

 むくれながらヴォイドを指差し言う。

『……ごめんね?』

「あんたが謝ることないのよ? こいつの不用心さが悪いのよ」

「ノイズ……お前は一言多い!」

「なによ、事実じゃない!」

「やめてよ二人とも……話が進まないんだから」

「そうですよ、ヴォイドも呆れてるようですけど?」

『う…………』

 クリストに言われて、ぴたりと口論をやめた二人がそろってヴォイドに顔を向ける。表情……っていうのは分からないけれど、雰囲気だけで察するに、呆れているみたいだった。

「いいよ、二人のことは放っておいて。でさ、その穴の中ってどうなってるの?」

 僕は、ヴォイドが挟まったままの穴を指さして訊いてみた。

『ああこれ? 人間たちが暮らしてた場所だよ。建物は地上に出てるけど、道は地下にあって地上を歩くことはあんまりなかったみたい』

「…………そうなんだ……」

 その地上を苦労して歩いていた自分たちが、何やら急に恥ずかしくなってきた……。……しょうがないじゃん! 知らなかったんだからさ!

『でもあの、今とはだいぶ雰囲気も違ってたから……ね?』

 急にしょんぼりしだした僕を慰めるように、ヴォイド。

「ま、それはいいんだけどね。……で、人間の生活の場は地下だったってこと?」

 僕は慰めてくれたヴォイドに苦笑で応え、気持ちを切り替える。

『そう』

 今は老朽化、というより風化してしまって当時の名残は想像するしかないほどなんだけど、こうなる前……つまりは繁栄していた当時、全ての『道』は地下にあった。ヴォイドが言うには、地下通路は人が造ったものではなく、巨大な植物の根をそのまま通路として利用していたらしい。その空洞には適度な陽光が差し込み、天候に影響されることなく快適だった。建物は半分地下、半分地上くらいの割合。

 やっぱり僕たちとは全く違う文化がここにあった。人が余裕で生活できるほどの空間を生み出す植物自体、存在を疑いたくなる話だけどね。

「じゃああの木は? あの一際目立ってるやつ」

 指差すのは、僕たちが目指していたあの巨木。

『あれが地下一体に根を張って、生活を支えているんだ。ここの中心だよ。人間たちは神様って呼んでた』

「神様かぁ……」

『あそこに行きたいの?』

「ああ、行きたいな。行けるのか?」

『もちろんだよ。だってボク、あそこで知恵と言葉を貰ったんだもの。行くのなら案内するよ。あっちには人間たちの残したものもあるしね』

『本当っ?』

『じゃあ、ついてきて』

 そんなワケで僕たちは、この土地で生まれたヴォイドに導かれ、街の中心に腰を据える巨木の元へと歩みを進める。この土地の『神』という存在を確かめるべく……。

お読みいただきありがとうございました。

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