おそろい、白と紫そして片想い
おそろい、白と紫そして片想い
私、穂乃果には親友がいる。名前は楓でその名前の通りに綺麗な紅葉色の長い髪をしている。最初の出会いは幼稚園の頃、楓が一人で遊んでるところに私が乱入したのだ。私は結構押しが強い性格で、お淑やかな楓と仲良くなれたのは楓が優しかったほかない。その関係は今、高校生になっても続いている。
「穂乃果、今日はちゃんと宿題やってきたでしょうね?」
「もっちろんだよ!見てこれ、全部の答え無限になったんだけど合ってる?」
「穂乃果…今回の宿題の範囲、極限じゃなくてベクトルよ」
「えっ…」
楓はとりあえず頭がいい。そして私は楓とは逆で頭の出来はよくない。せっかくやってきた宿題も間違いだらけで困ってしまうのだ。まさかやるべき範囲すらも間違えているとは思っていなかったが…。
「はぁ…しょうがないな、教えてあげるから今から一緒にやろ」
「ありがたや〜」
これがいつもの朝の会話だ。楓が私に宿題を教えるいつもの日常。私にとってそんな些細な日常でも大事にしたいと思っていた。なぜなら、私は楓のことが好きだからだ。親友として、幼馴染として好きというわけではない。心の底から一人の女性として好きなのだ。
小学生低学年の時に男子よりも楓といる方が好きだし、楽しいと思ったことが全ての始まりだ。もちろん、そんな歳で恋心を理解しているとは思えないが高校生になった今でも好きなのだ。これはれっきとした一つの恋心だろう。
そんなある日のこと楓がとある男子に告白されたのだ。楓は女の私を恋に落としてしまうほどかわいいのだ。男子が告白するのも納得できてしまうが、私は内心ひやひやしていた。楓と付き合えるなんて思ってはいないが、やはり彼氏ができてしまえば一緒にいられる時間が減ってしまう。それが怖かったのだ。
結果から言えば、楓は付き合わなかった。別にタイプの人でもないし、話したこともないから興味なかったらしい。とりあえず安心できた私はアイスをおごってあげることにした。
「何々、穂乃果は私に付き合ってほしくなかったのかしら?」
「え、なんで?」
「だって、私にアイスおごることなんてほとんどないじゃない。つまり、私が付き合わなかったことが嬉しかったってことでしょ。違う?」
「ち、違くはないけど…」
違くはない。ただ、楓が思っているであろうこととは少しずれているのだ。
「ふ~ん、私ってば穂乃果に愛されすぎてるのね」
「もう、からかわないでよ」
「からかってるわけじゃないよ、穂乃果が可愛くて」
「アイス奢るのやめよっかな~」
「ご、ごめんって。私、棒アイスがいいな?」
「はぁ、買ってくるから少し待ってて」
「ありがとうね」
楓はバニラのアイスが好きなようで、それ以外の味を食べたことがほとんどないようだ。確かに私の前でバニラ以外を食べていたことはない。逆に私は新商品というものに目がなく、毎回違う味を食べている。そして今回も新商品と書かれていたシロップ味のソフトクリームを買っていた。
「穂乃果っていつもいろんな味のもの買ってるけどおいしいのそれ?」
「うーん、当たりはずれはやっぱり激しいよ。今回は大当たりだけどね、すごくおいしい」
「私も一口もらっていい?」
「え…いいけど、私が舐めてないところもうないよ?」
「大丈夫よ、私そういうの気にしないタイプだから」
普段バニラしか食べないのに、私のアイスに興味を示した上に私が舐めた部分を楓が舐めている…。関節キスよりも上な状況ではないだろうか?
「確かにおいしいわね。私も次からは違う味も試してみようかしら」
「そ、そうしたほうがいいんじゃないかな」
「その時は穂乃果にアドバイスでもらうわ。あっ」
楓が自分のアイスを気にしていなかったせいで楓の手にアイスが垂れてしまった。私はポケットの中からハンカチを取り出し、ふき取ってあげようと思ったが楓もハンカチを持っていたらしくすでにふき取っていた。
「って…あれ、それ同じハンカチだ」
私のハンカチも楓のハンカチも布が白く、ふちが紫色のものだった。これだけ聞けばどこにでもあるようなハンカチかもしれないが、同じだとわかったのはハンカチに小さな百合の花が描かれていたからだ。そしてこのハンカチは私が楓にかわいいでしょと紹介したものだった。
「あ、いや…これは…」
「あれ、私とお揃いにしたかったの?」
「あぅ…」
楓は恥ずかしそうに照れている。顔が少し赤くなり、下をうつむいている。
「だって、穂乃果が可愛いでしょって言ってくるから買っちゃったのよ…」
「ついでにお揃いになるものね」
「それは言わないお約束でしょ」
「さっきのお返し。楓もなんだかんだ言って私のこと大好きだよね」
「ふーんだ、宿題教えるのやめちゃおうかな?」
「それだけは本当にやめて、私留年しちゃうから」
私が楓をからかうといつも宿題のことを引き合いに出されて負けてしまう。それに恋をしたほうが負けっていう言葉もあるし、私は楓に勝てることはないんだろうなぁ。ただこの恋心を隠して、永遠の片想いを楽しむだけだ。
あれから時は経ち、私たちは社会人になっていた。私たちは大学が別々になり私が一人暮らしするようになってから軽く疎遠のようなものになり、そのまま今もあっていない。きっと楓のことだ、立派な社会人になり彼氏の一人や二人でも作ってるんだろうな。それに比べ私は楓への気持ちがいまだに尾を引きまくって彼氏も彼女もできたことがない。そんな時だった。楓から久々に会わないかと電話で誘われた。私は喜びのあまり、いいね!会おう会おうとハイテンションで答えてしまった。
場所はおしゃれなカフェテリア、そこにいたのはモデル顔負けの私の意中の相手…楓だ。
「久しぶり、きれいになったね楓」
「ふふ、ありがと。穂乃果もかわいくなったね」
「お世辞なんて言わなくていいのよ、楓と比べたら私なんてミジンコよミジンコ」
「そんなことないわよ」
あぁ、懐かしい。高校までの長い間楓と一緒にいたせいで会話をするだけで安心してしまう。
「それで今回は何で急に会おうなんて言い出したの?」
「それは…大事な報告があってさ…」
楓はそういうと真剣な顔になり、少しもじもじとし始めた。何となく察しがついた、彼氏ができたか結婚することになったっていう報告だな。うぅ、少し泣きそうになるがこれはわかり切っていたことだ。素直に応援してあげるのが私の役目だろう。
「私…今お付き合いしてる人がいるの」
「そんなとこだと思ったわ。相手は誰?相当のイケメンなんでしょうね」
「男性じゃないんだ」
「え…?」
「女性なの、だから私の彼女…かな」
どういうこと?私は一瞬困惑してしまった。だって、楓が…え?楓も私と同じで女性が好きだったの…?
「きゅ、急に言われても困るよね…。でも穂乃果には言っておかなきゃって思ってさ」
「そ、そうなん…だ」
「うん…」
私はその言葉を聞いたとき泣いてしまった。きっと楓が女性のことが好きでも私を、穂乃果を恋愛対象にしていないことがわかってしまったからだ。
「ど、どうして泣くの?そんなにショックだった?」
「ううん…なんでもないの」
「…」
確かにショックだ。高校生のうちに告白していたら何かが変わっていたかもしれない。そう思わずにはいられなかったからである。どうせ楓は私を好きならない、なんていう先入観がなければ今の楓の隣には私がいたかもしれない。
「…よかったね、お付き合い出来て。どれくらいなの?」
「まだ一週間かな…」
なら私のほうがいいよ、そう言葉に出てしまいそうだった。私たちは何十年も一緒にいて、お互いのことはお互いが一番知っているはずだ。なら付き合って一週間の相手より、私と新しく付き合い始めたほうがいいんじゃないか?なんて口が裂けても言えなかった。楓が幸せそうな顔をしているからだ。楓が自分の手でつかみ取った幸せを私が壊していいわけがない。
「穂乃果もさ、出会いはないの?」
「出会いはないかな」
「私が紹介してあげよっか?」
「ううん、大丈夫。私男性に好かれるような女じゃないからさ」
「そう?高校生の時私穂乃果のこと好きだったけどなぁ」
「え…?」
その一言を聞いてしまった。楓は小さな声で言ったつもりだっただろうが、私は聞いてしまった。楓が私のことを好きだった…と。それを聞いてしまったせいで私にもまだチャンスがあると思わされてしまった。自分の思っていたことが、我慢していたことが口から零れ落ち始めた。
「なんでそんなこと言うの」
「え?」
「なんで私のことが好きだったっていうの?」
「ご、ごめん…女が女を好きっていやだよね…」
「違う、違うの…。私も楓のこと好きだったの、付き合いたかったの…でも!楓が私を好きになんてなるわけないって、そう思ってずっと我慢してたのに…何でそういうこと言うの!」
「ごめん…」
「そんな付き合って一週間の女より私にしたほうが絶対いいよ。私ならどんな楓でも受け入れられるし、愛していてあげれる。私は女性とか男性とかじゃなくて、楓じゃなきゃ…だめ…なの」
「ごめん…」
私が本格的泣きだしてしまい、楓はその間に帰ってしまった。私も誰もいない一人暮らしの家に寂しく帰り、仕事中もどこか意識のないまま作業を進めていた。
楓に会って一週間がたった時、楓から連絡をもらった。正式なお付き合いのお断りについての話だった。こんなことで私の片思いは終わってしまうのか…。私は後悔を胸にそれをただ嚙み締めるだけだった。
白百合:尊厳、純潔、無邪気
紫百合:特別な花言葉はない
後悔って、言わないで終わった時と言ってしまった時…どっちの方が辛いんでしょう?言ってしまった方が…いいと思いますけどね、言わないことはいつまでもできますが、言うことはその一瞬でしかできません
言葉にして伝える、本当に大事なことです
なので聞きます、楽しめたでしょうか?よかったよーって思っていただけたら幸いです!ではまたどこかでお会いしましょう、お相手は芝鳥でした〜