【悲報】俺氏、追放する側だった。
追放系(する側)のを初めて書きました! よろしくお願いします!
趣味短編ですけど!
「出て行け!」
鎧で身を包んだ青髪の青年が、薄汚れた衣を身に纏った少年を蹴り飛ばす。
「テイマーのくせに魔物はろくに捕まえられねぇ、魔物もいるのは攻撃しかできねぇスライムだけ――テメェには何が出来んだ、このくそ無能が!」
「くっ…………」
「何だ? 何か言いてぇことでもあんのか?」
「ボクは――!」
少年は胸に手を当て何かを訴えようとしているが、青年は聞く耳を持たなかった。
「うるせぇ!」
青年が少年の体を再び蹴り飛ばす。
「とにかく、テメェはうちのパーティから出て行け。いらねぇんだよ、テイマーなんざ」
ピクピクと痙攣する少年を横目に、青年が再び歩き出す。
森の息吹で木々が騒めき、青年の青髪が揺れた。
(――えっ? 俺じゃないの? 追い出されるの)
俺は困惑しつつも、青髪の男や他の仲間に付いて歩く。
――俺の名前はザック・バラン。
世界最強の賢者だ。
なんていうのは嘘で、賢者のように魔法は使えない。
攻撃魔法はおろか治癒魔法すら使えず、剣も振れなければ防御も貧弱なクソ雑魚野郎なのである。
が、何故かパーティの仲間からは慕われていて、誰もが俺を『天才賢者』などというのだ。
本当に何もしてねぇのに。
いや、よくある『くぅー! 俺、なんかやっちゃいましたか~?』ではなく、『俺、また何もできなかった……』の方だ。
簡単に言うとあれだ、一番の敵は味方ってやつ。
この謎現象について、長年の研究と観察をした結果、一つの答えが出た。
俺には『他人に自分が活躍している幻影を見せるスキル』がある。
――青髪の男剣士、ダハ。
――黒衣の女召喚士、ラズリ。
――最高神官と呼ばれた聖女、マリー。
俺には、この三人の仲間がいる。
この三人の行動が俺の功績になり変わるような幻影が、周りに見せられている。
例えばダハが攻撃すると、俺とダハ以外の人物には『ザックが魔法で攻撃をした』様に見える。
ラズリの召喚生物が行動をとると、ラズリと俺以外には、まるで俺がやったかのように見える。
そして、マリーが治癒魔法を唱えると、大体俺がやったように見える。
それにその幻影の効果は、戦闘中にしか効果を発揮しない為、どうしても俺が全てやったように見えてしまうのだ。
だから、前に俺は『パーティを抜けさせてくれ』と言ったのだが、何故か俺ではなく、超強いテイマーのぴくろー君が追放されてしまった。
「これでよかったんだろ? わかってるぜ」
ダハが俺に親指を立て、グッドサインを送る。
ラズリもマリーも、何故かぴくろーに不満を持っていたらしく、追放に反対の意を示さなかった。
せめてこのスキルが戦闘時発動とかではなく、自由に使えるとかであればまだよかったものを……。
魔物にも幻影は見える為、俺が怖くて近づいてすらこないのだ。
こういうの、絶対に後から大きく響くと思うんだけど、スキルを切る方法ないのか?
「この先が魔王城だ。雑魚を追放できてよかったぜ」
ダハが指をさす方向には大きな城。
まるで、俺らを喰おうとしているかの如く、巨大な城門が開いている。
(あっ、普通に迎え入れてくれるんだ)
――このパーティとは数年も前に出会った。
俺は一人で旅をして、スライムやゴブリンといった雑魚を倒しながら、採取の依頼をこなしていた。
が、何故か周りには、一つ目のサイクロプスや大きな金棒を持つオークを倒しているように見えていたらしく、評価が少しずつ上がって行ったのだ。
いつかは覚えていないが、確か変な白いスライムを倒した時からだったか。
そういえば、ぴくろー君が従えているスライムも白かったな。
何か関係があるのか? まあそんなことはどうでもいい。
――一人で旅をしていると、酒場でダハたちと出会った。
街で評判がよかった俺は、ダハに『ごちゃごちゃ言うな、いこう!!!』と誘われたのだ。
そして、ダハ、ラズリ、マリー、ぴくろー、俺の五人で世界各地を旅していた。
ある時には大国が抱える問題を解決――。
またある時には、地下に巣食う大迷宮の魔物を討伐した。
俺は、殆どどころか、コンプリート級に何もやっていない訳だが、なぜが信頼だけは厚くなっていった。体の皮はどんどん薄くなった。
そのせいもあって、世界からは『魔王を討伐せんとする者ら』というレッテルを貼られ、ここまで流されてきたのだ。
恥の多い人生ではなく、後悔の多い人生を送ってきてしまった。
だが、今更後戻りはできない。
今まで通りなら、仲間たちが全員で魔物を軽く捻りつぶしていたため、どうとでもなっていた。
しかし、魔王は?
世界を掌握しようとしている魔族の君主となれば、大迷宮のボスとは比べ物にならない程強いだろう。
心してかからなければ、やられてしまうに違いない。
「……ここが、魔王の部屋か」
…………アレ?
なんかもう付いてるんだけど。
「さすがザック君。歩きながらもダハと一緒に魔物を蹴散らすなんて……。本当に助かったわ」
そう言うのは、黒衣に身を包んだ金髪の女、ラズリ。
「うん、ありがとう。私を守ってくれて」
俺より一回り体の小さな少女、マリー。
彼女は自分に見合わないようなブカブカの法衣を着て、いつも洗濯の際に「なんでこんなに汚れてるのー!?」なんて訳わからん事を言うのだ。
いや地面にこすれとるやないか。
「みんな、心の準備はいいか?」
ダハは扉に手を掛ける。
ラズリとマリーがコクリと頷く。
俺も軽く「うん」と言った。
「うおおおお」
ダハは重たそうな鉄扉を開くと、赤いカーペットが奥に続いた、一つの大部屋が現れた。
カーペットの最奥には玉座――つまり、魔王が座していた。
「ふ、よくきたな」
女の子の声とともに、玉座に座る影が動く。
「待ちわびていたぞ」
玉座の前の階段を降りながら、魔王と思しきピンク色の髪をした幼女が降りてくる。
鎧に身を包み、頭にはそれらしい金の冠を被っている。
まさに魔王――というか、王になりたての子ども?
「お前が、魔王!?」
ダハが剣を構える。
「いかにも。我が魔王ぞ……。正確には昨日お父さんが死んだから、今日から魔王じゃぞ」
「くっ、なんて覇気だ――!」
ダハが冷や汗をかいている。
他の二人も、魔王を警戒しているようだ。
んー……。
俺の緊張感がないだけなのか?
全然覇気とか感じないけど。
「――速攻でケリをつける!」
ダハが物凄く早く走り込み、魔王に近づく。
「ククク……。ハ――ッ!」
女の子――もとい魔王が、右腕で空を切ると強い衝撃波が飛んできた。
「ぐわあああああああっ!」
ダハの体が吹き飛び、体の彼方此方が変形した形で壁にうちつけられた。
「きゃああああああ!」
ラズリとマリーが、ダハの死体をみて叫ぶ。
「貧弱よのう、貧弱よのう。ナハハハ! しかし、そこのお前。我の攻撃を避けるとは……。なかなかやるようだな」
魔王の視線が俺に向く。
「え、俺?」
全くもって、何のことか分からなかった。
恐らく、魔王にも幻影が見えているのだ。
「こ、怖がってなんていられない! 私たちにはザック君がいるんだ!」
ラズリとマリーが前に出て、攻撃魔法を唱える。
炎の玉に、雷を纏った氷の刃。
それらが魔王に飛んでいくのだが、全て打ち消される。
「クク、ククク」
魔王が手を掲げ、巨大な炎の玉が魔王の頭上に現れた。
「しね!」
そう言って、魔王は俺たち目掛けてそれを発出した。
「もうダメ――!」
ラズリがそう言った瞬間、目の前に一人の男が現れた。
――――ぴくろー君である。
ぴくろー君は魔王の攻撃を防ぐなり、スライムに指示を出して魔王に突進させた。
スライムの攻撃を避けそびれた魔王の腹に、三十センチほどの大きな円が空く。
そして、魔王はそのまま生命としての機能を停止――――
死んだのだ。
「はあ、はあ……」
ぴくろー君が息切れを起こしている。
「す、すごいよザック君! まさか、一撃で魔王を倒しちゃうな――――え?」
振り返って俺の手を握っていたラズリの胸には、一本の刃が貫通していた。
一瞬の出来事だった。
マリーはというと、いつの間にか首から血を拭き出しながら倒れていた。
「ああ、そうか、お前だったんだな……」
剣を抜かれ、俺の胸に倒れるラズリの奥には、ぴくろー君が恐ろしい目つきで俺を見ていた。
「どうだ? いい目を見てきた気分は? お前なんだろ? ボクのリャクダツを奪ったのは……」
「な、何の話だ?」
俺はラズリを抱えながら訊き返した。
「何年も前、森にいた白いスライムを殺したのは、お前だよな?」
「――!」
「あいつは優秀なスライムだったんだ……。相手や周りに幻覚を見せて攪乱させる……。本当に強い奴だった……。なのに! あの日! あの昼下がりに! ボクがは外に放している間! あいつは何者かに殺されたんだ!」
ぴくろー君の腹から出される声が部屋中に響き渡る。
俺が殺したのは、ぴくろー君のスライムだったのか。
「それからだ……。ボクは仲間内で無能扱いされ始めた。今の相棒はリャクダツとは違う個体。ただ攻撃することしかできない、普通のスライムだ……」
「だ、だから何だ?」
「お前は知らないだろうな……。スライムは特殊能力を持つ個体である場合、スライムの体液を体に取り込むと、そのスライムの能力を取り込んだ人物に移すことが出来る……。それで、お前はその能力を手にしたんだ。幻覚を見せるという、リャクダツの能力を――! しかもお前は、それを自分の良い様に利用した!」
「自覚はないが、そうだったのか……」
「おい、ザック・バラン! ボクと勝負しろ!」
…………は?
「争いは何も生まないぞ!」
「黙れ偽善者! ボクはお前のせいで酷い扱いを受けたんだ! だから、今度は実力で上下を決めようじゃないか――なあ!?」
剣を構えるぴくろー君。
「…………フッ、仕方ないな」
俺はラズリの死体を床に置き、背中の杖を取り出した。
正直、もう吹っ切れていた。
「――なんだ、その自信は……?」
「誰にも言わずに隠していたが……。正直言うと俺は弱い」
「いや知ってるが」
「それに、魔法も使えなければ防御すらできない」
「いや知ってるが」
「だが、俺にはできるものが一つだけあるのだ」
「……な、なんだと――?」
俺は杖構えて跳び上がる。
ぴくろー君は、眉を顰めながら、剣を上に突き上げた。
「杖による物理攻撃じゃあああぁぁい!!!」
――その日、魔王城では、とある賢者の悲鳴が轟いたという。
― To be Completed(嘘) ―
久々に深夜テンションで作り上げた、知能指数3の力作です。(できたのは06:42)
追放系は書いたことがないのですが、以前書いた『チート転生で異世界の全てを救いハーレムになった件 ~あれ、もしかして俺超モテちゃってます?~』と同じような気分で書きました。
今回は殆どネタに走ってますけども。俺TUEEEハーレムの方がまともだったかな? あれはあれでオチひどかったですけどね。
現在、久々にハマっちゃって長編の物語書いてます。執筆の息抜きに執筆するという息抜きです。
……言葉をかえて少しパロを入れましたけど、気づいていただけたでしょうか。
さようなら。
【追記】
投稿してから思ったけど、これ、悲報……?