後編 こっちの世界
気が付くと僕は草木に囲まれていた……元の世界に戻って来られたのかな? あれ? 山の中? 何か思い出しそうな気が……。
「ぐわぁぁぁあ、頭がぁぁぁぁ」
突然頭が割れるように痛くなった――あぁ、思い出した、今この瞬間この世界に居た時の事を全て思い出した。
僕は足元を見た。壊れた木箱と何かの肉の塊が辺り一面に真っ赤な血と一緒に散らばっている。僕だった、鬼塚卓也だったモノだ……。そうか僕がこの世界に残していたものって……恨みだ……。
そう僕はあの時死んだ、いや殺されたんだ。そうだ中学生だったあの日……。
学校で虐められていた僕は、僕を虐めていた奴等4人に無理やり呼びだされ近くの山の中に来た。
すると奴等は突然『かくれんぼしようぜ、鬼はお前以外全員な』と言った。
僕以外が全員鬼? 逆じゃないのか? と思っていると、近くの畑で使っていた物なのか何処からか木箱を持って来てその中に僕を無理やり閉じ込め、蓋をして釘を打ち付け開かないようにした。
「な、何をするんだ! お願いだから出してくれよ、酷いよ!」
「うるせぇ! おい持って来た生肉をぶちまけろ、これで熊もやってくるはず」
え? 熊? 熊だって? そう言えば昨日ここら辺に熊が現れたってニュースでやっていたような気がする。ぐっ 臭い! 血生臭い!
「熊なんか来たら食べられちゃうよ、出してよ、何でこんな酷いことするのさ!」
「お前の名前がムカつくんだよ、何が鬼塚だ、何が卓也だ、お前みたいなへなちょこが俺と同じ名前でムカつくんだよ!」
「そんな事言ったって仕方がないじゃないか! 僕が付けた名前じゃないよ」
「ああそうだな、仕方がないな、でも死んだらもうお前の名前を聞かなくて済むだろ」
「それ本気で言っているの? ねぇ冗談だよね? ね?」
「よし、撒き餌もしたしそろそろ『かくれんぼ』を始めるか、どこだろ? どこだろ? 居ないなぁ、仕方がない皆帰ろうぜ、ぎゃははははは」
「ま、待ってよ、ねぇ待ってったら、ねぇ!!」
あいつら4人が居なくなってから数時間くらい経っただろうか、僕は泣きわめき疲れて、ぐったりしていた。もしかしたら木箱の中の酸素が薄くなって来たのかもしれない……。
すると突然ガリガリガリガリと僕が閉じ込められている木箱をひっかく音がして揺れ出した。
誰かが助けに来てくれた? でもなんか獣臭い……え? もしかして熊? 僕は思わず悲鳴を上げそうになったが両手で口を押さえた。
うそでしょ、どっかいってよ、ヤダよ、死にたくないよ。
祈りが通じたのか暫くするとひっかく音や揺れも収まった――行っちゃったのかな?
だが外からグシャグシャと何かを食べている音が聞こえる。あいつらがまいた生肉を食べているんだ、どうしようそれで足りなかったら次は僕を……。
するとまたガリガリガリガリと僕が閉じ込められている木箱をひっかく音がして揺れ出した。
ああ、どうしよう、どうしよう、怖いよう、お父さん、お母さん、誰か助けて!
僕の願いもむなしく僕が閉じ込められていた木箱は僕が望んでいない形で壊され中にいた僕は熊に見つかってしまった……。そして――。
でももう18年も前の事……でも僕だったモノの状態から見てもしかしてこっちの世界の時間は殆ど進んでいないのではないか?
<ピコン かくれんぼを始めます。参加人数は5名。貴方は見つかってしまったので、今度は貴方が鬼の番です>
突然、僕の脳内にあっちの世界でよく聞いていた機械的な声が聞こえた。
え? こっちの世界でもスキルが使えるのか? それより“参加人数は5名”、“貴方は見つかってしまった“と言う事はもしかして僕を木箱に閉じ込めた4人が戻って来て僕の死体を発見したのか? あいつ等4人とも鬼だったからな。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
~鬼塚卓也がこの世界に戻って来る数分前
「おい、どうするんだよ、マジであいつ熊に喰われていたぞ! もう冗談じゃ済まされないぞ!」
「分かっている、いいかお前等、俺達は今日ここには来ていない、あいつを呼び出したりはしていない、いいな、分かったな!」
「あ、ああ、でも本当に誤魔化しきれるか?」
「俺達は未成年だ、警察もそんなきつい追及だってしないはずだ」
「そうだな、知らぬ存ぜぬって言っていればきっと警察もその内諦めるさ」
「取りあえず今日は解散しよう、念の為バラバラに帰ろうぜ」
「ああ、じゃあ明日また学校で」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
~虐めていたリーダー格の少年 佐藤卓也の家 佐藤卓也視点
はぁ、ったく面倒くさい事になったな、それにしてもあいつ等誰にも喋っていないだろうな、気になってスマホゲームに集中できないな、まあいいや今日は疲れたしもう寝るか。
俺は寝ようと思い電気を消しベッドに潜り込むと、鍵を掛けている俺の部屋のドアがガチャガチャと音を立てた。
「ん? なんだよ母さん」
あっ! まさかあいつの親から電話が掛かって来たのかもしれない。どうする?
「な、なんだよ、もう寝るから用があるなら明日にしてくれよ」
「……」
「あれ? 母さん?」
もしかして気のせいだったのか? 俺は電気を付けてドアに近づく。
すると突然さっきより激しくドアがガチャガチャと音を立て、ドアノブが激しく動き出す。俺は声を荒げる。
「な、なんだ!? 悪い冗談はやめろよ! 母さんなんだろ! なぁ!」
「……」
返事はない……な、なんだよ、母さんじゃないのか? じゃあ誰だよ……もしかして泥棒――そうだ、武器、何か武器を、いやその前に警察に連絡を――。
――すると今度は部屋の窓のカーテンが揺れ出した。
あれ? 窓は開けてないし、エアコンもつけていないのになんでカーテンが?
そして部屋の電気が消え真っ暗になった。
「え!? 停電?」
「佐藤卓也君、み~つけたぁ」
ひぃぃ、俺は急に聞こえた声に驚いて腰を抜かしてしまった。
「な、誰だ?」
「悲しいな、僕の声を忘れてしまったの?」
「そ、その声は……まさか……嘘だ! 生きていたのか? どこだ? どこにいる? どうやって部屋の中に? くそっ、真っ暗で何も見えない」
「ふふ、ひどいよなぁ、かくれんぼの途中で帰っちゃうなんて」
「ま、まさか本当に? もしかして仕返しに来たのか? まて、待ってくれ、アレはただの冗談だ」
「ただの冗談で君は人を熊の餌にするのかい?」
「あ、謝る、謝るよ、悪かった、そ、そうだお前も俺達のグループに入れてやるよ、明日から仲良くしようぜ、な!」
「はぁ……君で4人目、つまりは全員見つけたって事、僕の勝ちだね」
「全員見つけた? 僕の勝ち? 何の事だ?」
~鬼塚卓也視点
<ピコン かくれんぼ終了です、鬼は参加者の4名を見つける事が出来ました。よって鬼の貴方の勝ちです>
タイミングよく、僕の脳内にいつもの機械的な声が聞こえてきた。
<ピコン 罰ゲームを執行します>
おお、鬼が負けた時の罰は『死』だったけど、隠れる方が負けた時の罰は何だろうな? 多分……。
目の前にいる佐藤卓也が突然苦しみだした。
「ぐ、ぐぁぁ頭が、頭が割れそうに痛い、何をした? 助けてくれ、俺が悪かった! ごめん、ごめんなさい! 母さん助けて! グッ、グガァ、グガァァァァ」
メリメリと音を立て佐藤卓也の頭から2本の角が生えて来た。そして着ていた服を破り体が数倍に膨れ上がった、肌の色も真っ赤になっていた。
「グガァ、グガァ!?」
<ピコン 見つかった参加者4名は『鬼』に変わりました>
『鬼』に……やっぱりか。しかも言葉が話せなくなるようだな。それは知らなかった。
なぜ罰ゲームが『鬼』になるのか分かったのは、山の中にあった僕だったモノの少し離れた場所にぐちゃぐちゃにされた熊の死体があったから、あの状況からして熊にそんな事をするのは僕しかいない、そう思い僕だったモノを良く調べてみたら頭に小さいけど2本の角が生えていた。
多分熊に喰われている最中にこいつらが戻って来て、僕がかくれんぼで負けた判定をされたんだろう。そして罰で「鬼」になって熊に抵抗した。そんなところだろう。いくら鬼でも喰われている状態からでは勝つのは無理だったんだろうな。その時の事は覚えていないが。
さて、それより鬼になった4人はこれからどうするんだろう? どう考えても幸せな未来は見えないよなぁ……まあ幽霊の僕が言うのもなんだけど――。
【完】
初めてホラーを書きましたがうーん難しい。映像や声、音で人を驚かす事とは違い文字だけで驚かすのは至難の業。驚かし方のパターンが少ないし、グロすぎる殺し方をするとスプラッターになってそれもまた今回求めているホラーじゃないような気がするし、多分怪談話を求めているんだろうなぁと思いつつも結局書いている途中であれ? ホラーと言うよりミステリーになってしまいました。ムズイ。ただ新作は書いていて楽しい。
そうそう、このなろうサイトさんでやっている夏のホラー2021は公式で、この形式は2年前くらいからやっているらしいけど特に賞などは設けていない(昔は『怖い』ボタンとかあったみたいだけど)じゃあ何の為にやっているのか、なろうホラーとか読む人そんなに居るのかなと思いつつ執筆したけど、せめて主催者側は評価か感想くらいは書いてくれないと、その内誰も参加しなくなるのでは?と勝手に思った。
現在連載中の『僕が一番外れスキルをうまく使えるんだ!』も宜しくお願いいたします。
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