危険人物、俺
遅くなっちゃいました。ごめんなさい!
危険人物…。
俺は状況が理解できず呆然とベッドに横たわっているわけだが…
ルディに色々状況と状況を尋ねても答えくれない。予想はしていたが苛立ちを覚え始めてきた。
しかし苛立っても意味はない。
まずは状況整理からだ。
とりあえず記憶が途切れる前の状況を思い出す。
巨大な骸骨の怪物にビーム砲のような攻撃を受け、俺の右胸は貫かれた。
が、『潜在魔法』なる能力が発動して、貫かれた右胸は何事も無かったように復元されていた。
そしてある程度状況把握ができると感じたことのない痛み、苦しみを味わいそのまま意識を失った。確か意識を失う直前に椿 飛鳥とスーツ姿の見知らぬ奴らが現れていたな。
その時、椿 飛鳥は「禁断魔法を使ったのは誰?」って叫んでいたな。
なんだよ禁断魔法って。
分からない事が知る事を上回って混乱しか招かないこの現状。
誰か少しでも良いから何か教えてくれ。
「おや、目が覚めたのか?」
突然男の声が聞こえてくる。しかしコンクリートのこの牢屋には俺しかいない。
「隣の牢屋に入ってる者だよ。ところで君は何をしでかしてこんなところに匿われているんだい?」
姿は見えないが声から推測するに結構若そうな男性といったところか、しかし身元不明の奴に自分の情報をベラベラと話して良いことなど無い。俺はとりあえず質問して相手の様子を見る事にした。
牢屋にぶち込まれてる時点で、注意しておいて損はない相手だろう。
「お前こそ何してここに入れられてるんだ?」
「可愛らしい声なのにやけに口調は荒いね。嫌いじゃないけど」
そうだ自分が女だという事を良く忘れる。
「話逸らさないで」
「ごめんごめん、僕はね、なんか禁断魔法を使用したせいでこの有様さ」
!?
その単語がここで聞けるとは。
俺がここに入れられている事、またルディの危険人物といった事も繋がってきた。
「禁断魔法って一体なんなの?」
俺は直球で聞いた。
隣の牢屋に居ると思われる男はご機嫌そうに、色々と教えてくれた。
この世界には『神威魔法』と『禁忌魔法』と呼ばれる普通とは異なる性質の魔法が存在するらしい、この二つに属する魔法を総括して『禁断魔法』と呼ばれているらしい。また禁断魔法に対しては世界全体でその魔法についての研究や調査、関連する全てを詮索するのを禁じられているらしい。使用するなんて論外だということ。
そして神威魔法は、この世界の人間では扱うことができないと昔から伝わる伝説級の魔法であり、そもそもその情報すらもどこから知り得たのかも定かではない。
禁忌魔法については、その魔法を扱うことで様々な世界の秩序の破壊に繋がる危険性があることから世界全体で使用、研究を禁止されていて、法も犯す行為だという。
この男もまたその禁断魔法を使用し、俺がここに入れられる少し前に牢屋にぶち込まれたらしい。
「いやーだってさ?自分がそんな魔法使えると思わないじゃん?しかも神威魔法使えると思わないじゃん?古の書記には、この世界に存在する神威魔法は7つしかなくて、それは修練では身に付かず、それこそ神より与えられし力だって記されてるんだよ?びっくりしちゃうよねぇ」
この男の笑い声がコンクリートに反響し、何やら不気味に感じる。
「ねぇ君さ、ここから出たくない?」
突然の男の提案に戸惑う俺。男は俺の心情を悟ったかのように話を続ける。
「ここはかつて、魔人を捕らえて監禁し、研究するための施設なんだ。なんで学校にそんな施設があるのかって質問は受け付けないよ?知らないし。で、この施設はマナの使用を強制的に封印させる力が働いていてね、魔法が使えないんだ。だから鉄格子ごとぶっ飛ばすとかできないんだよ。しかもこの施設は空高く飛んでいてね。もしこの魔法封印システムが停止すると同時に浮遊も終わる。みんな一緒に地面にさようならって仕組みなんだよ」
「…」
「僕達は間違いなく研究材料として扱われる。それはおもしくないだろ?」
確かに面白くなはい。この男の発言に信憑性もないのだが、椿 飛鳥のあの動揺した雰囲気を見た後だから妙に納得せざるおえない部分もある。
「僕の力ならここから出ることができる。どうだい?試してみない?僕の神威魔法。」
出れるなら出たいところだが、少し用心すべき点も多い。
特に気になるのは、それだけ禁断魔法の扱いが厳正であるなら他人にその使用者であることはあまり漏らさない方がいいのではないのか?なのになぜこの男はベラベラと俺に語れる?
「そんなに疑わなくていい。どうせみんな僕の言ったことなんて忘れてしまうから」
「どう言う意味?」
「いやー、よく僕の言ったことをみんな忘れてしまうからだよ。僕の言葉ってそんなに薄っぺらいのかな?ははは」
全く意味がわからないが、しかしここに居続けても仕方ない。だが危険な臭いしかしないのもまた事実。
二人の会話が途絶え、静寂したこの環境に俺の判断を決定付ける事象が起きる。
聞かなきゃ良かったと後悔もした。
だが、確かに聞き覚えのある女の声はこう言った。
__「モルモットはちゃんと箱にいる?」
コンクリートがその声を無情にも弱々しく反響させる。
俺は奴の提案に乗ることを決意した。