潜在魔法というパッシブスキル
俺の身体周辺に突如現れた見たことの無い文字、形はあの時見たシルムーブの起動の際に見た文字に近い気もする。
『損傷した部位の再構築を検索。
…判定結果、マナによる損傷の為再構築可能。
執行しますか?』
また謎の声が俺に問いかける。
こんな状況で選択肢はひとつしかない。
よく理解してないが、縋るしか無い。
俺は経験したから分かる。
これは確実に死ぬ。
吐き気。
激痛。
生の執着。
死への恐怖。
全身の脱力。
(ああ…執行…してくれ)
俺は鈍くなった思考能力は本能のまま念じる。
そして俺の周囲を取り巻いた謎の文字達を吸収していくかのように俺の身体に入り込んでくる。
全ての文字を取り込む頃には全身を白い光が包んでいた。
貫かれた瞬間、その衝撃で浮いた身体が地面に倒れるまでのほんの一瞬の出来事ではあったが、俺は10分くらい経過したんでは無いかと思うほど、この時間は長く感じた。
身体が地面に叩きつけられた瞬間、俺の身体を纏っていた白い光は埃のように身体から散っていく。
「痛っっっ」
俺は倒れた後、すぐに傷口を見た。
貫かれた事が嘘のように傷ひとつない。
先程の痛みは地面に叩きつけられた時の痛みであって、貫かれた時に感じた『死への痛み』とはかけ離れたものだった。
俺が次にとった行動は無意識による防衛本能だった。
__もう一発撃たれるかもしれない。
直ぐに起き上がりあの巨大な骸骨怪物の方を確認すると、その巨大な生物は居なくなっていた。
その状況に安堵し思わず腰が抜ける。
黒板に貼ってあった御札は、俺を貫いたあのビーム砲の風圧によって床所々に落ちている。背後の壁は小さな穴が空き、廊下の壁すら貫いているのが分かった。
__それにしても視線が痛い。
クラスメイトの視線がおかしい。
確かにビームに貫かれた胸が直ぐに修復されていれば驚くのも無理はないが、何かそれだけではない感覚だ。
俺が最も嫌いな目だ。
人間として見られてない、見下されているかのような独特な目。様々な感情がその目には含まれている。
恐怖。
苛立ち。
焦り。
不安。
不調。
差別。
まだ沢山の負の感情が各々自由にその目に宿されている。
数人のクラスメイトは手にスマホらしきあの端末の画面と俺を何度も見比べている。その行為はとても気になる所だが、そうやって冷静さを確実に取り戻すと同時に、急激に胸が苦しくなってきた。
胸が痛くなるだけじゃない。
身体が震え始める。冷や汗と吐き気、頭痛に目眩。
意識が朦朧とし始める俺は再び身体を地面に伏す。掠れていく視界の中で、青髪の女性、恐らく担任の椿 飛鳥だろうと思われる人間が教室に入ってくるのを確認した。
他に数人スーツ姿の者達をつれて。
__「誰!?禁断魔法使った人!?」
椿 飛鳥の声がやけに耳に残る。そのまま視界は暗く意識は消えていった。
消えゆく直前、脳内に聞こえるルディの声。
『君の潜在魔法、マナ・リビルドはマナによる行為、全てを自分の意思により再構築し直す事の出来る能力だよ。だが、それは起きた事を無かった事にしているわけではないんだよ?都合上本当に死ぬ前に魔法が発動する為、痛みも途中から緩和されるけどちゃんと代償として帰ってくる。忘れないでね』
…とりあえず眠るとする。
………。
__………。
___「おい、お前はいつまで寝てるんだ?」
女の子に声掛けられて起きれるなんて男して喜ばしい。
俺はゆっくりと目を開くと、男物のスーツを着ていることにすぐに気付いた。
着慣れすぎて忘れるものか。
そして目の前には金髪の少女。
ルディから教えてもらった彼女の名前、『イデル』。
見た目的に小学生低学年くらいに見える。金髪という特徴ある髪色にツインテールの髪型が余計に幼く見える。
独特な瞳の色、一定の色ではない常に様々な色が見える独特なその瞳。
吊り目のせいか怒ってるようにも見える冷酷さが感じる目つき。
呆気にとられている俺を小馬鹿に笑い、彼女は話し始めた。
「いやー、やっと面会タイムだよ。中々融通きかなくて困るわね」
「…え?」
「え?じゃないよ。まぁいいや。とりあえずどうだい新しくできた世界は?」
「…まぁまだよく分からない」
「そうかそうか。まぁお前は何も心配せず普通に生活して新たな人生を歩んでくれ。そして見しておくれよ、お前の神ゲーの人生を」
「…ここはどこだ?」
「お前の質問は受け付けない。というより答える義理がない。でも優しいからそれは教えてあげるお前さん」
「…」
「ここは『世界の狭間』。それがどこかって詳しく知る必要はない。お前達人間の到達出来ない領域だからね。今は私達が許可してるから特別に面会タイムなのよ?わかる?」
「…」
「心配しなくても、お前にはやらなきゃいけない事が沢山出てくる。ひとつひとつ自分で選び自分で考えて生きていけば良い。たまにはルディも助けてくれるだろうしね」
「…」
「毎度毎度初回の面会タイムは短いから困る。それじゃ、素晴らしい人生を送っておくれよ。芽色 明。」
そうイデルが最後に俺の名を言い終えた瞬間、俺は薄暗いコンクリートの部屋に鉄格子がある、いわば牢屋のベッドに横たわっていた。
学校の制服にひ弱な手のひら。元に戻ったのか…。
___え?
状況が目まぐるしく変わり混乱する俺に、ルディはクスクスと俺の肩の上で笑いながら言う。
「君はとりあえず危険人物って事で牢屋入り確定しました」