変化ある世界に
よろしくお願いします!
この場で情報引き出せるとしたらこの妖精か…。
俺はいくつか、ルディと名乗ったこの自称妖精に質問をした。
この世界は本当に変わったのか。
何で女に性転換したのか。
イデルって何者なのか。
しかしこっちをじっと見つめているだけで何も教えてくれないルディ。
段々と不機嫌になる俺を察してか、ルディは一言だけ助言をしてくれた。
「明の質問に答える為には、明が質問をする知識をこの世界で得なければ答えられない」
んー。なるほど。
確かに俺はこの新しく生まれ変わったとされる世界にきて何もしていない。というかそもそもそんなに時間が経っていない。
しかしそういうことであればとりあえず行動あるのみ。
勢い良く部屋を飛び出し、まずはこのリスボーン地点を確認する。
…。
やはりこの家の構造は、俺が35年ローンで建てた一軒家と同じである。
俺の部屋も、子供部屋もリビングの広さも、寝室も全て同じ。違うと言えば俺の部屋以外の小物が若干違うが、そもそも俺以外の部屋は物をあまり置かないスタンスなので、気になる程ではない。
家がほぼ再構築される前の家と同じ事がわかった。
次は外だ。
玄関を開けるとこの地域では珍しい雪が降っていた。
世界が変わったというのであればこの天候ももしかしたら普通の出来事なのかもしれないが、久しぶりに見た雪に少し心奪われていると若干ではあるが建物の位置や電柱の位置など少し違う感じも見て取れる。
が、それ以上に道路一帯が真っ白に染まり屋根にはどっしりと雪が積もっているこの状況は、元の世界ではやはり考えにくい天候状況であることは間違い無いだろう。
「世界を再構築したって言っても対して変わってないんだな。ここ東京だろ?」
俺はルディに嫌味っぽく尋ねる。
「は?違うわボケ。ここは『とうとうと』だ。」
突然の赤ちゃん言葉を発したルディに笑ってしまいそうだったが、我慢してもう一度聞き直す。
「東京都だろ?」
「とうとうとだ」
真面目な顔して言い返すルディがとても可愛らしいが、いくら寒いからってこんなに滑舌悪くはならないだろう。もう一度聞いてみる。
「東京だよな?」
「とうとうだ!」
俺の言葉に被せてくるように返事が返ってきて焦ったが、ルディは積もる雪に指で何やら文字を書き始めた。
『凍東都』
なるほど…。ルディは何もふざけていなかったわけで、俺の勝手な思い込みだったらしい。
それにしても日本語って難しいな。
「ここは日の国。立地的なものは明の元の世界の日本に近いけど部分的に違うところもあると思う。そしてこの都市は氷の精霊の都、凍東都だよ。」
氷の精霊とか気になって仕方ない単語だが、この雪といいそれに因んでいるのだろうと推測はできる。
それにしても冷えている。
玄関に吊るしてある温度計はマイナス8℃を指していた。
徐にポケットに手を入れるとスマートフォン(以下スマホ)のような形のものが入っているのに気づき取り出してみる。
すると自分の身体からスマホに何かわからないが流れていくような感覚を感じる。そしてスマホの画面はありきたりに画面に『7時45分』と表示されていた。
…!!
「ヤッベ!会社に行かなきゃ!」
俺は時間を確認するなり反射神経抜群に自分の部屋に戻り着替えようと本棚の下部に増設したお手製の引出しを開けると、そこには女性物の下着、肌着などが置いてある。
目が点になり一度ゆっくり引出しの扉を閉め、部屋の隅にあるクローゼットを開けるとそこのは女性物のコートや可愛らしい鞄など、男でそういう趣味がない人間を除いて買う人はいないだろうと思われるものばかり置いてあった。
そして極め付けは堂々とクローゼットに存在感を放つどこかの学校のものであろう制服だ。
黒色のカッターシャツに赤いジャケット。灰色のスカートとこれまたこの世界の制服はアニメちっくな洒落た制服を着こなさなければならないのか、それとも大どんでん返し誰かのコスプレか?。
色々妄想は尽きないがここも一旦クローゼットを閉じて冷静になる。
世界は恐らく本当に再構築されたものだと仮定しよう。
あの死ぬ直前の感覚、この似つかない天候、自分の性転換及び若返りに口の悪い妖精の存在。
仮定とするには充分すぎる。ということはつまり…
「そうだよ。芽色 明。君はこれから職場ではなく学校に行くんだ」
「…俺の名前はアキラだ」
「この世界ではメイってことで登録しちゃってるからごめんね、てへ」
見た目可愛らしい黄色い髪の妖精ちゃんで、性別はわからないが子供っぽい容姿のこのチビ助に少しだけ殺意を覚えた。
それからルディに俺がこれから通う学校の話を軽く聞き、立場上転校生として今日から行く事。迎えが8時半に来ること、あの制服を着ていかなければならないということを聞かされる。
あの青春時代をやり直せるとか幸せそのものだが、何より仕事に行かなくていいという安堵感は何よりも嬉しかった。
早速制服に着替える。
…うーん。
これがまた似合うのです。
この可愛らしい容姿に変えてくれた謎の金髪少女には感謝しかない。
性的に欲が出ないのはまぁ残念なところだが俺も中身は大人だ。
この世界を恐れず前向きに生きていこうではないか。
俺は今の現状を自分の都合の良いように解釈できる天才でもある。
悪いことは目を伏せるどころかどこかに捨てて行って、大体後からその捨てたものが大事だった事に気付く典型的な愚か者である。
今回も勿論もっと色々思考しなければならない事は多々あるはずなのに面倒臭いからやめたのだ。
少しするとピンポーンと家のインターホンがなる。
それと同時に俺のスマホも振動した。
スマホの画面には玄関先からインターホンを鳴らしたと思える綺麗なお姉さんが写っている。
これは未来的な構造だ。
わざわざ一階に行かなくても来客がわかるなんて凄い技術だなと感心しているとルディに頭を叩かれる。
「あれが迎えだよ。早くしなよ」
「お、おう悪い」
中身の無いスクールバックを持ち玄関を出ると、確かに先程の綺麗なお姉さんがそこに居たのだがその後ろに待ち構えている四角い銀色の物体が浮遊している方に目を奪われた。
見る限り縦横高さ均等150センチの大きさはあるだろう得体の知れない物体。
「今日からよろしくお願いしますね、芽色 明さん」
呆気にとられている俺に青い髪の色をした妖艶な雰囲気を放つお姉さんは優しい声で俺に話しかけてくる。
しかし俺はやはりお姉さんの背後に浮遊する銀色の四角い物体が気になって仕方ない。






