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【読切】進路

作者: 真西 七海

将来の夢と訊かれても、自分の好きなこと、やりたいことがよくわからない人も、大勢いると思います。苦しいかも知れませんが、悩むことを諦めないで下さい。でないと、この少年のように二度と戻れない、奇妙な世界に迷い込んでしまうかもしれません………

「進路希望調査」

その用紙を、俺は空虚な気持ちで眺めていた。


将来の夢なんて無い。

働きたく無い。

勉強もしたくない。

進学したいわけでもない。

やりたいことこともない。

楽しいこともない。

ない。ない。ない。ないだらけでホントに嫌になる。


どうせ、何にもない俺は、

学校を卒業したら、簡単な仕事をして食いつなぎながら細々と生活し、

家庭どころか彼女ができることもなく、

誰にも見つかることなく、一人で静かに死んでいくんだろうなあ


だったら、いっそ、いますぐ………


いや、痛いのや苦しいのは御免だ。

もし、痛くなく、苦しまず、楽に死ねるような、

そんな魔法のような方法があれば………


俺は進路希望用紙の第一希望欄に「 」と記入した。


………あほくさ


そのまま出したら、確実に先生に叱られるからと、

即座に、消しゴムを乱暴にかけた。


今思えば、この時もう、手遅れだったのかもしれない………


□□□□□


次の日、登校すると、教室はおかしな熱気に包まれていた。

「俺は医者になる」やら

「俺はサッカー選手になる」も変と言えば変だが

「大富豪になる」

「ハーレム王になる」

「異世界の勇者になる」とまで言い出す奴もいた。

進路希望調査がここまで話題になるのも変だが、そもそも内容も変だ。


ホームルームが始まり、進路希望調査用紙は回収された。

出してないのは俺だけだった。


「新しい用紙を渡すから、今日残って書いていくように」


案の定、未提出の俺は怒られた。


放課後、やっぱり進路希望調査用紙に何もかけない俺は、何となく先生に話しかけた。


「先生は、どうして先生になろうと思ったんですか?」


「ん? お前は教師になりたいのか?」


「いえ、そういうわけではなく

俺、やりたいこととか、なりたいものとか、何にもないから」


「なんだそういうことか。

だが、それは勿体ないな!

折角、何にでもなれるんだ! 遠慮してたら損するぞ!」


「適当なこと言わないで下さい!!!」

俺は思わず、怒鳴ってしまった。

だが、俺の苦しみも葛藤も劣等感も屈辱も自己嫌悪も失望も、何も知らない人間が好き勝手言わないでほしい


「適当なんかじゃないぞ!

それこそ、教師にもなれるし、何にでもなれる!」


「頑張れば………ですか?」

俺は先生を睨めつけた。

俺はこう言う大人が大嫌いだ。

到底叶わない夢をチラつかせては、二言目には「頑張れば」というお決まりの条件をつけてくる。

まるで、夢が叶わない人間は頑張ってないんだと否定してくるような、そんな大人が大嫌いだ。


だが、何故か先生はキョトンとした顔で、驚き呆れているようだった。


「お前こそ何言ってんだ?

頑張らなくても、教師になれるぞ?」


ーーー俺は先生の真意がわからなかった


「何いってんすか先生!!

俺の成績で、教師なんかなれるわけないでしょ?!」


「お前、さっきから何言ってんだ?

教師になるのに成績は関係ないぞ?

ま、教師じゃなくても、医者や弁護士でも成績は関係ないけどな!」


「………いや、じゃあ先生はどうして先生になれたんですか!?

学生のとき、勉強して頭良かったからじゃないんですか!?」


「は? ………あっ、お前、もしかして」


先生は大きなため息をついた。


「お前、俺のこと、人間だと思っているだろ?」


ーーーえ、


「俺は教師型AI搭載の、男性教師型アンドロイドだぞ?」


…………目の前の男が何を言ってるのか、理解できなかった。


ほら、といって、顎に手をかけると、

まるでヘルメットを外すかのように人間の顔を取り外すと、

無機物でできた顔の骨格が現れた。


脱兎の如く逃げ出した時、俺は泣きながら絶叫していたことに後から気が付いたら。

恐怖だった。

とにかく恐怖だった。

それ以外、何も考えられなかった。

とにかくあの恐怖の物体から離れる、それ以外考えられなかった。


廊下に出てすぐ、俺の元に、放課後何人か残ってた友達が、駆け寄ってくれた。

どうやら俺の叫び声に驚いたらしく、俺のことを心配してくれた。

俺は泣きながら、それでも絞り出すように、「信じられないと思うけど………」と前置きしてさっきの出来事を話し始めた。


さっきまで心配そうにしていた友達も、俺の話を聞いているうちに、クスクスと失笑し始めた。


きっと嘘や冗談だと思われたのだろう。

だけど

「ホントのことなんだ」


「いや、そうじゃなくて………」

友達は笑いを堪えながら


「お前、それ別に普通のことだろ」


ーーーえ


友達の笑い声を遠くにに聞きながら、俺は意識が遠のいていくのを感じた。


□□□□□


IT技術が進み、AIやアンドロイドはついに人間と同じ知性を獲得すること成功した。

そうすると、AIやアンドロイドは、人間の仕事を代替するようになった。


教師もそうだが、テレビのキャスター、タレント、ミュージシャンなんかもアンドロイド。

畑を耕したり、コンビニの店員なんかも全てアンドロイド。


この世界に大人の人間はいない。

ちなみに、子供だけは本当の人間だ。


人間は今、AIを動かす電力の供給源にしかならない。

棺桶のような装置に入れられ、死んだような状態にさせられ、「夢」を見させられている。その夢の中で生じる感情が、脳波電流を発生させ、それが地球を支配するAIへの電力供給となる。

楽しい夢であればあるほど、嬉しい夢であればあるほど、大量の電流が発生するそうだ。


ちなみに夢を見るためには、ある程度現実世界の記憶が必要らしく、その記憶を獲得する為、人間は子供の時だけは現実世界で過ごすのだ。

勿論、親はいない。

子供はAIの遺伝子操作で創造され、生まれれば、それらを育てる親型アンドロイドが支給される。


子供が成長し、学校を卒業すると、一人前の大人と見なされ、施設に収容され、新たな電気の供給源にされる。

人間としては、死ぬのだ。


進路調査の「将来の夢」とは、文字通り、眠った時に見る夢のことで、二度と目が覚めることなく見続けさせられる夢である。


なるほど。

AIが脳を弄ってみせる夢の世界なら、医者になるのも弁護士になるのも、学力も資格も免許も関係ない。

ただ、望めばいいだけだ。

「異世界の勇者」だって絵空事ではない。

だって、AIが見せる夢なんだから。


………なのだが、

実は、人間の大人もほんの少しだけ存在する。

生きている人間の大人は、特別病院に入院している。

この世界では「死にたくない。人生を全うしたい」と言い出すと「鬱病」と診断されるそうだ。

鬱病の患者は、大人になっても生かされている。

まぁきちんと「死にたくなるように」お医者様、

正確には医者型AI搭載アンドロイドから、カウンセリングを受けるのだが


□□□□□


友達に「生きたくはないのか?」と聞いたら、

怪訝な顔で「何で死にたくないんだよ?」と返された。


どうやらこの世界は、俺が知っている世界と死生観が反転しているらしい。

死にたいこと奴が大多数で、生きたい奴が少数派だ。

しかも、生きたいと願うことは病気らしい。


皆、口々に死の素晴らしさを謳う。

死の希望に目を輝かせる。

死の憧れに熱を帯びている。

この異様な世界に、俺はもう閉口するしかできないでいる。

頼りの大人は親も先生も皆、人外だ。

正直、頼る気にもなれない。


俺が、冗談でも「 」なんて書くから、

こんな奇妙な異質な世界に迷い込むことになったのかな


あともう数カ月で学校を卒業する俺が、選べる道は2つだけ。


最高にハッピーな夢を見ながら死ぬか、

死にたくなるようにカウンセリングを受けながら、病院という空間のみで生きるか。


今更にして思う。

俺だけが死にたかった世界、あそこにい続けたら、何かいいことがあったのだろうか?

皆が死にたいこの世界、ここは正直、異質で恐怖だが、俺が欲しかったものは手に入れられるのだろうか?


どちらの世界がよかったか、俺はいまだに答えが出ない。

ただ、もう前の世界には戻れない。それだけははっきりしている。


俺はこの異質な世界で生きること、否、死に方を選ぶしか道はない。


「ーーー後、進路調査出してないの、お前だけだぞ!」

先生、否、先生の形をしたアンドロイドに叱られた。


俺はーーー

シャーペンを握りしめると、新しい用紙に書き殴った。



もう、消しゴムは必要ない。


実はこの世界はすべて夢で、この世界で命尽きたとき、外の世界で本当の人生が始まるかも知れません。

ただし、外側の世界がこの世界と比べ、劣悪で凄惨で悲惨じゃない保障なんて、どこにもありはしないんてすけどね


………と、世にも○妙な物語調のが、書きたくなりまして、突然

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