君とホモになる物語
これを書いたとき作者は13時間勤務で頭がおかしくなってます。
それは途轍もなく汚い字だった。
「これ……男が書いたんじゃねーか?」
その台詞を発端に、俺に奇異の視線が送られた。友達が手にしている荒々しく四つ折りにされたノートの切れ端には『好きです♡』と殴り書きの様な筆跡で書かれていた。
「おいおい止めてくれよ! 俺はそっちの気は無いぞ!!」
嘘。実は俺はホモだ。真っ赤なホモだ。
「なぁ葉月! 俺はホモじゃないよな!? な!?」
隣の席で机に突っ伏して寝ている幼馴染みを揺さぶり起こすがビクともしない。マズい、このままでは俺がホモにされてしまう!! いやいや、確かにホモなんだがホモ扱いされるのは不本意だ!
ホモは本意だがホモ扱いは不本意。頭の中で本意と不本意がホモり合い龍となりて天へと昇る。訳の分からぬ葛藤と一向に起きる気配の無い幼馴染みのせいで、俺のホモが確定しようとしていた―――
―――まさかココまで大事になるとは思ってなかった。
いつもより朝早く起きてアイツの机の中に手紙を一つ。悪ふざけ半分本当の気持ち半分に、ハートの便箋にシンプルな愛の言葉を書いて教科書の間に挟んでおいた。
しかしアイツが隣のクラスの友達に教科書を貸そうとして取り出した瞬間、それは白日の下に晒された。
字が汚いのは大きな御世話だが、描いた人物が男扱いされてるのは不本意だ。とりあえず私が書いたとバレない様に寝たふりをしておこう。
「なぁ葉月! 俺はホモじゃないよな!? な!?」
生意気な幼馴染みが困り果てて私に話を振ってきた。スマン、それは私の書いた手紙だがクラス中に知れ渡った以上名乗り出ることは出来ない。大人しくホモになるがいい…………。
熱りが冷めたら、こっそりアイツの好きなカスタードクリームの鯛焼きでも奢ってやるか―――
―――手紙の主が分からないまま、俺は周囲からホモ扱いされてしまった……。確かにホモなんだが釈然としない……。
(このままでは俺の学園ライフが……!!)
その時、俺の体から溢れ出るホモ力で時空がねじ曲がり、時計の針が巻き戻り始めた!
「な、何だ!? 何が起きたんだ!?」
時計の針が正しく動き出した時、時刻は登校前まで遡っていた。クラスには俺しか居らず、太陽はまだ遥か東の空である。
「…………て、ことは……!!」
自分の机の中から数学の教科書をペラペラとめくる。
「手紙が無い!」
つまりこれから手紙の主が来ると言う事か!!
俺は急いでロッカーへと隠れ、隙間から自分の席をじっくりと観察した―――
―――渡そうかどうしようか一晩迷ったが、悪ふざけ半分と言う事にして、アイツの机に入れてやろう♪
ハートの便箋をカバンから取り出し、誰も居ないクラスでコッソリとアイツの机に便箋を入れる。1時限目の数学の時間に気付いたらきっとビックリするだろうな♪
いくらガサツとは言え。いつも私の事を男扱いしやがって。これで少しはキュンとしやがれってんだ。
さてと、まだ時間あるしトイレで暇を潰そうかな―――
―――何てことだ……。葉月が手紙の犯人だったなんて…………。
俺は葉月が教室から出て行った後、ゆっくりとロッカーを開き自分の机の中を確認した。
──カサ……
手紙を開いてみると、そこには女の子らしい丸文字で『放課後校舎裏で待ってます♡』と書かれていた。
「……俺がさっき見た手紙と違うぞ!?」
俺はどう言う事なのかさっぱり見当も付かず、ただひたすらに困惑した。しかし生徒達の足音が聞こえてきたので慌てて手紙をポケットに仕舞い込み、適当なノートを千切り『好きです♡』と殴り書きして便箋に四つ折りでねじ込む。そして教科書に戻して再びロッカーへと隠れ込んだ!
同じ手紙を入れておかないとタイムパラドクスとやらで歴史が変わってしまうからな!……多分。
「おはよぅ……」
葉月の挨拶が聞こえ、教室に葉月が入ってきた。その後ろには…………俺が居た。
(―――!?)
何故俺が二人も……!!
もう一人の俺は席に座り隣のクラスの友達に話し掛けられ数学の教科書を取り出している。そして例の便箋が友達に見付かりホモ扱いされ始めた……。スマン俺! ソイツは俺の手紙だ!!
数少ない知性で考えるも、一向に答えが出ない。そしてようやく辿り着いた一つの答え…………それはココがタイムワープした過去の世界ではないかと言う事。それ以外に考えられない。
──グニャァ……
時空が歪み時計の針が逆向きに動き始める。どうやらもう一人の俺がホモ力を解放してタイムワープするらしい……。仕方ない。俺は自分の世界へ帰るとしよう。
俺は渾身のホモPを振り絞り現在へとタイムワープした!
…………そして俺は過去にタイムワープした直後の世界へ戻ることに成功した!
友達の手には汚い『好きです♡』の手紙。俺のポケットには葉月からの手紙。そしてロッカーには…………
──ガチャ……
誰も居ない。
よし! これで俺のホモ疑惑を晴らせるぞ!!
「この手紙は俺が書いたんだ!!」
「えっ!? お前自分宛に書いたのか?」
「…………えっ!?」
……確かに言われてみれば、俺が俺宛に書いたと言っても過言では無い。俺がホモであるが故に俺が俺に書いたラブレターと化している。……やっぱり俺はホモだった? いや、ホモなんだが……―――
―――アイツ……「手紙は自分が書いた」とか言いだした……。もしかして、私が書いたことに気付いて庇ってくれているのかな? だとしても「自分で書いた」はちょっと無理があるけれど。
それでも私の事を庇ってくれてたとしたら、これ以上嬉しい事は無い。何だかこっちがキュンとしてしまった…………―――
―――放課後、校舎裏に行くと恥ずかしそうに俯く葉月がいた。
「手紙……ありがとな」
「ううん……騒ぎになっちゃってゴメン」
「良いんだ。俺の不注意だ」
「……あのな。私…………お前のこと……」
「…………」
どう見ても告白される雰囲気の所申し訳ないが、俺はホモだ。葉月とは子どもの頃からの付き合いだが男女の仲にはなれない。何故なら俺はホモだから…………
…………待てよ
そう言えば二回に渡るタイムワープで酷使したせいか、ホモパワァにいつもの活力が無い……。
もしかして、俺……ホモじゃなくなった?
「私……お前のことが好きなんだ!!」
「…………」
ま、いいか。
「俺も……好きだ」
「……ホントか!? う、嬉しい……!!」
こうして俺は名実共にホモを卒業した―――
読んで頂きましてありがとうございました!
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(*´д`*)