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第7話 『Former Rain Meet Again』

「ねぇ、正午」

「どうしたの?」

「ゲーム教えてーこのまえやったやつ」

「GLX5かな?」

「そうそれ!」


「そこはアウトから入らないとレコードラインからはみ出しちゃうよ」

「難しいんだもん……だってたおすと横にず〜と走っていくんだもん」

「さくらにはレーシングゲームは向かないよ、ただでさえ鈍いんだから」

「鈍くなんかないもん! さくらはいつでも桜の花を咲かせられるんだから!」


「…………。…………」


 目が覚めた。外は薄暗い。日の出前。どうやら昨日の就寝時間にも関わらず、いつも通りの時間に起きたらしい。

 さっき、さくらとゲームをした時の記憶が夢に出てきた。ずいぶん久しぶりに夢を見たような気がした。しかし、人間は七時間睡眠の間には最低三回の夢を見るらしい。夢の中でたまに一気に場所が変わったりするのは夢が変わった時に起こる現象だ。夢を見ていないと言っても人間は必ず夢を見る。要は、寝起き直後の夢を見たかどうかで人間は夢を見たかどうか判断する。夢を見た記憶がなくても人間は必ず夢を見ている。覚えていないだけだ。

「さくらはいつでも桜の花を咲かすことができる……か……」

その時は、さくらはいつまでもさくらのままだという意味で言ったと思っていた。しかし、それは、見事に覆されるのであった。


 いつも通り熱いシャワーを浴び、読みかけの本を読む。その後、朝食を取り音楽の時間に入る予定だったが、朝食を多めに取ったためかギターを弾く気になれなかった。

こんな時はピアノである。大抵、ギターを弾く気分でないときは、ピアノを軽めに弾くことにしている。


いつも通り、ピアノの前に座り鍵盤に手を乗せる。

ところが、昨日まですらすら動いていた指が動かなかくなっていた。最初は、気分の問題だろうと思い、一度、起立して大きく両手を上げ背伸びをする。指と肘、肩のストレッチをする。そしてまたピアノの前に座る。何度も繰り返す。

しかし、その後も指が動く事はなかった……

一瞬夢の中か、と思いながらも現実であることを確認する。最後に指が動かなかったのはピアノのコンクール以来だ。ピアノのコンクール。そう、僕が出た最初で最後のコンクールだ。その時は極度の緊張でまったく指がいうことをきかなかった。

 ……あの時以来ピアノは趣味だけにしている。コンクールには出ていない。ギターも趣味の領域、家以外で弾くことはない。

 どうしたら指が動くようになるのだろうか。明日は普通に弾けるのだろうか、そう考えているうちに学校へ行く時間になった。こんなにも深刻な問題を抱えながら、なぜ時は刻々と刻むのだろうか……


 指の事を気にしながらも、急いで学校に行く準備をし始める。今日は遅刻することはできない。遅刻したらかおりにギターで叩かれてしまう。いつもの倍の速度でワイシャツに袖を通し、親に挨拶をせずに家を出る。忘れ物がないことを確認し相棒を学校とは逆の方向に走らせた。

 かおりはまだ来ていなかった。予定時刻より十五分も早い。今日は勝った。何に対しての勝利かどうかは、はっきりしない。五分後、かおりがいつもの格好(制服なので変わることはないが……)でやってきた。

 簡単な挨拶を交わし相棒にまたがる。どうやら昨日の怒りは収まったようだ。

 僕は今朝の出来事をかおりに相談して見た。

「う〜ん……。私は楽器もってないし詳しくはないから私にはなんとも言えないな……」

「そっか……」

「詳しい人に相談してみるとか? さくらちゃんとは幼馴染みなんでしょ? さくらちゃんに聞いてみなよ」

さくらに、か……確かに明確なアドバイスはしてくれそうだ。しかし、三年に上がってから一回も話をした事がないために話し掛けづらい。非常に……。

「あまり話した事ないから……いきなりこんな相談するのはどうなのかな?」

「これをキッカケにまた仲良くなればいいんだよ! さくらちゃんだって正午に声掛けるの緊張してるだけなんだからこっちから攻めないと!」

今にも僕の背中を殴りそうな握り拳を作ってかおりは僕に言った。

「そう、なのかな……? もし、声掛けて無視されたらどうしよう……」

「そんな最初からネガティブにならないの! それに山門と付き合ってるくらいなんだから無視するなんてできないと思うよ。勇気振り絞ってしっかり声掛ける! そして帰りに報告! わかった?」

「ほえっ? 今日も乗せてけって?」

いくら慣れたからといって他人を後ろに乗せるというのは、その人の命を預かっていることになる。そう考えているとかおりがなんにもないように軽く流した。

「そこ! 細かいこと気にしない! とにかくピアノに詳しいさくらちゃんならきっと相談にのってくれるから! 今日、ショーゴから声を掛ける! わかった!?」

こうなったら止め様がない。

「わかった声掛けてみるよ。でも今日の帰りは楽器屋に寄るけど、それでもいい?」

「約束だよ! 二時間以内に戻ってきたら許す。二時間オーバーしたらその楽器屋にあるギターでショーゴのことぶっ叩く」

昨日の事を覚えているらしい。昨日かおりを待たせた時間はちょうど二時間だ。

「いや……それ、お店の商品だし……壊したりしたらどうするの?」

「もちろん、ショーゴが自ら叩かれてボロボロになった壊れギターを買うまでよ」

「そんな洋服一つ買うほどの値段じゃないんですけど〜」

「だったら二時間以内に帰ってきなさい。わかった?」

「はいはい……」

 そんな他愛もない話をしているうちに学校の敷地内に入り、他の学生に迷惑が掛からないように徐行運転で駐輪場に入った。


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