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第22話 『Former Rain Raining Day』

 今日はちょっと特別な日だ。

 なんと、あと一時間すこしで水星が太陽に最も近づく日だ。天文学の事に興味を持っている人間は全員見ることだろう。

 しかし、外は暗い。雨音で雨が降っていることがすぐわかる。上手く見れるかどうか不安なままいつも通り熱いシャワーを浴びる。今は十月下旬。十数年前の予想では十一月十三日と言っていたが少し早まったようだ。

 けど寒い。もうすこしで冬服だがブレザーはあまり役に立たない。運転するときは必ず首元まで隠せる洋服を着ないと寒すぎる。

 サイドフレームを壊した相棒はこないだようやく修理が完了した。さくらを乗せて久しぶりに峠を走ったおかげでエンジンにダメージを負っていた。外装の塗装はパテとワックスとスプレーで埋めて目立ってはいない。土日を使ってエンジンをバラして修理、ついでにキャブレターのオーバーホールもした。さくらと峠を走ってから三週間だろうか、あの時以来、さくらを後ろには乗せてはいない。

 しかし、学校内での会話は増えた。さすがに休み時間などクラスのみんながいる中では話すことはできないが昼休みなどは話をしている。そんな事を考えながら太陽に近づく水星の姿を部屋の窓から見守り続けた。

 そうそう、この前さくらと山門が別れたそうだ。僕は何も行動しなかったが上手く別れられたようだ。山門は特に落ち込みもせず新しい彼女を募集中とのことだ。大していつもの山門と変わりはない。普通に話はしているし休み時間に一緒に昼食も取っている。 さくらとの関係はバレてはいないようだ。バレたとしても大して問題はないが少し友好関係が乱れるのは避けたい。

 しかし、僕とさくらの関係は変わっていない。ようやく普通のクラスメイトといったところだろうか。メールアドレスなどは聞いてはいない。聞いたとしても僕はあまりメールを打たない。ちなみにかおりとはいつも通りだ。


 今、僕は少し過去を振りかえながらピアノを弾いている。外がだんだんと明るくなってきた。

 一方、「乙女の祈り」は練習中だ。さくらに聞かせてあげると言ったからには練習せざるおえない。僕自身も弾きたい曲だったし、さくらに聞かせられるのは一曲あるかどうかだ。とてもじゃないが独学で学んだピアノなど幼少時代からレッスンを受けているさくらにとっては素人の浅知恵だろう。

 まだ、完全に外は明るくなっていないが僕は少し早めに切り上げ学校に行く準備をする。

 雨の日は大変だ。道路は滑るし、なんせ制服が濡れるのは嫌だ。制服の上にウィンドブレーカーを首元までしっかり絞めフルフェイスヘルメットを持って家を出る。フルフェイスヘルメットはかおりに被らせる。僕はダックテールのゴーグルを付ければ顔を濡れるが運転には問題はない。



 いつもの場所でかおりは雨宿りしていた。いつもの場所と言っても、かおりの部屋から見える場所ではなく少し離れたバス停だ。バスが停まる場所にバイクが停まるのもどうかと思うが仕方なかろう。

 昔、かおりが傘を持ってきたことがあったが傘差し運転は自転車でも禁じられている。なおさらバイクだと危険だし雨が止んだとしてもおき場所がない。いや、もっといろんな理由があるだろうが……。だから傘は持ってこないように言っている。

「おはよう」

僕はいつもの口調で。

「おはよー。雨はイヤだねぇー制服は濡れるし」

かおりはかなりブルーな口調で。

「上だけだけどね。さすがにスカートはどうしようもないよ」

「まぁそうだね。ヘルメットはー?」

僕は相棒のメットインの九十パーセントを占めていたヘルメットを取り出す。これで荷物が入れられる。

「はい。フルフェイス」

渋い顔でかおりが受け取る。

「ありがと、でもこのヘルメット嫌いなんだよね……」

「髪が乱れるからでしょ? でも、顔が濡れるのはもっと嫌。そうじゃなかったっけ?」

前かおりはそう言っていた。かおりはフルフェイスヘルメットはかなり嫌いだ。フルフェイスはかぶると少し暑苦しいし脱ぐときに髪が乱れる。

「そーなのよね……。もっと髪が乱れなくて顔だけ雨にあたらないヘルメットないのかな……?」

「……かおり、それじゃ髪が濡れるし、それにヘルメットは頭を守る為にあるものだよ。顔だけ雨にあたらないようなって、それじゃマスクだよ……」

とりあえず、マスクつっこみをいれておこう……

「しょうがないなー! えいっ!」

そう言って、おもいっきりヘルメットをかぶる。その後、髪をなんとかしようとしている。

「早く行くよ!」

フルフェイスをかぶっているので多少もごりがあるがそう聞こえた。

「了解」

僕もゴーグルをかけ相棒のエンジンをキックで掛ける。この時期からはセルスターターではエンジンは掛かりづらいのだ。

「レッツゴー!」

ヘルメットの中でもごもごしながらかおりが言った。このまま時間だけ無駄にしていてもしょうがない。僕達は雨の中、学校へ向かった。

 雨の中、僕たちは一言も会話することなくいつもの道を走った。とても雨の中じゃ会話もできないし、なんせ、冷たいだの寒いだの、この時期からバイクというのもなかなかいなかろう。

 そんなことを考えながらようやくいつもの倍近くかけて学校へ到着した。


 もうこの時期になると就職活動だの大学受験などで学校に来ない人も多い。少し前までは授業中ざわついていたクラスのみんなも真剣に講義を聞いている。僕はいつもと変わらなく他愛もない講義を右耳から左耳に流しながら聞いている。山門も変わらない。ちなみに僕の進路はまだ決まってはいない。

 僕はこないださくらから大学へ行ったらどう? と言われたが正直あまり大学へ行く気はしない。自分の進路を決める為に大学に通ってお金だけ無駄になりそうで怖い。となると僕もフリーターだろうか? そのことも後々考えていかなければならない。

 そういうさくらはどうするのだろうか? 少し考えてみた。学力も良いから都心の有名な大学だろうか? それともピアノの実力をもっと伸ばすために音大だろうか? でも、さくらの実力ならそのまま音楽教師にでもなれそうな気がする。

 そんなことを思っていると自分はこの先どうなるのか正直不安である。昔と比べて教師の数や公務員の数、いたって足りそうな職場でもあらゆる人材を求めている。しかし、昔に比べて中小企業は少なくなり大手の企業だけが残っている。「なんとか商事」など、そんな小さな会社はもう十年前にはすべてなくなっていた。これもすべて我が国が溜め込んだ借金の返済、という形になるのだろうか? でも、十年前に比べて我が国の借金は倍近く膨れ上がっている。物価や原油は毎月高くなるばかり。その一方では政治家の年間収入は上がる一方。天皇誕生日には国を挙げての政治家、有力者ばかり集めたパーティー。凍りつく国民には目も触れてはいない。本当にこの国は借金を返す気はあるのだろうか? 果たして多くの国民から借りた借金をすべて返せる日は来るのだろうか? 


 そんなことを雨降るの数学の講義中考えていた。



"Former Rain" End. Next "Rain".




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