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第21話 『Former Rain Battle!!』

「ショーゴー! 今、何キロー!?」

「見てたら事故る! しっかりつかまってて!!」

 レース開始の合図から約五分。僕は追い抜き安いスリップストリームという風の影響がまったくでない場所をキープするのが精一杯でなかなか抜きにかかれない。

 くそっ! 4輪は細かいハンドル捌きが可能な分コーナーをそんなに減速せず走っていく。こっちはアウトインアウトの繰り返ししか出来ない。このままじゃコーナーで差をつけられる。

 とある本で読んだことがあることを思い出した。

「コーナリングに集中しすぎると単純なコーナーでもスピードを落とさずえなくなる。コースを把握しできるだけ減速は避け万全の状態でコーナーを抜ければ立ち上がりもよくなる。レースの世界では多少リスクを犯さなければオーバーテイク(追い抜き)は難しい。勝負に出る時はレコードラインを外して相手に自分がわからなくさせることで相手の動揺を誘う」


なるほど……読めてきた。たしかこの先は簡単なコーナーの繰り返しの後ヘアピンが待っている。そこまで追いついてヘアピン(U字のコーナー、髪を留めるヘアピンに形状が似ている。F-1ではモナコGPのローズヘアピンが有名)で勝負を掛ける! ゴールはすぐそこだ。

 もう目の前のクルマをオーバーテイクするにはその作戦しかない。


「さくら! ビックリして振り落とされるなよ!」

さくらはずっと僕にしがみついている。相手もこの走りならこっちの動きがわかっているだろう。

 でも四輪にはない二輪の良い所である『すり抜け』を使う。相手にこちらの車体が見えなくなればその分相手は動揺するだろう。こっちは車幅が狭い分一瞬で勝負を掛けられる。


 連続コーナーをアウトからインに一気に傾ける。そしてすぐまた逆に倒す。身体自身も傾けなければ緩いコーナーでも厳しい。相手との距離は約二十メートル。

 徐々に距離を縮めていく。相手との距離は十メートル。最後の浅いコーナーを立ち上がった瞬間、相手は加速した。後を追って夜の森の中に太いクルマの音と相棒の高い音が交じり合う。相手との距離は十五メートル。

この先、約三百メートル先へのヘアピンに全て掛ける。一瞬でもためらったら負けが決定だ。

「さくら! 次のコーナー思いっきり右に身体を倒して!」

こうなったらさくらにも手伝ってもらうしかない。僕だけ身体を倒してもあまり効果はない。

「……わかったぁ!」

さくらの今にもなくなってしまいそうな声が聞こえては風に流された。


 ヘアピンまであと百メートルほど、相手とは二十メートルほどの差。

「さぁ、ラストチャンスだ!」

僕は誰にも聞こえない声で笑いながら呟いた。


 ヘアピンまであと三十メートル。ここでレコードライン(通常のレースではコースアウトを避ける為アウトインアウトを使いながら速度を上げていく。その時のブレーキングのタイヤスピンによってできた黒い線をレコードラインと呼ぶ。雪道のわだちみたいなものだ)を大きく外す。僕とさくらの身体は風によって大きく左に流される。


 もう少し……もう少し……。

 この間、さくらはいったい何を考えているのだろうか? もしかしたらこんなことになって呆れているのかもしれない、少なくてもレースを楽しんでいる、ということは……無いに等しいだろう。

 そして

このレースの勝負所、ヘアピンカーブにさしかかった。

「……ここだ! 身体を倒せ!」

僕がさくらに合図を告げた瞬間、僕たちはさっきとは逆に大きく右へ車体を傾けた。

 相手のテールランプが赤くなる前に僕は勝負にでた。一瞬遅れて相手のテールランプが点く。ドリフトで曲がるつもりだ! しかし一瞬イン側から離れなければならない。

 少しだけできる、ちょうど相棒の車幅のスペース、僕達はそこを狙っていた。


 その瞬間、全身に震えが走り地面にフレームが触れていることに気がついた。

相棒の右フレームが地面にあたって火花が飛び散る。相当角度はついている。フレームがあたって当然だ。

 ヘアピンの真ん中で二つの音が交差する。ヘアピンで並んだ! しかし次は左コーナー。ここで前に出なければ衝突は避けられない。一心不乱に身体を起こす。相手は左、僕達は右側だ。

 

 次の左コーナー、スピードを上げても並んだまま、「もうだめか……」と思った瞬間、相手のクルマがブレーキを掛けた。……そうか! 僕達が右側にいるせいでレコードラインに戻れないんだ!

 一瞬で差が大きく開く。僕はそこでフルスロットルのまま思いっきり相棒を左に傾けた。

「きゃっ! わわわわっ!」

 ずっと右に身体を倒していたさくらの身体だけが残される。僕は必死に身体を動かしてさくらをもとの体勢に戻す。その瞬間コーナーを抜ける。あとは三百メートルほどの下りストレート、ミラーで何かが光った。相手のクルマだ! ストレートじゃ勝てない、しかしフルスロットル以上スピードを出す方法はない。できるだけセンターライン中央を走るようにハンドルを保つ。しかし相手の出方次第で簡単に抜かれる。残り百メートルほど。一瞬メーターゲージを見た。百十五キロ。下り坂のおかげで凄いスピードだ。相手のヘッドライトの光がだんだん小さくなる。きっとエンジンにはかなり無理をかけているだろう。頑張れよ! 相棒! さくら! 

 その瞬間黄色い線を駆け抜けた。僕達の勝ちだ! 急いでブレーキをかけ速度を落とす。

「勝ったよ! さくら!」

後ろを振り返り、さくらの表情を伺う。

「やったね! さすがショーゴ! 車に勝っちゃうなんて!」

「そいつはこのバイクに言ってくれ! 限界はとっくに超えただろうからな!」

「ありがとね、相棒君!」

ぽんぽんとさくらが相棒を叩く。おかしい、僕はさくらにこのバイクのことを相棒と呼んでいる事を知らないはずだ。言った覚えなんかない。


 後で思った。はしゃぎすぎた……と。



 僕たちはさくらの家へ向かうため、少し大きな国道を走っていた。もちろん普通の速度でだ。

「遅いねぇー。ショーゴ」

これでも六十キロは出ている。さっきはこれのほぼ倍だったから仕方がないか……。

「たしかこっちだよね?」

わかってはいるが道を確認する。

「なんで知ってるの!?」

さくらがびっくりしたような口調で言う。さくらは知らないだろうが、僕は中学の時一回だけさくらの家へ行ったことがある。その時さくらは居なかったがまた来れるように道は覚えていた。

「秘密」

「いじわる」

「ははっ、昔と一緒な答えだね」

「くすっ、そうだね」


 僕はさくらを家の前で下ろした。峠を走ってきた事を言わないようにさくらに助言しておき、そして再び相棒にまたがる。一言、

「さくら、今度家に来なよ。ピアノ、教えてほしいからさ」

「わかった。たくさん教えてあげる。その代わり、上達しなかったらタダじゃおかないんだからね!」

「それは頼もしいね」

そういって僕はさくらにてを振り、相棒を走らせた。


 家に着いたのは日付変更線をまわりそうな時間帯だった。僕はすっかり疲れてワイシャツとネクタイを脱いでベッドに倒れこむ。

「良い1日だった……」

 目を閉じながら呟く。


 そして意識は途絶えた。




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