第20話 『Former Rain in the mountain』
山道をさくらを乗せ、本格的な峠へとやってきた。
ここは深夜になると改造したクルマが走る場所でもある。そのためコーナーが多い。昔、少しだけ通っていたため大体のコースはわかる。スピードを上げ、現在八十五キロ、このストレートでおそらく九十キロはでるだろう。
「きゃあー」
先ほどの「きゃー」よりははるかに楽しんでる声だ。
「もうすぐ九十キロでるよ!」
僕は風に負けないよう大声で叫ぶ。ここではどんなに叫んでも誰にも聞こえないから大声だしても大丈夫だ。
「とにかく速いー」
よし、思い切って百キロを目指そう、と思っていたが前方に四つの灯りが見えた。
クルマだ! あのサイズは軽だろう。
僕は思い切った案を思いついた。
「さくら! 今からあのクルマ抜くよ!」
「なーにー? 聞こえない!」
まぁいいか。とにかく抜かないと気がすまない。なんて微妙なレーサー気取りなのだろうか……。
僕は前のクルマに見える範囲まで距離の差を縮め、ライトを数回上下させるパッシングをした。このパッシングは属に言うレースの合図である。
前のクルマが一回大きくアクセルを吹かし、合図に答える。あのコーナーを曲がったらレース開始だ。
僕は前方のクルマの真後ろの風が消える場所まで追い詰めた。