第19話 『Former Rain old memories』
さくらの家は僕たち(大まかに僕とかおり)が住む街から離れる。僕たちはいつか昔まで一緒に遊んだ川原の横を走行していた。この場所を少しゆっくりめで走り、もう子供など遊べる環境でないコンクリートジャングルと化したこの思い出の川原を二人で眺めながら走っていく。
鳥の鳴き声や草木が揺れる音。そんなものは今見ている景色にはなく、ただコンクリートが並んでいるだけ。
ここで僕たちはいろんな遊びをして、泥だらけになって、冬には大きなかまくらを作って、春には当時立っていた桜の木の下でお花見をしたものだ。
その桜の木は、今はもうない。コンクリートのせいで面影すらもない。この懐かしい感じ、だけれども、昔とまるで別な場所となってしまったこの感情を、僕も、さくらも言葉に表すことができなかった。
さくらの家は一番まともなルートを辿れば一時間以上かかる末、交通量も多い道路を通らなければいけない。
そういえば、僕が昔、さくらの家を訪ねるために使ったルートがあることを思い出した。
「さくら?」
「何? ショーゴ?」
すっかり相棒には慣れて、景色を眺める余裕も出たようだった。
「少し道を変えて、山超えしてみたいんだけど、どうかな? その方がさくらの家に早く着くよ」
「道を決めるのは運転手さんでしょ? 私はどの道を通ってもいいよ。…………と、一緒なら……」
「わかった。最後何か言った?」
小声だったので風の影響もあってうまく聞き取れなかった。
「なんでもないよ。とにかく道をショーゴに任せるよ」
「……そう? なら、道を変えるよ」
そう言って、僕は相棒を森茂る山の方へハンドルを傾けた。