第18話 『Former Rain Racing & Battle』
「さぁ、乗るよ」
「うん」
さくらが後部座席に乗る。言っちゃ悪いがかおりよりは軽い。二人乗り最速記録が出るかもしれない。いや、絶対でる。
「しっかりつかまって」
さくらはなにも言わず僕の腰に腕を回し身体と身体をくっつける。さくらの身体が震えてるのがわかる。僕は少しドキドキしながら、右ウィンカーを付ける。クルマが走って行って十秒後、僕はさくらの家へ向かってスロットルを回した。
「わわわわわわっっ! う、動いてる!」
後ろでさくらが叫んでいる、まだ右折する途中で十キロも出ていない。曲がりきったところで僕はさくらに言う。
「さぁいくよ! しっかりつかまって!」
「……うん!」
よし、スロットルを全開、後輪タイヤが少し空転する。一瞬さくらが後ろに離れかける。しかしすぐにまた身体を密着させた。
かなり怖がっているようだ。速度は三十キロほど。
さくらに気をとられて黄色信号に変わろうとしていた信号を、とても止まれる状態じゃなかったのでステアリングを安定させスロットルをまわした。速度は一気に上がる。
「きゃー!」
さくらが泣きそうなくらいの悲鳴を上げる。あいにくフルスロットルでのブレーキはかなり危険。車もバイクも自転車も一輪車も(違うか)すぐには止まれないよ、残念だったねさくら……。
いったい何回悲鳴を上げただろうか? まだ悲鳴がやまない。このままではスピード感が楽しめないじゃないか。
「さくら! 前を見て!」
「前なんてみれないよぉ!」
必死な思いで言葉にしただろうか。声がまだ震えている。
「いいから!!」
少し強めの口調でさくらに、前を見るように指示した。
半帽の鍔が背中から離れる。
さくらにとっては音速を超えたように見えたに違いない。なんせ、真横のクルマがいとも簡単に抜かれていくのだ。
「すっ、すごーい! 速い、速いよショーゴ!」
先ほどの怖さはどこかに飛んでいったようだ。フルスロットルの相棒は直線でさらに加速していく。
「ショ、ショーゴ、速い、速すぎ……!」
「風はどう? さくら。こんな体験したことないでしょ?」
言葉が風に流されうまく伝わったかどうかなんてわからない。でも……
「風強いー! だけど気持ちいいー!」
すっかり気に入ってくれたようだ。よかったよかった……。