第15話 『Former Rain back to home』
「あのー……乗りづらいんですけど」
僕たちは都心から我が街へ向かって荷物をいっぱい乗せ出発していた。
後部キャリアにはたっぷり荷物を、メットインにも荷物を、そして僕の足元にも荷物が……もちろん全部かおりのだ。自分の買った荷物は鍵下のスペースにすんなり入っている。そして先ほど購入したキーホルダーは既に相棒のキーに付いている。キャリアをギリギリまで使っている為かおりは少し前気味に座っている。そのおかげで僕まで前に行かなければならない。
「これ全部かおりの荷物」
後ろでガタガタいっている荷物を首で指す、指で指している余裕などない。
「わかってるけど。スクーターって結構狭いんだね」
「スクーターの限界がこれ。ミッション車(左手でクラッチ、左足でギアをチェンジ。右足で後輪ブレーキによって操作するバイクを指す)は何も積めないよ」
「そうなんだー。カッコいいのに」
「だから僕はスクーター一本なんだよ。荷物を積めるし、スロットル一本だし使い勝手がいい」
「でもたまにはCBXとか乗りたい。ババババーって音してウィーンって音して」
「CBXは乗れないよ、大型免許までは持ってないから。かおりバイクの名前CBXしか知らないのか?いつもバイクの話になるとCBXって……CBXにも種類あるんだぞ、元々はCB750とかからCBXに進化してだな……」
「ふーん、乗れないのかぁ」
「乗れるのもあるけど車検やらなにやら……」
「レンタカー決定!」
「バイクのレンタカーなんてありませーん!」
夕焼けを背に国道から細い路地へ入る。少しの段差でもキャリアの荷物は揺れる。元々キャリアにこんなに荷物は乗せられない。ビニール紐を買ってきて縛ったのだ。何故か僕の出費だった……。
かおりの家に着いた。
荷物を部屋へ運ぶと非常に珍しく「中入いる?」と聞いてきた。運転で疲れたため休憩がてら休ませてもらうことにした。
重い身体(かおりの荷物を持っているから)をゆっくりとかおりの部屋にスライドさせて初めてかおりの部屋に入った。
「やっぱりこの窓からあの場所は見えたんだな」
僕は窓際に立ちいつもの場所を指差した。
「まぁね」
「別に毎日家の前に来てもいいぞ?」
「いや、いいよ……。いつもはこんなに綺麗じゃないから! はははっ!」
僕の部屋に似ていたためあまり見なかったが部屋は全面薄紅色だがキッチンだけは別だった。黒こげたフライパン他、説明しなくても一言で結果がわかる。
「……かおりは料理が苦手だ!」
「……人のキッチンで解釈しないでよ……」
と、言われても……コンロも黒こげ、最後に使ったのがどれだけ前かわかる。
「食生活はカップラーメンや買い物してきた物ばかり」
「声にでてるよぉ」
「カップラーメンはピアノの敵なんだぞ!」
こないだの知識を教え込む
「私はピアノ弾かないから大丈夫」
「いや、問題なのは食生活」
結局、今晩はかおりの家で食事を作ってあげることにした。冷蔵庫の中には使えるかどうかわからない食材が入っていた。食べれるものだけ使い、もう無理だろう、と思うものはゴミ箱へ。途中、もったいない、というかおりの声が聞こえたがもったいないで済むならまだマシだ。食中毒になりそうなのも中にはあった。僕はいつもと違う食材だがなんとか料理を作った。味見をしてみる。問題はない。
「出来たよ」
「ありがとーすっごいね、あの冷蔵庫からこれ作るなんて!」
「中には毒々しいキノコよりも危なっかしい物もあったけどね……」
「いただきまーす」
満面の笑みで僕の作った料理を食べてくれている。料理人の気持ちが良くわかる。
僕も食べてみる。なかなか良い出来だ。
「毎日作ってくれると助かるんだけどねー」
「そこまで面倒見切れません。料理は出来なくてもスーパーから買ってきた物食べなさい」
こうして僕らは仲良く夕食を取った。結局ゲームにも付きあわされ帰ったのは夜十時過ぎだった。
家に帰った僕は考えていた。いくらかおりでも女性が簡単に家に上がらせるなんて普通はない。確かにほぼ毎日会っているが料理まで作って……一体なにを考えているんだ? それは僕にも言える事だった。彼女でもない女の子をバイクに乗せて、一緒にご飯を食べて……。
こんな事考えても仕方がない、ギターでも弾こう。
テキトーにギターを弾いて僕はベッドに横になった。