第13話 『Former Rain Go the city』
熱を帯びたアスファルトの上、さらに走行していたため熱くなった相棒の上で「やはり早かったか……」と呟く。相棒のサイドスタンドを立て熱くなった相棒の上でかおりの事を待つ。かおりの部屋からはもう見えてるであろう。部屋の中は少し距離が遠くて光が反射しているため見えない。今日もこっちを見ているのだろうか? しかし、
「十二時五分……」
時間は過ぎていた。しょうがないからこっちから行くことにした。かおりのアパートの前まで相棒のエンジンを掛けず押していく。アパートの前に相棒をサイドスタンドで立てる。階段を上がってかおりの部屋の前に立つ。言う言葉は決まっている。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らし
「宅配便でーす。お手数ですがサインをお願いしまーす」
完璧な偽装だ。声も良かった。
「? ……はい、今行きます!」
まったく疑ってない……。まぁ、宅配便を疑う習慣がつくと確かに精神的に参りそうだが……そんな時、中からかおりが出てきた。
かおりが激しくドアを開ける。意外とドアは大きかった。僕はドアに押し付けられるかのようにドアと柵の間に挟まった。「ぐえっ」とみっともない声をだす。
「? ……ショーゴ!? こんなとこで何やってんの? しかも人の家の前で!」
「……かおりが遅いからこっちから……なんでドアがこんなに大きい……」
ドアと柵に挟まれながら話した。
ははーん、と相槌を打ちながら『なるほどね』と言わんばかりに、
「そういうことね。たまに怪しそうな声の業者にはこんな風に開けるのよ」
そういってかおりはもう一度ドアを閉めてまたしても豪快に開けた。かろうじて避けたがこれは危ない。下手したら死んでしまう。うん、マジで。
「かおり……危なすぎるよ……」
こんな大きなドアを思いっきりぶつけられた本物の宅配業者の顔が浮かぶ。
「あーゴメン、今日は私が遅刻だっけ? あと五分待ってて!」
というとかおりは勢い良くドアを閉めた。一瞬部屋の中が見えたが散らかっている訳ではなかった。壁紙は全て薄紅色だった。ちなみに僕の部屋は白一色だ。
五分かおりの部屋の前で待っていると、その大きな扉がドガっと鈍い音を出しかおりが姿を見せた。いつも制服だからあまりかおりの私服を見たことがなかったが、普通の女の子みたいな服装だった。……いや、女の子なのだろう。訂正しておく。
相棒のある場所までやってきたところで本題へ。
「で、今日はどこ行くの?日曜日に呼び出して」
かおりはなにも言わずお馴染みの後部座席に腰を下ろしてからこう言った。
「都心に向けてレッツゴー!!」
都心ですか……かおりさん。ちなみに都心までは三十キロほどもある。
「なんで僕まで一緒なの?」
「知らないの? デートってやつよ、デート」
「はい?」
一瞬言葉を失った。
ちなみに僕はデートの経験がない。誰とも付き合ったことがないから当然だが……
「デートって?」一応聞いてみた。
「デートも知らないの? あの日付とかの」
「それは知ってます」
「あっそっかー。ショーゴは付き合ったことないんだっけ? じゃあ初デートだね」
「あのさ……どこまでが遊びでどこからがデートなの?」
「恋人同士じゃなかったら遊び、恋人はデートだよ?」
「僕とかおり付き合ってないじゃん」
「付き合ってることになってるから大丈夫」
「はいっ?」
なんということになっていたんだ……
「クラスの人に問い詰められてなんかの拍子に言っちゃったんだって?」
「誰が!? しかも、なんかの拍子で付き合うって事は普通ないだろ!」
僕たちは、都心近くの国道で叫びながら七十キロで走行している。かおりがもっとスピード出せとうるさいのだ。
「まぁ気にしない気にしない。それともショーゴが誰か好きな子でもいるの? いるのであれば是非聞いておきたいわね……」
かおりに嘘は通用しない、だが、付き合うとか僕にとっては次元が違うのだ。
「いや、いないけど……」
「いないけど?」
「気になる事がある」
「気になる人じゃなくて? 事?」
「そう、事。着いたらゆっくり話すよ。さすがにこれ以上のスピードだと話してると事故りそうだ」
現在八十キロ手前。
「じゃ二人乗り最高記録に挑戦しよーう!」
やれやれ……。気持ちの上で首を横に振った。
「まったく……今日だけだからなタイムアタックは! しっかり掴まってろ!!」
「りょーかい、ドライバーさん」
ちなみに最高記録は遅刻ギリギリの時の八十五キロだ。日曜で込み合う国道でクルマとクルマの間を縫うように走っていく。後ろでかおりがジェットコースターに乗った人みたいにはしゃいでいる。気にしている状態じゃない。ハンドリング一つのミスで大事故だ。
僕はかなり気をつけながら、テンションが上がりきっている後ろのお嬢さんを特に注意しながら久々のタイムアタックにチャレンジした。
クルマとクルマの間、わずかの隙間を見つけては突進した。冷静かつ大胆に相棒のスロットルを回し続けた。
「最高でた?」
所変わって、僕らは都心の人混みの多い場所に来ていた。たまにはハイスピードもいいかな? と思ったがやはり、危ないものは危ないのだ。法廷速度を三十キロ以上オーバーしているのだから……
「八十八から八十九キロ。ちゃんとメーター見てなかったけれど……と、いうか見れる余裕なかったけれど……」
「じゃあ、最低三キロは更新したね!」
「でもあそこの信号手前のピットストップでかなりロスしたかな? 重くなったから」
途中、信号で止まりメーターを見るとほぼエンプティだったのでしょうがなくハイオク満タンを飲ませた。これによって約十キロ重量が上がった。さらにこれによって僕の財布が軽くなった。実に切実な反比例。
タイムアタック時の補給は最低限の燃料を入れてアタックするが僕はレーサーじゃない。
「でも、二人乗りでよく出たね、あんなスピード。****だっけ?」
かおりが遠まわしでほめてくれるのがわかった。だが……
「*****です。てかそんなメーカーない」