僕が真実を知るために
「それじゃ、ちょっと行ってみようか?」
そう言って谷崎さんは歩き始めた。
僕も慌ててついていくと、今までいた建物の外に出て裏手に向かった。
そこは一本の木が生えている小さな庭になっていて、その木の木陰で1人の少年が本を読んでいた。
「こんにちは、門矢くん」
「……こんにちは……誰ですかその子?」
と読書を邪魔されたせいなのか、少し不機嫌そうな表情をしていた。
年は僕よりも少し上くらいで、背は座っていたから分からなかったけれどかなり高かった。眼鏡を掛けていて、その眼鏡の下の目はかなり鋭かった。
「この子は今日新しく来た比嘉くん。門矢くんと同じ部屋で暮らす事になるから」
「こ、こんにちは」
おずおずと挨拶をすると、少しため息をついて
「俺の名前は門矢 零士15歳。……そんなにびくびくしなくてもいいよ」
と気だるげに答えた。
「それじゃあ私はこれで戻るから。私のかわりにここの詳しい案内とかをしてあげてね」
「分かりました」
そう言って谷崎さんは裏庭を後にした。
その後僕は門矢くんに話しかけようとしたけれど、何を話せばいいか分からずに話しかけ損ねていた。
すると門矢くんから
「……君いま何歳?俺よりは年下だよね?」
と聞かれたので
「じ、11歳です」
とおずおずと答えると
「ふーん11歳か、まぁいいやそんな事。それで君どうしてこんなとこに来たの?」
「え?」
そういえば考えた事も無かった。
そこまで考える余裕も無かった。
なぜこんな所に来たのか。
どうしてだろう?と考えていると
「あーいいよそこまで考え込まなくても。そもそも俺もどうしてここに来たのかわからないから。……そういえば君、ここに来る時にここにいる子供達は全員これまでの記憶が無いって聞かされなかったか?」
と聞かれてうん、と答えるとやっぱりか、と答えた。
「どうしてそんな事聞くの?それってまるで」
記憶が無いって事が嘘みたいじゃないか?と聞こうとすると、
「ここにいる子供達は記憶がないんじゃなくて、一時的に記憶喪失になってるだけなんだ。……と言っても、いつから記憶を取り戻すかは分からないけど」
と言った。聞いてすぐには全く何を言っているのか分からなかったけれど、聞いているうちに少しづつ理解できた。
つまりここにいる子供達は、最初の頃こそ記憶を無くしているけれど、しばらくするとだんだん記憶を取り戻すとのこと。
ただし取り戻すまでにかかる時間は個人差があるらしい。
とここまで聞いてふと気になったのは、どうしてこの事をここの大人たちは話さないのかと、どうしてその事を来てすぐの僕に話したのかという事。
どうして僕にこんな事を話すの?と聞こうとした時
バサバサバサという羽音が頭の上でした。
慌てて後ろに少し下がると、そこに白いカラスが降りてきた。
「へえ、珍しいな。アルビノかな?」
「アルビノ?」
「突然変異で体の色が抜ける事だよ。でも初めて見たな」
でもこの白いカラス、なんだか普通のカラスとは違うな。色が違うだけじゃない。
そう思っていると、そのカラスが僕たちの方を一瞥して
「じゃあな、哀れな子供達よ。未来ある鳥籠の中の鳥達よ」
そう言ったような気がした直後、そのカラスが飛び立った。
カラスが喋った⁉︎と思ったが、頭を振ってそんな訳ないよなと無理やり理解しようとした。
ただ、あの白いカラスの言った言葉は鮮明に頭の中に残り、忘れる事は出来そうに無かった。