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第六話  女騎士クリスレイア

「GUGEGEEEEEEEEEEEEEEEEEE!?」


 右腕を喪ったオークが、悲鳴を上げて尻尾を巻いた。


「逃がすか!」

「待て! 追わなくていい!」


 女狩人が威勢よく弓矢を構え、女剣士が黙々と追撃にかかろうとしたところへ、女騎士が鋭く制止する。

 この女騎士がパーティーリーダーなのだろう。二人は不承不承といった感じながら、文句一つ言わず矛を収めた。


「クリスレイアの判断が正しいねえ。たかがオークの一匹、狩ったところで稼ぎになりゃしないよ。それよりボクの安否確認が先決だ」


 杖を持っているし、恐らくは魔術師だろう老婆が、女騎士の判断を支持する。


(クリスレイアさんっていうのか……)


 レンは改めて、女騎士をまじまじと観察した。

 意外と若くて、まだ二十歳前なのではないだろうか?

 艶のある黒髪(ブルネット)に、凛々しい顔立ち。

 女剣士たちも決して容色が劣っているわけではなかったが、クリスレイアのそれは際立っていた。

 そして、片手半剣(バスタードソード)丸盾(ラウンドシールド)板金鎧(プレートメイル)という重武装。

 武具は全てクアザルマ産であろう。宿した霊力の強さを窺わせる、逸品である。

 つまりは彼女らは、中堅以上のライナーパーティーということだ。


 それらの情報を、レンはさっと一瞥しただけで推測する。

 推測できるように、この二か月の間になった。

 これも、ソロ専ゆえに誰にも頼れない自分は、観察眼を磨くしかなかったというわけだ。


「私はクリスレイア・デュバン」


 女騎士は剣をしまうと、右手で握手を求めてくる。

 家名持ち――やはりどこかの国の、貴族の出だろうか? 鎧の胸に家紋が彫ってあったので、そうではないかと思っていたのだ(もちろん騙りの可能性はあるが、そんなの信じたくない!)。

 レンが彼女を一目で女騎士と判断した理由もその家紋だが、実際ライナーには騎士階級の者が少なくない。

 家督を継げない三男坊とかが、泰平の世では武勲を立てる機会もないし、活躍の場と刺激を求めてクアザルマに来るのである。

 クリスレイアは女性だけれど、お見合いが嫌で逃げてきたなんてのも、クアザルマではあるある話だった。


 まあ、今はともあれ――


「僕はレンです。助けてくださって、本当にありがとうございます!」

「うん。怪我もないようだし、何よりだ」

「はい! おかげさまで!」


 レンも慌てて剣を腰の鞘に戻すと、両手で握手に応じた。

 彼女は籠手をつけているので、「こ、こんな美人と握手!?」なんて緊張せずにすんだ。


「君はもしかして、ソロのライナーかな? それとも――」


 一方、クリスレイアが歯切れ悪く訊ねてくる。

 つまり、彼女の質問はこうだ。

 レンには当然、仲間がいたのではないか? しかし、既に魔物に殺されていたり、あるいはレンを置いて逃げていたりしたのではないか?

 大事な確認だけど、聞き方にはよっては無神経になってしまう。だから口を濁した。

 

「あ、僕、ソロでやってます。お気遣い、ありがとうございます」


 レンは重ねて礼を言う。

 このクリスレイアさんは強くて綺麗なだけではなくて、優しくて気遣いのできる人なのだと思った。感心した。


 ところが、


「おいおい、オークにも手こずるようなガキが、よりにもよってソロだなんて、正気かよ! それとも自殺願望でもあるのかよ」


 レンの返答を聞いた、女狩人がせせら笑った。


「やめろ。ライナーなんて皆、多かれ少なかれ事情を抱えているものだ」


 クリスレイアがすぐに聞き咎める。やっぱり優しい。

 レンは凛々しい女騎士に、素直な尊敬の眼差しを向ける。


 それからクリスレイアは、彼女の仲間たちを紹介してくれた。

 寡黙そうな女剣士の、タナ。

 性格悪そうな女狩人の、ビアンカ。

 パーティー随一のベテランライナーだというマーサは、やはり魔術師だった。


「知っているかい、レン君? この辺りはもう〈剛鉄山脈〉に近い。私たちのようにパーティーを組むのが当然で、ソロ活動をするには危険なエリアだ」


 クリスレイアは自分たちを指しながら、親切にもアドバイスしてくれた。


「引き返すことをお勧めするよ。なんだったら、ある程度安全な場所まで、私たちが送っていってあげてもいい」

「おいおい、クリス! お節介にも限度があるだろ!?」

「まあ、そう言わないでくれ、ビアンカ。私はライナーである前に、騎士なんだよ。こんな少年が命を落とすような羽目になったら、あまりに忍びない」

「だーかーらー、それがお節介すぎっつってんの!」


 自分のことでクリスレイアたちが口論を始め、レンは申し訳なさであわあわとなる。

 すると、その様子に気づいたクリスレイアが、


「大丈夫。君が気に病むことなんて一つもないんだ」


 レンのことをグイっと抱き寄せ、勇気づけてくれた。


 弟に対する、優しいお姉ちゃんみたいな態度。

 レンは故郷の従姉のことを思い出して、ドギマギしてしまう。

 甲冑姿で抱き締められてもうれしくないとか、むしろ痛いとか、そういう無粋な感想なんて、純情な少年は思いもしない。美人のお姉さんに密着してクラクラだ。



 と――これが、レンとクリスレイアの出会いだった。

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