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泣き虫のバーサーカー ~いずれ英雄譚と呼ばれることになる物語~  作者: 福山松江


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第三十五話  バーサーク

「GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」


 月下、レンの怒りの咆哮が轟く。

 狂戦士の異常膂力が全身に漲り、凄まじい加速力を以ってトロールへ突撃。

 紫電の速さで駆け抜けると、不死界(アロニア)の魔人の首を斬り飛ばす。


「やった!」

「一撃か!」


 クリスレイアとタナが拳をにぎって快哉を叫ぶ。


 が――それはぬか喜びだった。

 トロールの首を斬ったレンの手に、全く感触がない。


「ははは! 驚いたか、猿ども!」


 全く別の場所から忽然と現れた、五体満足のトロールが嘲笑した。


 つまりは幻。

 レンが斬ったのは、トロールが魔法で作り出した虚像だったのだ。

 しかも、


「仮にもバーサーカーと()り合おうというのだ」

「なんの準備もなしに誘い出したと思っているのか?」

「浅はか! まったく浅はか!」

「これだから猿は度し難いわ、ククク」


 一人、また一人とトロールが現れ、その数が増えていく。

 これもまた魔法で作り出した幻像だろう。

 本物はどれか一つ。

 あるいは全てが虚像!


【世に嘘は億万蔓延れど、真実はただ一つ!】


 マーサが呪文を唱え、トロールの幻術を打ち消していく。

 だが、無駄だった。

 マーサの魔法で虚像を消す数より、トロールの魔法で幻像が増える勢いの方が強い。

 魔力の差か、技量の差か、はたまた両方か……。


「ハハハハハハハ! 猿の分際で小賢しい真似をするなよ!」

「WYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」


 哄笑するトロール。

 だが、レンの雄叫びがそれをかき消した。

 同時に、先ほどの突撃を遥かに超える高速で斬りかかる。

 それも連撃。一人を斬り捨てては、また次のトロールに躍りかかるを、極高速で繰り返す。

 斬、斬、斬、斬!

 トロールの幻像が無数に増えていくというのならば、その全てを斬り払えばよいだけのこと!


「まだ速くなるというのか、バーサーカー!?」


 幻像のトロール全てが、顔色を変えた。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっっっ」


 ついにレンの〈剣光鉄火〉が本物を捉え、その左腕を斬り飛ばした。


「おい、デク! 何をやっている! 私を護らんかッ!」


 トロールは逃げつつ、呪文で腕を再生しつつ、カエルの魔物と化したビアンカに命じる。

 なんとも忙しない。必死の形相。さっきまでの余裕はどこへやらだ。


「……嫌だ……嫌だ……こんな醜い姿、嫌だああああ……」


 ビアンカは声まで野太いものに無残に変わり果て、泣きわめきながらレンに襲いかかってくる。

 自分の意思とは裏腹に、トロールの命には逆らえない様子。


 レンは迎え撃つため、剣を大きく振りかぶった。


「そいつの皮膚は鋼より硬く、且つ粘る! 歯が立つものかよ!」


 トロールの嘲弄。


 だが――レンは委細構わない。

 振り上げた右腕に、狂戦士の膂力がこれでもかと漲っていく。

 そして、剣を叩き下ろした。

 ただ一撃で、ビアンカの巨体の三分の一ほどを吹き飛ばした。

 もはや斬撃ではなく、爆撃というべきほどの威力であった。


「………………バカな………………」


 と、トロールが絶句する。


 その間にもレンは、カエルの化物となったビアンカを滅多打ちにする。

 本来は硬く、タフであろう魔物をあっという間に粉砕していく。


「ありがとう……。本当にありがとう……っ」


 魔物となり、己の生に絶望していたビアンカは、泣いて感謝しながら逝った。

 物言わぬ屍となった。


 もう、トロールを守るものは何もない。

 瞋恚の炎で燃え盛るレンの瞳が、じっと不死界(アロニア)の魔人を見据える。


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ」


 あれほど傲慢だったトロールの口から、ついに情けない悲鳴が漏れ出る。


 その時にはもう、レンは一瞬で肉薄している。

〈剣光鉄火〉を振りかぶっている。


【不可視の盾よ!】


 トロールは咄嗟に、魔力の盾を顕現させた。


「ZYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」


 だがレンは、その盾を一刀両断にした。


【我が終生の友よ! その名は業火なり!】


 トロールは魔法で、五匹の蛇にも似た漆黒の炎を召喚した。

 だが、結果は同じ。

 レンはそれらも全て、一刀の元に斬り伏せた。

 右手の傷からあふれる膂力が、氣力が、それを可能にした。


「狂戦士を止められる者など、いはしないのか……」


 クリスレイアが武者震いとともに独白した。


「フッ……。浅はかだったのはどっちか、はっきりしたようだねえ」


 マーサが口の端を皮肉っぽく歪めた。


「罠も準備も全部、正面粉砕か……」


 滅多に笑わないタナが、小気味良さげに笑った。


 彼女ら三人と、固唾を飲んで見守る村人たちの視線を、一身に受け――

 レンは、憤怒の呪紋がもたらす全ての膂力を、氣力を、一つの剣技(わざ)に集約し、精錬し、昇華して、トロールに叩きつけた。


「ファストブレェエドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 その強力無比の極撃が、トロールの頭頂部から股下にかけて、縦一文字に両断した。

 治癒魔法を使うゆとりなど与えなかった。

 そう――

 相手が不死界(アロニア)の魔人といえど、やはり二の太刀は必要なかったのだ。

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新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
★こちらが作品ページのリンクです★

ぜひ1話でもご覧になってみてください。
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