表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫のバーサーカー ~いずれ英雄譚と呼ばれることになる物語~  作者: 福山松江


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/38

第三十二話  混沌都市を超える混沌

「今回はあくまで調査だ。いいね、坊や?」


 道中、マーサに言い含められた。

〈常夜の国〉を「北」へ「北」へ。

 ビアンカを先頭に道なき葦原を、二つの月を頼りに進む。


「村人をクアザルマへ生還させるにも、人数がわからなくちゃ護衛の規模も決められない。それにまた妖魔が背後にいるなら、オグライが加勢してくれるという話だ」

「わ、わかりました、マーサさん」

「本当かねえ。あんたは何かあったら、突っ走ってしまいそうでねえ」

「マーサの言う通りだ。レン君は優しいし、窮地に陥っている人を見て、放っておけない性分だからな」


 クリスレイアにも脇から言われて、レンは首を竦める。


「それは間違いなくレン君の美徳だが、場合が場合だから今回は自重をお願いするよ」

「は、はいっ、クリスレイアさん」


 くどいほど言われるが、別にレンが問題児というわけではない。

 パーティーというのは、しっかりと意見のすり合わせをするものだ。

 でないと、咄嗟の時に判断がバラバラになって、組織が崩壊してしまう。

 ましてレンは助っ人で、このパーティーの古株ではないのだから、意見統一を入念に行うのは当然のことだった。

「言わなくてもわかると思った」なんて甘えが通用するのは、命の危険がない場所だけの話である。


 途中一度、食事のための休憩を挟む。

 マーサが魔法で火を(おこ)し、炙ったベーコンを温めたパンで挟んで食べる。


「魔法って便利ですよね。僕、普段はソロだから、ほくちを使って火を熾すのも一苦労で」

「なんだい。こんなバアサン褒めたって、何も出やしないよ」


 マーサも老体に似合わぬ健啖ぶりでベーコンをかじりながら、からからと笑った。


(いつかそのうち、僕も魔法を習得したいなあ)


 と、レンは密やかに野心を燃やした。


    ◇◆◇◆◇


 さらに葦原を「北」へ進むと、生界(リィン)ではあり得ないほど背の高い葦が、ほとんど壁となって行く手を阻む地帯に到着する。

 葦をかき分けながら進むことはできるのだが、どうしても移動速度は落ちるし、何より視界が通らなくて、迫る魔物の察知が遅れる。

〈常夜の国〉でも有数の危険地帯として知られる辺りだ。

 ソロライナーであるレンは、「当分は近づかないように」とレヴィアにも言い含められていた。


「けどまあ、魔物だってこの葦をかき分けながらじゃないと進めない。その音に耳を澄ませておけば、近づいてきてるのは意外とわかるもんさ」

「僕たちがかき分けて進む音と、聞き分けできるですか?」

「慣れりゃな」


 ビアンカが珍しく親切に教えてくれた。

 その彼女が先導し――月のおかげで、かろうじて方角だけはわかる――異常な葦原を、皆でかき分け、かき分け進んでいく。

 途中、ビアンカが近くで物音がしているのを察知して、もし魔物だったら厄介なのでと、何度も迂回をくり返す。

 そして、急に開けた場所にたどり着き、無数の天幕が立つ集落を遠くに見つけた。


「あそこが件の村ですね……」

「ああ、そうらしい。ところで、この人数でノコノコ行くのは無謀じゃないか? まずはアタシが一人で偵察してくる」

「大丈夫か、ビアンカ?」

「任せろよ、リーダー。狩人なんだ、気配を消すのはお手の物だぜ?」


 ビアンカが自信たっぷりに請け負い、クリスレイアはわずかに逡巡した後、ならばと頼んだ。


 姿勢を低くしたビアンカが、足音も立てずに村の方へと向かう。

 レンたちは葦の壁の中に隠れ、彼女の帰りを待つ。

 クリスレイアとマーサが、声を潜めて話し合う。


「ビアンカの奴、いつもよりも張り切っているな」

「前回、あの子だけついてこなかったからねえ。信用を取り戻そうと、躍起になっているのかもねえ」

「妖魔と聞いて、腰が引けるのは仕方がない。誰もビアンカを責めてはいないのに……」

「ああ、それもわからないほど、気持ちが追い詰められてるのかねえ……」


 クリスレイアが腕組みし、マーサ、タナと一緒になって唸った。

 まさにその時だ。


「ぎゃああああああああああああああああああああっ」


 苦悶の絶叫が村の方から聞こえた。

 聞き間違えようがない。ビアンカのものだった。


「ビアンカさん!」


 いったい何があったのか?

 居ても立ってもいられず、レンは跳び出す。


「待て、レン君!」

「ごめんなさい、クリスレイアさんっ。僕、やっぱり窮地の人を放っておけない性分みたいです!」


 振り返らず、スピードを落とさず、レンは後ろに向かって叫ぶ。


「勘違いしないでくれたまえ!」


 クリスレイアが叫び返した。


「どうやら私も同じ性分のようだ」


 マーサの護衛はタナに任せ、彼女もまたレンに追随してきた。

 レンは足を止めずも思わず振り返り、クリスレイアと目が合うと、互いに苦笑を交わす。


 そして二人で、全速力で村へと突入した。

 そして二人で、恐ろしいものを目の当たりにした。


 奥の方へと行ったのか? ビアンカの姿はにわかに見当たらない。

 代わりに、やはり悲鳴を聞きつけたのか、そこら中の天幕から村人が顔を出していた。

 その村人たちの姿を見て、レンとクリスレイアは愕然とさせられたのである。


 幼い少女の体の首から上が、中年男のそれになっている者。

 青年の両腕が、しわくちゃの老婆のそれになっている者。

 頭は老人、胴体はふくよかな女性、右腕が筋肉隆々の男性のもので、左腕は幼児のそれ、両脚は左右別人のもので長さが違う――そんなメチャクチャな肉体を持つ者さえいた。


 あまりのグロテスクさに、レンは吐き気をもよおす。

 だが嘔吐物が口を衝く前に、収まった。

 村人たちがこちらに気づくと、口々に言ったのだ。


「あんたら、旅人か?」

「悪いことは言わん、早くお逃げなせえ」

「ここは地獄じゃ。悪夢の世界じゃ」

「わたしたちのようにひどい目に遭う前に!」


 と――

 レンたちの身を案じ、懸命に忠告してくれたのだ。


「あいつに見つかる前に早く逃げて、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 首から下が犬になっている憐れな少女までが、涙ながらに訴えてくれたのだ。


 レンは素早く、クリスレイアと目配せを交わす。

 この村の異様さはよくわかった。

 しかし、ビアンカはどうする?


 逡巡はわずかのものだった。

 しかし、そのわずかが全てを決した。


「逃げるつもりならば、いささか遅きに失したな。これだけの騒ぎだ、私が気づかぬとでも思ったか?」


 村の奥から、何者かが傲然と現れる。

 その台詞から、少女が訴えた「あいつ」だというのは、理解に難くない。


 レンはクリスレイアとともに、その者をにらみつけた。

 そいつはなんと――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
★こちらが作品ページのリンクです★

ぜひ1話でもご覧になってみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ