表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫のバーサーカー ~いずれ英雄譚と呼ばれることになる物語~  作者: 福山松江


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/38

第二十三話  妖魔との戦い

「あれみたいですね……」


 レンは小声で仲間たちを振り返る。

 クリスレイア、タナ、マーサ、オグライの四人が、無言の首肯で応答する。


〈常夜の国〉の、重苦しい闇に覆われた森の奥深く。

 ニーナの住む村のさらに「西」。

 地面に、斜めに穿たれた大穴があった。

 ニーナの母親に聞いた話では、そこに件の妖魔が起居しているという。


「皆、こいつを差しときな」


 マーサが小声で、小瓶を渡してくる。

〈暗視の目薬〉だ。

 高価なマジックアイテムだが、月明かりすら届かない穴の中へ、なんの準備もなしに入るわけにも、目立つ松明を持って乗り込むわけにもいかない。

 皆で回して使う。

 レンもありがたく使わせてもらうと、眼球にジンと沁みた。

 効果はすぐに表れ、〈常夜の国〉の森の中が、まるで〈常昼の国〉になってしまったかのように視界が明るくなった。


「では、突入するぞ」


 パーティーの中でも図抜けた実力者であるオグライが、率先して穴へ入っていく。


 中は広かった。

 だが、奥行きはほとんどなかった。

 だから、すぐに、件の妖魔の姿が見つかった。

 頭は大猿、胴は獅子、手足が虎で、尻尾の代わりに二本の蛇が生えている――何度見てもゾッとするような、怪異なシルエット。

 穴の一番奥で、体を丸めるように眠っている。

 いや、眠っていたと思ったのだが、


「なんの用だ、人間どもよ……」


 妖魔はうずくまって目を閉じたまま、そう問いかけてきた。


「さまよい込んだか? 供物を捧げに来たか? まさか――ワシを討ちに来たなどと、たわけたことを申すまいな?」

「そのまさかだよ、バケモノ!」

「たわけの方か。イカレか」


 啖呵を切ったクリスレイアを、妖魔は傲慢な口調で嘲った。


「ワシは無益な殺生を好まん……が、そこまでほざくなら喰ろうてやろうぞ」


 妖魔は刮目すると、ゆらりと起き上がる。

 間近で見ると、やはり大きかった。

 その胴体は見た目こそ獅子に酷似しているが、サイズは雄牛よりも何回りか大きい。


「後悔してももう遅いぞ!」


 その巨躯で、地面を駆けて突進してきた。

 思わず腰が引けそうになるほどの、凄まじい迫力と重圧感。

 何より、そのサイズからは到底信じられないほどに速い。

 レンたちは急いで散開し、妖魔の体当たりを回避した。


「威勢はよかったが、逃げるしか能がなしか、人間ども?」


 妖魔が不気味な笑い声を上げながら、弧を描いて方向転換する。

 遠心力を無視するように、まるで突進速度が落ちない。

 どころか、その巨躯がだんだんと浮いていく。

 地面を蹴っていた四肢が、代わりに宙を蹴って走る。

 そう、この妖魔は翼もないのに空を翔けるのだ!


 空中から突撃をしかけてくる怪物に対処するため、マーサが呪文を唱えた。


【紅蓮の饗宴! 万華(ばんか)の烈火!】

【笑止!】


 マーサが巻き起こした渦巻く猛火を、しかし妖魔は喝破するだけで消し飛ばしてしまう。

 悪魔や妖魔は生まれつき持っている魔力がケタ違いで、人が使う初級~中級の魔術など、微塵も効かないという噂はレンも耳にしていたが、こういうことかと理解させられる。


「ゲヴァラヴァラヴァラ!」


 薄気味悪い笑い声で、けたたましく哄笑しながら、妖魔が宙を翔けて迫る。

 高速でクリスレイアに突撃する。


「〈フォートレス〉!」


 力を重視する南派(なんぱ)の剣士は、盾による防御技も得意としている。

 クリスレイアは妖魔の体当たりを、丸盾で防いで凌ごうとした。

 だが、体当たりの衝撃力は凄まじく、クリスレイアは踏ん張ることもできずに吹き飛ばされ、洞穴の壁に叩きつけられる。


「クリスレイアさん!」

「私に構うな、レン君!」


 痛みに耐えながら叫んだクリスレイアに、レンは発破をかけられる。


「〈ファストブレード〉!」


 身上のスピードを活かして妖魔に肉薄し、横合いから斬りつける。


 血飛沫が派手に舞った。

 しかし、妖魔の体躯はあまりに大きく、相対的にレンの刻みつけた傷は小さい。


「ゲヴァラヴァラヴァラ! 非力な人間よ、その程度のものか!」


 妖魔も平然どころか、笑い飛ばす余裕がある。

 あまつさえその傷も、妖魔が【忌々しき傷よ その場より退け】と呪文を唱えるや、たちまちのうちに癒えてしまう。


「くっ……」


 無論、レンとて一撃決着などと夢見ていなかったが、突きつけられた現実の重さに、鈍りを呑んだような気分にさせられる。


(でも……負けるもんか……!)


 レンは己を鼓舞し、果敢に、勇敢に斬りかかる。

 そのたびに、妖魔に治癒魔術でダメージを無効化されても、めげない。


「〈ファストブレード〉!」


 皆で勝って、生きてこの場から帰るため。

 何よりニーナを救うため。

 少年は飽くなき闘志を燃やし続ける……!



()()……」



 そんなレンのひたむきな姿が、オグライの目に留まっていた。

 熟練ライナーであるクリスレイヤやタナではなく、駆け出しの少年の姿が、北派の師範代の「目」に、だ。

 北派の門弟たちを、優れた剣士たちを、何百人と見て、育ててきたオグライをして、感嘆の吐息を漏らさせる――それほどのものがレンの勇姿には秘められていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。
『辺境領主の「追放村」超開拓 ~村人は王都を追放された危険人物ばかりですが、みんなの力をまとめたら一国を凌駕する発展をしてしまいました~』
★こちらが作品ページのリンクです★

ぜひ1話でもご覧になってみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ