早乙女さんの巻
「あー、えーと、お世話係とは一体何をすればよろしいのでしょうか、早乙女さん」
「え?なんでボクの名前知ってるの?」
「いや、だって書いてあるし…」
早乙女さんは…
なぜか学校の体育着を着ている。
おそらく高校の体育着だろう。
左胸に『3年C組 早乙女 春』と書かれている。
恥ずかしくは無いのだろうか…
だが、体育着を着ていてもやはり美少女だ。むしろ、少し大きめの体育着がなんだか可愛さを強調している気さえする。
「えっとー、じゃあまずはボクの隣で授業受けて」
「ああ、お安い御用だよ」
「あ、もちろん1番前でね」
「え?」
「ボク目が悪くて…。あと一番前の席じゃないと寝ちゃうの」
「なんと…それは……し、仕方ないね…」
「これから移動教室は毎回一緒に一番前の席で受けようね」
「な?!毎回ですか?」
「うん、一人で座るの寂しいし、君はボクのお世話係なんだから」
一番前に座るということ、それ即ち地獄だ。
授業中先生に指名される確率がめちゃくちゃ高く名前と顔を覚えられてしまえばもう指名率は100%と言っても過言ではないだろう。
そして質問に答えられなかったときの羞恥心を何度も味わうことになる。
ましてや医学部志望の人間が集まる授業だ。求められるレベルも高くなる。
いつ来るかわからない質問に常にビクビクしなくてはならない。
それが分かっているのか?!早乙女さん!
「あのー、早乙女さん?毎回というのはちょっときついと言いますか、その、勘弁して貰えませんか…」
「通報、しちゃうよ?」
「よし、毎回座ろう」
くそーーー!完全に弱みを握られてしまった。
それを言われたらもう何も断れないじゃないか!
結局俺たちはその日、一番前の席で授業を受けた。
…しかも遅刻して。早乙女さんの容姿のことも相まってめちゃめちゃ目立ってしまった。
何やら一部の男子から冷たい視線を感じた。
早乙女さんのファンかなにかだろうか…。
授業が終わっても俺はまだ解放されていなかった。
「うーんと、じゃあ次はー、トイレに付き合って」
「はい?」
「一人じゃ行けない」
「うそつけ」
「通報…」
「わかった、わかったよ。トイレの外までついて行くだけだろ。」
「何言ってるの?中までだよ?」
「へ?いやいやいや、ダメでしょ!ほんとに捕まっちゃうから!」
「なんで?」
「なんでって…」
「とにかく行こ?」
早乙女さんに手を引かれて俺は半ば無理やり連れていかれた。
どうする、どうする俺?逆らっても通報され、女子トイレに入っても通報され、これ、俺もう詰んでるんじゃないか?詰んだか?人生詰んだか?ここで終わりなのか?何か、この場を回避する方法はないのか?!
などと考えているうちにトイレの前まで来てしまった。早乙女さんに足を止める素振りは無い。
「嫌だ嫌だまだ人生終わりたくないーーー!!」
「何言ってるの?ほら入るよ」
ガチャ
早乙女さんが開けたのは…男子トイレだった…。
「へ?ちょ、何してんの早乙女さん!こっち男子トイレだよ?!」
「それがどうかした?」
その時俺の頭の中でこの状況を説明する二つの考えが浮かんだ。
一つは早乙女さんが非常識人で頭のネジが吹き飛んでいるという可能性。
そしてもう一つは…いや、これはありえない。
早乙女さんはどこからどう見ても美少女だ。
「いやー連れションしてみたかったんだよねー」
早乙女さんは俺の手を取ったまま便器へ向かう。
そして、便器の前に立ち、
「ほら、君も出して?」
「はい…」
俺はもう何が何だか分からなくなって、ただ言いなりになることしか出来なかった。
俺は今、美少女の隣で、一緒に便所している。
どんなプレイだよ…これ…。
しかし、ちょっと待てよ?早乙女さんはどうやって立ったまま便所してるんだ?女って立ったまま便所出来るのか?童貞だから分からん…。
いや、問題はそこじゃないのだが…確かめたい!
このおかしな状況により俺の思考能力は低下していた。俺は確かめたいという感情に飲まれてチラッと隣を見てしまった。
そして……ドングリを見つけた……
俺は隣を見たまま、固まった。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいよ…」
早乙女春が顔を赤らめてモジモジしながら言った。
言葉が…出なかった…。
こんな生物が存在していることが信じられない。
早乙女春はどう見ても美少女だ。
けど付いてる。あれが付いてる。小さいけど付いてる。ち○ちんが付いてる。
俺は見てしまったのだ…。
世の中の不条理を…見てしまったのだ…。
「えへへ、ボク連れション初めてしたよ。今までは一緒にトイレ行こうって誘っても断られちゃってたから」
そりゃそうでしょうよ…。
キーンコーンカーンコーン
「あ、ボクもう帰らなきゃ。明日からもよろしくね。優くんっ。」
天使の笑みでそう言って、早乙女春は去っていった。