セクハラ?の巻
俺は一人予備校の屋上で昼飯を食べていた。屋上と言っても柵などは無く、立ち入りは禁止されている。
が、外階段を使えば難なく屋上に行けてしまうのだ。これに気づいている生徒は俺くらいだろう。
ぼっちで居場所がなかったが故に見つけることが出来た。
今度雪野さんに教えてあげようかな…いや、しかしエリが怒るしな…
まぁ、それくらい大丈夫か。エリには黙っておこう。
それより昨夜のことだ。今朝のエリは何事も無かったかのようにいつも通りの妹に戻っていたが、俺の脳裏にはあの光景がしっかりと焼き付いていた。
ああ、これからどうやってエリと接すれば良いのか…
しかし、どうしてあんなにエリは怒っていたんだろう。浪人生という立場にありながら女子と交流することに反感を覚えたのだろうか…
まぁ、それも俺のことを心配してくれてのことだろう。
「キーンコーンカーンコーン」
「やべっ!」
昼休み終了のベルが鳴っているのが微かに聞こえた。
次の授業は確か物理だから、クソっ移動教室か。
俺は急いでホームクラスに自分の荷物を取りに向かった。
廊下にはもう人影はほとんどなかった。
移動教室の場合、席は決まっていないため早い者勝ちだ。遅くなると一番前の席だったり黒板の見えずらい席しか空いてない。
隣に座らせてもらうという選択肢は却下だ。
そんなコミュ力はない。
それ故のぼっちだ。
今は雪野さんという唯一の友達がいるが、雪野さんは文系の授業に行っている。
何としても席を確保せねば!せめて一番前だけは避けたい!
俺は走った。
ホームルームにたどり着き自分の荷物を乱暴にまとめて教室から飛び出した瞬間
ドンッ!
「うわっ!」
「きゃ」
「危ない!」
あ、これはいかん…
女子生徒と衝突してしまった。
倒れかけた彼女を咄嗟に支えようとした所、なんだか劇とかで見る「王子様が倒れかけたお姫様の背中に手を回して顔面急接近させて支えるのポーズ」みたいになってしまった。
彼女の顔が目の前にある。とても綺麗というか、可愛い。エリよりも短いショートカットに少し幼さのある顔付き、ベクトルは違うがエリに匹敵するレベルの美少女だ。俺はダメだと分かっていても目を奪われてしまった。
「ハッ!す、すみません!!すみません!!大丈夫でしたか?怪我とかしてませんか?あの、ほんとにこれ、わざととかじゃなくて、無意識で…」
彼女は顔を真っ赤にしていて何も言わずに俯いている。
やばい、セクハラで訴えられるかもしれん。
その時、俺の脳裏に
『氷室 優 二十歳 予備校生 セクハラの容疑で逮捕』
という新聞記事が浮かんだ。
アッカーーーーン!!!!どうしようどうしよう人生終わる終わっちゃうよほんとに今でさえ崖っぷちなのに崖の上のニロウなのにやばいよやばいよイヤーーーーーーー!!!!
「だい…じょうぶ…です…」
俺が頭を抱えて悶絶しているとその美少女は小さな声で言った。未だにその顔は赤い。
「あの、その、ほんとにすみませんでした!悪気は無かったんです!だから、通報するのだけは…」
「つう…ほう?」
「クスっ、しないよ、通報なんて。」
目の前の小柄な美少女は優しく微笑んだ。
その笑顔はまるで天使の笑みだった。エリの女神スマイルに匹敵する天使スマイルだ。
「そ、そっか。アハハ、よかったよかった。ほんとにごめんね。」
緊張が一気に解けた。俺は救われた。ぶつかったのがこの子じゃなかったらやばかったかもしれない。
「その代わりに、ボクのお願いひとつ聞いてもらってもいい?」
「ああ、なんでも聞くよ。」
ボクっ娘か〜ますます可愛いな。
「これからキミは、ボクのお世話係ね」
「…え?」