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なりたくない女  作者: 山口 結衣
6/8

6.age.22 新卒で対面した偉そうではない独身お局様

「この部署には山口さんと歳の近い女の先輩も多いから、彼女たちから色々学ぶといいよ」


 直属の上司となる、配属先の営業課の課長が言う。社会人一年目の私は、期待と緊張で内心おどおどしながら、その言葉を聞いた。


 将来の夢は「考え中」だった私は、そのまま大学へ進学し一般企業の総合職として就職した。考えを固めなくても、周りの流れはいつのまにか私を運んでいった。高偏差値で歴史のある大学を目指して受験勉強をし、大学三年後半になったら就職活動を始め、自己分析やら自己PRを練った上で、そこそこ大手の企業の総合職として内定を得て、無事入社を果たした。

 

 この営業課、男は二十代から五十代まで満遍なくいる一方、女はほとんど二十代だった。女社員の総数も一割程度の上、全員が未婚だった。


「あ、あの。この会社は出産しても活躍している女性が多いって説明会とかでは聞いてたんですけど、女性はこれだけなんですか?」


 私の入社した年、総合職の採用数は男女ほぼ同数だった。そしてそれは、何も今年からそうなったわけではない。十年以上前から、新卒採用における男女比率はほぼ同じということを謳っていたはずだった。

 まだ新入社員で、私の拙い敬語もどきを気にも留めず、課長はなんてことのないことのように答えた。


「あぁ、結婚した人はね、総務とかサポート系の部署に多いよ。女の人は子育てのことを考えると、お客様の都合に合わせる営業は厳しいからね。大体、みんな自分から異動希望出してるかな。今は男女平等の世の中だしね。子育てと仕事の両立が図りやすくて、うちの会社は恵まれてると思うよ」


 この時の感情も、一体どう表せばいいのか。

 言葉を失うとはこういうことか、と強烈に感じた瞬間だった。


(え? 男女、平等……? これが?)


 大学という場は、本当の意味で男女平等だったのだと知る。

 ジェンダー論の講義で近代の女性差別の歴史や社会における役割だとかそんなものを習っても、その時はいまいち実感はわかなかった。男女で義務や権利が分かれていたのは過去のことなのだと、歴史の授業のような気持ちを抱いていた自分を思い出した。


 こんなに当たり前に、しかも、むしろよっぽど進んでいるのだというふうに、男と女が扱われているなんて。

 そしてこの時抱いた違和感は、会社という場に馴染んでいくにつれてより色濃く、拭いきれない染みとなって、私の中にへばりついていった。


 それから私は、できる限り女性社員の人脈を増やすことを意識して過ごした。



「斎藤さんって、いつも素敵ですよね。休みの日は何をしているんですか?」


 これも若手社員故の、無邪気な質問だったと思う。


 部署唯一の四十代独身女性である彼女は、千円以上するランチになんの躊躇いもなくデザートとコーヒーをつけた。皴のない高級そうな服に、きちんと手入れされた髪や爪は、自立した大人の女性を感じさせた。一方私は、始めたばかりの一人暮らしがとても大変で、休みの日は家事と買出しと睡眠で終わる自分を情けなく思っていた。


「え、休日? アイドルのおっかけ。地方まで飛び回ってるよ~」

「えぇ、意外です!」

「そおー? だってさ、お金も時間も余って退屈なんだもん。息子の成長を見守るようなつもりでやってるよー。友達はリアルな子育てに忙しいしね。あ、引いた? 引いたよね、ごめんね。結衣ちゃんはこんな大人になっちゃダメだよ。楽しいけど」


 仕事中はクールな彼女が、途端に饒舌になった瞬間を見た。自虐を交えながらも「楽しい」という主張は忘れない。とっつきにくいと思っていた先輩が、一気に好きになった。


 だが、仕事場での周囲からの彼女の扱いは、私の目から見ても腑に落ちないものだった。ずば抜けた売上を持つわけではない、そう、およそ部署の平均くらいの成績に位置する彼女は、何故かお荷物扱いだった。ごく普通に仕事して、ごく普通の成績でいるだけなのに、周囲の男性社員は一線引いた振る舞いをする。いつまでここにいるんだ、とでも言いたげな態度を見せる。これが断トツでトップの売上を持っているなら「独身でも仕方ない」「彼女は特別だから」などと言うのだろうな、となんとなく感じた。


 斎藤さんのことは尊敬していたし好きだったが、周りからの扱われ方を見て、彼女のようにはなりたくないと思った。


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