その5 おねしょやっちゃった
「ぼうや、ぼうや……」
やさしい声が遠くから耳に入ったとたん、水助は思わず目を開きました。真夜中の便所にいたはずなのに、水助はおふとんの中でねていることに気づきました。
自分の周りを見回すと、そこにはおじいちゃんとおばあちゃんがいます。これを見た水助は、すぐに飛び起きて2人のそばへやってきました。
「じいちゃん、ばあちゃん……。三つ目入道につかまって本当にこわかったよ……」
水助は、おじいちゃんにしがみつきながらなき続けています。それは、おそろしいお化けのことを話したがっている水助の気持ちがそのまま表れています。
その様子に、おじいちゃんは水助にやさしく声をかけました。
「ぼうや、もうお化けはいないからなかなくてもだいじょうぶだよ」
「もういないの?」
「朝になったから、ここにお化けはいないよ」
おじいちゃんの言葉に、なきやんだ水助はホッと一息をつきました。そのとき、おじいちゃんは水助のはらがけをじっと見ています。
「もしかして、おねしょをやっちゃったのかな?」
「う、うん……」
水助は、おねしょをしちゃったことに思わず顔を赤らめています。おばあちゃんがふとんを見ると、そこには水助が見事にやってしまった大きなおねしょがえがかれています。
「ふふふ、お化けがこわくて便所へ行けなかった男の子らしいおねしょをしちゃったね」
「だって、夜中の便所は本当にこわいんだもん……」
自分が大失敗したところを見られて、水助はうつむいたままで腹掛けを手でかくすしぐさを見せています。
「わっ! こっちを見ないで! 見ないで!」
水助は、お庭の物ほしにほされたおねしょぶとんを必死にかくそうとします。しかし、どんなことをしても水助がおねしょをしちゃったということに変わりありません。
「おねしょを見られたって、わしらは全然気にしていないぞ」
「本当に気にしてないの?」
「気にしていないさ。おねしょぐらい、大人になったら治るものだし」
おじいちゃんは、水助にやさしい声ではげましました。その言葉に、水助はいつも通りの笑顔で前を向きました。
そのとき、水助のお母さんがむかえにやってきました。お母さんがきたとたん、水助は思わず照れ笑いを見せています。
「母ちゃん、今日もおねしょやっちゃった。えへへ……」
「ふふふ、お化けがこわくて便所へ行けずにふとんの中にもどったのかな?」
「う、うん……。母ちゃん、ごめんなさい……」
水助は、お母さんにおねしょぶとんを見られて顔が赤くなりました。お母さんはそんな水助の両手をにぎりながら、やさしい笑顔を見せています。
お母さんは、水助に着がえるためのはらがけを手わたしました。水助は新しいはらがけをつけると、右手でおねしょでぬれたはらがけを持っています。
「はっはっは! おねしょすることぐらいで気にしなくてもだいじょうぶじゃ。ぼうやだって、大きくなったらおねしょは自然となおるものだぞ」
水助はおじいちゃんからはげまされると、お母さんといっしょに山道を通って帰って行きました。
小さな家の庭にはだれもいなくなりましたが、物ほしからは不気味なお化けの声が聞こえてきました。
「フヒヒヒヒ……。さっき帰った男の子があれだけ大声でこわがるとは」
「おかげで、男の子がねていたおふとんにはこんなに大きなおねしょをやってしまったようだな」
すがたの見えない声の主は、水助が大失敗しちゃったおふとんを見ながら笑い声を上げています。お化けにとって、これだけのおねしょをした水助のはずかしそうな様子を見るのがうれしくてたまりません。
「10才になっても、相変わらずおふとんへの大失敗をするとはなあ、フヒヒヒヒ……」
「今度くる男の子も、わしらの手でこわがらせておねしょをさせるのが楽しみだなあ」
水助のおねしょぶとんのそばで、お化けたちは真夜中に便所へやってくる男の子をこわがらせようと不気味な笑い声をひびかせています。