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その2 便所がこわい水助くん

 水助は小さい家から出てくると、かけ足で近くの大きな池へ向かっています。夏の暑い時期ということもあって、水の中へ入って泳ぐのを楽しみにしています。


 大きな池には、カエルがハスの葉っぱのところにたくさん集まっています。水助は、カエルを見るのが大好きです。


「よ~し! ここから飛びこんで泳いでいくぞ!」


 セミの声が聞こえる中、水助は岩場から池の中へ思い切り飛びこんでいきました。大きな水しぶきを上げると、水助はカエルのように手足を動かしながら泳いでいます。


 カエルも水助の後を追うように、次々と池の中へ入っていきます。すっかりカエルになりきった水助は、早くも池の中の人気者になりました。


 そこへ、おじいちゃんとおばあちゃんが池で泳いでいる水助の様子を見ようとやってきました。水中で元気なすがたを見せる水助に、おじいちゃんたちは声をかけました。


「ぼうや、泳ぐのが本当に大好きなんだね」

「うん! いつも川や池に行って泳ぐのが大好きだもん! それに、水の中にはお魚やカエルとかがいてとっても楽しいよ!」


 水助にとって、まわりに広がる大自然はかっこうの遊び場です。この後も、岩場へ上がっては何度も池へ飛び込むのを楽しんでいます。


 そのとき、水助は岩場から上がると小さい家のほうへ急ぎ足で走り出しました。向かった先は、小さい家の外にある便所です。


「お、おしっこがもれる……」


 水助が便所の戸を開けると、そこには板ばりのゆかにあなが開いています。すぐに便所の中へ入ると、水助はすぐにしゃがんでおしっこをしています。


「よかった……。おしっこがいっぱい出てすっきりしたぞ」


 便所から出た水助の前には、おじいちゃんとおばあちゃんのすがたがありました。これを見て、水助はちょっと照れています。


「ぼうやは、便所へ入るときは戸を開けたままなのかな?」

「だって、戸をしめたら暗くてこわいんだもん……」


 水助がこわがりであることに、おじいちゃんはうなずきながら聞いていました。そして、おじいちゃんはすぐに口を開きました。


「それじゃあ、ぼうやは夜中に便所へ行ったことがあるかな?」


 おじいちゃんの言葉に、水助は急に口ごもりました。水助にとって、真夜中の便所のことは言いたくないからです。


 すると、おじいちゃんは水助が言いたくない理由をやさしい語り口で言い始めました。


「もしかして、ぼうやは夜中に便所に行くのがこわいの?」

「う、うん……」

 水助はおじいちゃんの語り口にうなずくと、ようやく自分の言葉ですべて言うことにしました。


「お、お化けがうじゃうじゃ出てくるのがこわくて……」

「それでどうしたの?」

「便所に行くことができなくて……。いつも朝起きたときに、おふとんへのおねしょをやってしまうの……」


 水助がはずかしながら下を向いていると、おじいちゃんは大きな笑い声ではげまそうとします。


「はっはっは! そんなことぐらいで気にしていたら男の子らしくないぞ。男の子だったら、おねしょをしても自まんするぐらいの度量がないといけないぞ」


 おじいちゃんが言うように、水助もおねしょぐらいで気にしたくないはずです。でも、10才になってもおねしょが治らないことに、水助はどうしても気になってしようがありません。


 そのころ、おばあちゃんは物ほしのほうへ行きました。そこにほしているおふとんがかわいていることをたしかめると、すぐに家の中へ入れることにしました。そのおふとんは、水助が今夜ねるために使うものです。


 家の中へみんなが入って引戸をしめると、庭のほうでふたたび不気味な声が聞こえてきました。


「今日やってきた男の子が、あのおふとんでねるようだな」

「ここにやってくる子供がおとまりをするときには、必ずあのおふとんにおねしょをするからなあ」


 すがたを見せることのない声の主たちは、あやしげな声でさらに言葉を続けます。


「昼間は全くすがたを見せないわしらだが、夜中に本当のすがたを見たらすぐにげ出すのはまちがいないだろうし」

「おしっこがしたくてたまらない男の子をこわがらせて、おねしょのおふとんが物ほしにほされるのが楽しみだぜ、フヒヒヒヒヒ……」


 不気味なその声の正体は、真夜中に起きる子供たちにしか見えません。しかし、その正体は男の子たちが便所からあわててにげ出すほどのおそろしさです。

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