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異世界戦国記  作者: 鈴木颯手
第四章・三河、伊勢、美濃。尾張への三国干渉
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第六十五話・斎藤家との和睦

 信秀が伊勢連合軍を追い払った事は直ぐに織田家中に広まった。三方向から数倍の敵に侵攻を受けた尾張の民はその吉報に喜び信秀の名を連呼した。

 そして、その情報は斎藤利政率いる三千の兵とにらみ合っている織田信康の下にも伝えられた。

 対陣して数日、両軍は多少の小競り合いを行ったが信康は武力を、利政は知力を駆使して互角に戦い決着がついていなかった。


「兄上が勝ったぞ! これで残るはここ(斎藤利政)のみだ!」


 数日前にもたらされた松平家を討ち払ったという報に続く吉報であり信康軍の士気は天井知らずに上がっていた。それを察してか斎藤利政軍は守勢に回っており幾度となく仕掛けていく信康を返り討ちにしていた。それでも士気が下がる事は無く日に日に劣勢となっていた。


「そして間もなく援軍も到着する! これで利政より兵数が上回るぞ! 勝利は目前である!」

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」


 信康の言葉に雄たけびを上げる織田家の兵たち。現在、戦える者を集めて柴田権六や山口教継が率いる五百の兵が北上している。勝幡城には前田利昌や秀敏や敏宗などの信秀の叔父たちが守っている。五百の兵はこの戦いを終わらせるべく激戦を潜り抜けたばかりだというのに戦意は高かった。


「さて、どうしたものか……」


 信康は兵への激励を終えると本陣で考え込む。斎藤利政の強さ、厄介さは実際に戦った事で嫌というほど分かっていた。それだけに五百の援軍が来るくらいで勝てるのか分からなかった。例え勝てたとしてもこちらの損害も多く出るだろう。そうなれば三国からの攻撃を退けたとはいえ兵を失い過ぎて反撃どころか次の戦も乗り切る事は出来ないだろう。


「ここは敵の動きを見るべきでしょうな」

「道安……」


 ここまで共に戦ってきた林通安の言葉に信康もそれしかないかと考える。敵である斎藤利政は己の知力を使い商人から土岐家を脅かす勢力にまでのし上がって来た。最近では”蝮”の異名を持つ厄介な相手であり同数の兵の現在で互角に戦えているだけ奇跡と言ってよかった。


「五百の差は大きいです。それに敵とて東西の攻撃を退けた事は知っているでしょう。もしかしたら兵を引き上げるかもしれません」

「そうだと良いがな」

「可能性は高いですよ。何しろ今の状態では斎藤利政が得られる物などたかが知れていますから」


 伊勢連合軍や松平家がいるのなら奥深くまで侵攻しても問題はなかっただろう。しかし、その両者が倒れた今その様な事をすれば孤立する事は必然であり国境付近を併合したとしてもこの辺はあまり活気がなく村の数も少ない。利益を得られるようになるにはまだまだかかるだろう。


「私が斎藤利政なら互いにこれ以上の戦をしないことを条件とした和睦をします。陣を解き、同時にこの場を離れる事を条件にですが」

「お互い小競り合いしかしていない今ならそれも可能だな」


 信康は道安の言葉に納得する。利政は織田家との全面戦争を避ける事が出来、織田家は戦を終わらせて他の事に目を向けたり動員の解除が出来る。互いの利益は無いが損もない。信康はいっそこちらから提案してみるかと思いその準備をしていた時だった。

 相手側からの和睦の申し込みが入った。


「我がお館様は織田家とこれ以上の戦をする気はありません。今なら互いに傷は浅く遺恨も残らないでしょう」


 斎藤家の使者の言葉に道安の言葉が当たったな、と信康は心の中で思ったがそれを口には出さなかった。


「だが仕掛けてきたのはそちらからだ。なのにそちらの言い分を信じて和睦するのは道理が合わんぞ」

「勿論おっしゃる通りです。ですのでいくつかの品をお持ちしました」


 使者はそう言ってたくさんの品を持ってくる。陶磁器から絵巻、金銀で彩られた細工物など……。利政がこれまでの承認生活で仕入れた一品物の品々であった。

 これを売れば今回の損害を補填できるし褒章変わりに家臣に配る事も出来る。持っているだけでも箔がつくだろう。信康はちらりと道安を伺う。反応する事は無かったが信康に受け入れるべきだと目で返答していた。


「……分かった。受け入れよう。ただし、陣を退くのはそちらからだ。織田家はそれを確認したのち陣を解く」

「それで十分でございます」


 利政の使者はそう言うと自身の陣に戻っていった。すると陣が解かれ始め撤退が始まった。それを見た道安は苦々しい表情で言った。


「どうやらあちらはこちらが受け入れると最初から分かっていたようですね」

「交渉の出来事は全て相手の手のひらの上か……」


 それでも全面戦争になればこちらにどれだけの損害が出たのか分からない。これで良かったのだと信康は心の中で何度も繰り返し素早く撤退を開始する斎藤軍を見送るのだった。


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