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あなたが眠りにつく前に

あなたが眠りにつく前に ~追想~

作者: 篠原司
掲載日:2017/05/05

「…………」

 あいつに呼ばれたような気がして、目が覚めた。

 ――あいつ?

 そう、あいつだ。

 俺を起こしに来るようなやつなんて、一人しかいない。

 だから、周りを見回して落胆した。

 誰もいない。

 当たり前だ。

 あいつは、死んだ。

 言っていたではないか。一万年も経ったら骨すら残らない、と。


 外へ出る。

 見下ろした世界では、相変わらず人間達がひしめいていて。

 でも。

 この中に、もうあいつはいない。

 ただそれだけのことで、それが、無性に哀しかった。

「……ほらな」

 自嘲が漏れる。

「だから言っただろ。忘れられるわけがないって」

 こんなにも鮮明に覚えている。

 怒った顔。

 怒鳴った顔。

 照れた顔。

 笑った顔。

 最後にみせた、泣き笑い。

 それだけじゃない。

 小さな仕草の、そのひとつひとつだって覚えている。

 あいつは怒ると、拳を握りしめた。

 あいつは照れると、腕を後ろに組んで俯いた。

 得意になると、腕を組んで胸をはった。

 自分語りをするときには、胸に手をあてていた。

 こんなにも鮮明に、覚えている。

 ちゃんと、覚えている。

「だから、安心しろよ。忘れたりなんか、しないから」

 あいつのいない世界で、俺はこれからも生きていく。

 顔を上げる。

 時刻は、夕暮れ。

 世界を朱に染める太陽が、ゆっくりと沈んでいく。

 そして代わりに、世界を照らすのは。

「……ああ、なんだ」

 涙が零れた。

「そんなところに、お前はいたのか」

 目の前にあったのは、黄昏に浮かぶ、きれいな真円。

 夕日を受けて、朱く染まる――


「おはよう、夕月」

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