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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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093 踏み越える夜

 翌朝、僕は非常に目覚めの悪い起き方をした。

 まず、なぜか僕はベッドの上にでんぐり返しの途中で時間が停止してしまったかのような体勢で目を覚ます。身に覚えがない。

 次に、頭が痛い。

 ガンガンガンと頭の中で警鐘が鳴り響き続けているように内側から延々叩かれているような感覚。

 最後に、気分が悪い。

 船酔いの薬を呑み忘れて嵐の航海を敢行している船酔い船員の気分。

 初めての経験だが。

 これがおそらく。

 二日酔いとかいうやつだ。

 僕は布団の中で目を覚まし、起きて間もなく、

「う~~」

 唸る。

 とにかく最悪の気分だった。

 僕はここに誓う。

 もう、アルコールなんか呑まない。こんなひどい目に遭うくらいならお酒なんか一生呑まない!

 う~。

 昨晩は調子に乗って、アルコールを呑み過ぎた。気持ちが悪い。

 ゆっくりと上半身を起こしても頭が痛いし、気分が悪い。けど、だからといって寝たままでいるのも頭が痛いし、気分が悪い。もうどう転んでも頭が痛いし、気分が悪くなりそうだった。

 だったらもういいや。

 と、頭が痛いのも気分が悪いのも我慢して起きることにした。寝てても辛いなら起きていた方がマシ。

「おっとっと」

 ベッドから這い出て起き上がると、足元がふらついてしまう。

「ふう」

 なんとかバランスを取り戻して、小さく吐息を漏らした。少し酒臭い。

「くか~」

 ちらりと隣を見やると、

「!」

 思わず目を背けてしまいそうになるぐらいクドがすごく豪快に寝乱れていた。具体的に言うと手は大の字になっていて、足がすごく開いていた。銀色の髪が放射状にベッドの上に広がっていて、無防備極まりない寝顔をしていた。

「むにゃむにゃ」

 幸せそうな顔で眠っているクドを起こさないようにそっと足を閉じさせ、その上から布団をかけた。そして、その髪を撫でる。

 髪を撫でるとクドがころんと転がった。

 まるで仔犬のようにすり寄ってくる。

「…………」

 僕は今、どんな顔をしているのだろうか。鏡、見ようか。

 いや……やめておこう。

 見てしまってはこの顔を認めてしまうことになる。

 それは。

 ……うん。それは、よくない。

 分かっているんだ。僕が今、一体どんな顔をしてこの子を撫でているのかを。

 少し暗く、そして悲しく笑っている。

 こんな顔、誰にも見せることは出来ない。

「……う~ん」

 クドの声にハッとなって、僕はふっと体の力を抜く。

 微笑んでクドの頭を撫でた後、周囲を軽く見まわしてみた。学生の部屋とは思えないほど酒盛りをした痕跡が部屋には残っていた。空いたビール缶。散乱したつまみ。倒れた酒瓶。少し中身の残った酒が入ったコップ。部屋中に酒と乾きものの臭いが充満していて、少し換気をした方がいいと思った。

 部屋の窓を開ける。

 外の新鮮な風と空気で部屋の臭いが少しだけマシになった。

「ふう……ちょっとはよくなったかな?」

 外の風を浴びて二日酔いの気持ち悪さが少し薄れたような気がする。

「それにしても」

 と、僕はもう一度だけ。

 部屋の中で眠っているクドを見た。

 幸せそうな寝顔。

 そんな彼女の顔を見て。

 昨晩の先生が言っていた言葉を思い出す。


““悪疫”の発端は数百年前のとある外国の小さな村を、“悪疫”が滅ぼしたことから始まったんだ”

“滅ぼした?”

“ああ。悪病でな。それが“悪疫”の“悪疫”たる所以だ。言葉の意味、分かるよな?”


「悪病……か」

 と、僕は額に手を当てて、考え込んだ。

「じゃあ……やっぱり僕が風邪を引いてしまったのは……触れたから(ヽヽヽヽヽ)? あの……黒いクドに……」

 違う。そうじゃない。

 そもそも。

 僕の風邪は、


本当に風邪(ヽヽヽヽヽ)だったのかな(ヽヽヽヽヽヽ)?」


 と、邪推が頭を過ぎったその瞬間。

「う~ん……カナタ?」

 ようやく目を覚ましたクドが目元をぐしぐしと擦りながら起き上がってくる。そんなクドに僕は微笑み返して、

「おはよう。昨日は大変だったね~」

 そう言った。

 そう言って。

 僕は、いや。

 僕とクドの二人は。

“日常”に還る。

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