090 踏み越える夜
その後は見事な宴会タイムに突入した。部屋中に乾きものと酒の臭いで充満する。
僕はビールばっかり呑んでいたが、クドはビールよりも以前呑んだことのあるカクテルドリンクの方がお気に入りらしく、ビールは最初の一杯を呑んだだけで、二杯目からはカクテルドリンクを呑んでいた。
カクテルドリンクを片手に僕の体にしなだれかかっている。
呑みながら、カップケーキを齧る。
「ふわ~」
と、いい気持ちで終始笑顔。誰よりも楽しそうにしている。
「美味しいね~」
と、僕はそんなクドの頭をぽんぽんと撫でながらビールをまた一口。
もう今さら何か真面目ぶったことを言うのも馬鹿馬鹿しいといった感じ。なので、わっと楽しんでしまおうとか考えている。先生はそもそもの酒好きなので、相手が生徒であろうと甥であろうと関係なく、宴会そのものを楽しんでいるというような感じで、ぐいぐい酒が進んでいて、コップになみなみ注いだ大吟醸を口にしていた。
「く~」
もう何杯も呑んでいるのに、先生は酒を口に運ぶたびに喉を鳴らしていた。
イカを齧り、酒を呑む。
塩を舐め、酒を呑む。
そんなことがしばらく続くと、
「う~」
すっかりと出来上がってしまう。
頭の奥がくらくらして、視界がぼんやりとしてくる。
出来上がっているのは僕だけではなく、
「カナタ~」
と、僕の体にしなだれかかっていたクドが甘えてくるような声を出して、べったりと背中をくっつけて胸元でごろごろと転がり、まるで愛犬が媚びているみたいにして、うんと甘えてきた。
そのたびに、
「よしよし」
と、頭を撫でてやると、
「~~~」
大変喜んでくれる。
上気した顔で、顔の筋肉を綻ばせて、これ以上ないぐらい喜んでいた。その姿は愛らしい反面、どこかしどけない。
だけどそこまで動揺はしていない。
シラフならともかく。
今、ここにいるのは全員が酔っぱらいだ。
ここで何をしているのかと、冷静に考えているものは一人もいないだろう。
気が付けば、
「ぐう」
と、クドが僕の膝の上ですやすやと寝息を立てて眠っていた。
クドが酒を呑めると言っても体の小さなクドには限界があったのだ。ビール一杯とカクテルドリンクを数杯呑んだため、とっくに貯蔵限界を迎えていたのだろう。
クドはそのまま膝の上で寝込んでしまった。
「 “悪疫”もこうなると……ただの女の子だな」
と、ちびりと酒を呑んだ先生が一言。
ぴくりと眉が動いた。
「先生は……この子のこと、知ってるんですか?」
「あ?」
「今、言いましたよね。“悪疫”って」
「あー」
少しばつの悪そうな顔をする先生。
頬を掻いて、酒を喰らう。
「先生は……何者なんですか?」
「……それは、だな」
一向に応えようとしない先生に、僕は、
「わっかりました!」
がばっと立ち上がって、一階に向かってダッシュ。
先生が少しきょとんとしていたが、僕は構わず一階からコップを一つ取ってきた。
だんっとテーブルの上にコップを置く。
ふらつく体で大吟醸の酒瓶を持つと、コップの中にとくとくと透明な液体を注ぎ込む。
「くおん?」
不思議そうな顔で、先生。
僕はそんな先生の顔を見て、にっと笑う。
「僕はね。知りたいんです。全部。ぜ~んぶ、です。先生の知ってること。全部。嘘とか、建前とか。そういうんじゃない。先生の知っていること、全部を知りたいんですよ。昔からこう言いますよね」
コップの中身は表面張力が働くほどの酒の量。
「酒を酌み交わせば分かりあえる」
ずいっと先生にコップを突き出して、先生が呑んでいたコップを奪い取ってその中身を飲み干す。
「ぷはぁ」
空になったコップを突き出す。
先生がにっと笑って、酒瓶の中身を注ぐ。
「分かってんじゃねーか♪」
そして、今度は同時にコップの中身を呑み込んだ。




