089 踏み越える夜
信じられないことに。
「かんぱ~い♪」
「かんぱーい」
「かんぱい……」
先生が部屋に入って、まずしたこと。
それは。
缶ビールのプルトップを開けて、こつんとぶつけたこと。溢れ出る泡を掬い取るように口元に運んでぐびぐび呑んだ。
ぐびぐびと喉を鳴らす。
「ぷはぁ~」
先生が幸せを噛みしめるように気持ちよさそうな息を吐いた。
クドもまた、ビールを呑んだ。
「く~」
強烈な炭酸にやられそうになっていたが、吸引を続けていくうちに、その炭酸が癖になっていったのか一気に飲み干す。僕も続けて呑んだ。
ちなみに。
全員持っているのはビール。
泡麦茶。
一応、未成年として注意はした。
酒は呑んじゃダメって。
しかし、先生は一言。
「オレさ、酒の席でウーロン茶とかジュースとか飲んでるやつ見ると、ぶっ飛ばしたくなるんだよね~。歳とか関係ねーよ。酒の席に来たら呑め。呑めねーならくんな。お屠蘇ぐらい呑んだことあんだろ。それと一緒♪ そう思えば呑めるだろ♪」
と、教師にあるまじきごり押しで生徒の僕と見た目子供のクドにもビールを押し付けた。
まぁ……美味しいけど……。
今までビールなんて呑んだことがなかったから、分からなかったけど。意外と美味しい。大人が癖になるっていうのも分かる。
先生は早々にビールを飲み干して、缶をくしゃっと片手で握り潰した。
「さて~つまみつまみ。やっぱビールに合うつまみって言ったら枝豆だよな~」
そう言ってコンビニで買ってきた枝豆の塩茹での盛り合わせを広げる先生。もはや完全に酒の席である。二杯目のビール缶を開けて呑み、枝豆をむさぼる姿は完全におっさんであり、教師らしさの欠片などどこ吹く風であった。
「常識はずれというかなんというか……」
「んだよ~。いいじゃねーか。ほれ、お前も食え。うめーぞ?」
「はいはい」
その隣でクドが枝豆を頬張りながら、笑っていた。満足そうな笑顔だ。それを見て、何だかすべてがどーでもよくなった。
ぐいっとアルミ缶を傾けると、一気に中身を飲み干した。
「お、いくねぇ♪」
先生は嬉しそうに笑いながらぷしゅっと缶を開けて、二杯目を手渡してきた。それを受け取ると、またもやぐいっと傾ける。
「お~」
と、クドがぱちぱちと拍手。
口元についた泡を豪快に拭う。
「うまい」
それしか言えなかった。
教師と生徒が一緒に酒を呑んでいることとか、そのすべてがどーでもいいぐらい。
うまい。
「ほら、食え食え。呑め呑め」
先生がビールをくいっと呑み、クドもビールを喉に流し、僕もまたビールを嚥下した。
ビールで喉を潤し、合間に枝豆を齧る。
「く~~~」
これがたまらない。
「どうだ?」
と、先生が聞いてくる。
「美味しい。すごい美味しいです!」
「くはは。そーかそーか」
先生がにかっと笑った。
ここにいるみんなが破顔し、次々に酒を開け、色んなつまみを広げていく。
「でも、いいんですか? 先生。僕、一応生徒ですけど?」
先生は僕の言葉にけらけらと笑いながら、
「構わねーよ。大丈夫だって。黙ってりゃわかんねー。くははは♪」
「そーっすね~」
「おー」
どっと。
また三人で笑いあった。
「じゃ」
と、先生は三杯目のビール缶を開けると、鷹揚に構える。
「宴だ! 酒だ! 今日は呑むぞ~!」
「「おー」」
僕とクドが声を揃えると、同時に缶を掲げて、
「かんぱーい!」
三人の声が華麗に揃った。




