087 狐と神狼、相まみえる
その瞬間、クドの中で何かが爆ぜた。
どくん。
どくんと何かが脈打つ。強烈な想いが彼女の心臓を貫く。
それは激しく。
とても激しく胸を締め付けた。
痛い。
ものすごく胸が痛い。
まるでかなたが死んでしまうと思った時と同じような胸の痛み。
否。
少し違う。
同じ胸の痛みなのに、どうしてかは分からないけど。
この胸の痛みはどこか甘美な胸の痛みだった。
クドが今まで感じたことのないほど、強烈な痛みなのに。
それは痛みだけじゃない。
それは熱くて。
それは切なくて。
それは苦しくて。
なのに。
とても嬉しい。
耐え切れなくなった彼女はかなたの体をどんと前に押すと、慌てて外へと出て行った。
がちゃんと扉を閉めると扉の前で大きく深呼吸。
「はあ……はあ……」
何なんだろう……これは。
何なんだろう?
今まで味わったことのない胸の痛みの覚え。
病気?
夕実が言っていた病気という言葉を思い出す。
もしかして、風邪?
と、その時。
「クドちゃん?」
階段を登って来る影。
それは夕実だった。
たたたたっとクドは夕実に駆け寄って。
胸を手で抑えて。
少しだけ赤くなった顔を上げる。
そして。
「ユミ……」
胸の内を。
吐露。
「胸が……痛いんだ……」
そして、それを、
「よしよし」
と、言いながら夕実が相変わらずぽやぽやした様子で頭を撫でてやった。
シーン6終わります。