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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
scene.6
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086 狐と神狼、相まみえる

 翌朝、爽やかな日差しが差し込んでくる。

 僕はゆっくりと身じろぎながら、目を覚ました。

 妙に体が重かった。

「く……ど……?」

 ぼんやりと彼女の名前を呼んだ。

 体を起こす。体を起こしてみて分かったが、体が妙に重かった理由は彼女が僕のお腹の辺りに座り込んだまま頭を乗せて、小さく寝息を立てていたのだ。

 枕元に氷水の入ったコップがあったので一度それを口に含む。

 一日近く水を飲んでいなかったので、冷たい水が喉に心地よく、とても美味しかった。

 クドをよく見ると右手に濡れたタオル。左手に乾いたタオルを握っていた。それを見て、すぐに悟る。

(看病……してくれてたのか……)

 すごく嬉しかった。

 眠っている彼女の頭をそっと優しい微笑みを浮かべたまま撫でた。

「クド……」

 今度ははっきりと名前を呼んだ。

 すると、

「う、う~ん……」

 クドが顔を上げて、眠そうな半目でこちらを見た。ぱちぱちとまぶたを開け閉め。一度、きょとんとしたように見えた。これが夢なのか現実なのか、はっきりと定まらないというような感じだ。しかし、何度かまばたきを繰り返すと、やはりそれが現実であると分かり、

「カナタ!」

 がばっとクドが僕の胸に抱き着いてきた。

「おっと」

 思いのほか勢いが強く、少し体当たりをされたみたいな衝撃が来たが、何とも心地よい感触だった。力が入ってしまったのはそれだけ僕のことを心配していてくれたのだと思うと、この威力は愛情のバロメーターになっているのだ。嬉しくない訳がなかった。

「わ、わたし……カナタが……死んじゃうんじゃないかって……思って……うぅ……」

 と、自分にしがみついたまま少し泣きそうな声でそう言ったクドの頭にぽんっと手を乗せる。

「ははは」

 そして、小さく笑った。

 ぽんぽんと頭を撫でるとクドが一度顔を上げる。

 微笑みながら、

「バカだなぁ。そんなわけないだろ。ちょっと風邪を引いちゃっただけなんだから。そうそう風邪なんかで人が死ぬはずないだろ」

「でも……でも」

「うん?」

 クドが苦しそうに胸の辺りを手で押さえる。

「よく分からないんだけど……何だか……カナタが死んじゃうじゃないかって思って。すごく。すごく……怖かった。どうしてかは分からない。でも……本当にそう思ったんだ」

 僕はそんな彼女に対し、

「よしよし。大丈夫。僕は死なないよ。クドが一生懸命看病をしてくれたんだから。ありがとう。それにしてもよく人のお世話何か出来たね。偉いねぇ」

 いつもの調子でクドの頭を撫で続けた。

「~~~~~~~~~」

 クドががばっと僕の胸辺りに顔をうずめた。

「???」

 どうしたんだろうと思ったが、答えはよく分からなかった。

 クドは胸に顔を埋めたまま、

「ゆ……ユミ……が……その……おしえて……くれ……たんだ……」

「そっか。母さんが。後でちゃんとお礼しとかなきゃな」

 ぽややんとしたまま、僕は未だクドの頭を撫で続けていた。

 と、クドがもう一度顔を上げる。

 その表情はどこか寂し気なモノだった。

 クドは、そっと。囁くように、

「なあ……カナタ?」

「どうかしたの? お腹空いた?」

 ぶんぶんと首を振る。

「わたしは……その」

 やはり小さな声で、

「ここにいても……いいのかな?」

 と、言った。

 切々とした表情で。

 本当に辛そうに。

「え!? な、なんで急にそんなこと言うのさ!」

 当然、僕はその言葉にとても驚いた。

 真剣な表情でクドの顔を見やる。

「だって」

「だって?」

 クドは一度だけ唇を噛んでから、

「わたしのせいなんじゃないかって……」

「な、なにが?」

 本当に意味が分からなかった。

 何を言いたいのだろう?

「その」

 小さな声で。

 本当に聞き取るのがやっとなほど。

 小さな声で。


「カナタが……かぜ……ひいたの」


「は、はあ!?」

 思わず大きな声が出てしまった。

 僕にしがみついているクドの体がびくんと震えた。

 一度、頭を掻いてからクドの肩を掴んで言って聞かせる。

「あのねえ」

 呆れるように。

「そんなはずないだろ?」

「で、でも……」

「僕が風邪を引いたのは僕の自己管理の甘さが原因。誰のせいでもないよ。ましてや、クドのせいなんてことあるはずないだろ? それどころかクドは僕の風邪を治してくれたんだよ。それなのにどうしてキミのせいになるのさ。どうしてキミがここを出て行かなくちゃいけないのさ」

 僕は一度、クドから身を離して彼女の目線に合わせて言う。

「嫌だよ、僕は。キミがここからいなくなっては。すごく。すっごく寂しい。もし、クドがここでの生活に不満があって、もう出ていくしか方法がないって言うなら止めない。僕にそれを止める権利はないよ。でもね。もし、キミが罪悪感を感じて、ここを出ていこうとしているなら僕は止めるからね」

 少しだけ目を伏せて。

「寂しいよ。そんなことを言われたら」

 僕はきゅっとクドの体を抱きしめた。優しく頭を撫でながら、一言。

「だから。そんなこと言わないで。悲しくなるよ」

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