082 狐と神狼、相まみえる
クルースニクにはある特殊な能力がある。
一つは、凄まじい霊力を用いて光の炎を顕現すること。
そして、もう一つ。
それは。
白き動物に変化すること。
白い馬。
白い豚。
白い牛。
白い猪。
白い鳥――。
そして――、
真っ白な体毛に包まれた白い狼。
それは、気高きクルースニクの結晶。
最もクルースニクが“力”を発揮できる、言わば。本性。
そのあまりにも美しく、神の如き強さを備わった獣を。古来より人は称えるように。そして恐怖して。こう呼んだのだ。
――――“神狼”と。
正直に言って、梨紅はこの姿が好きではない。
可愛くない。かなたの隣に立つべき姿をしていないのだ。だから、とても嫌だ。
だけど。最早仕方ないと思うしかない。
梨紅は裸のまま、念じる。
“神狼”へと。変わる、と。
そう念じた次の瞬間。
どろんと獣の白い尻尾が生えた。梨紅の唇からは牙が生え、爪が獣のように伸びる。肌色の肌の上に真っ白な絨毯のように獣の毛がびっしりと生えた。可愛らしいヒゲが頬に浮き上がり、獣の耳がぴょこんと頭から飛び出る。
梨紅が服を脱いだ訳がようやく分かる。
この姿になると霊力の影響で服が破れてしまうからだ。下着も制服も。全てが破けてしまうほど、服というものは霊力に対してはあまりにも無力。
そのために梨紅はわざわざ服を脱ぐという行為を行った。
だから、嫌いだとも言える。
だけど。やっぱり。
この姿が嫌いな理由は。
やはり。
可愛くない。
それに尽きる。
“神狼”へと姿を変貌させた梨紅はトイレの個室の鍵を閉めたまま、壁を蹴って稲妻のような軌跡を描きつつ、飛び上がる。
そして個室の外へと飛び出す。
ふと鏡を見そうになって。
思わず、
「わん!」
吠えてしまった。
すると。
ずどんという衝撃。凄まじい霊力の放射。
“神狼”と名付けた人々はこう、とも呼ぶ。“神狼”の圧倒的なまでの霊力の放射を。
――“神狼”の“咆哮”と。
梨紅の見る全ての視界が一瞬で真っ白に染まった。
霊力による獣の雄叫び。
ただ、吠えただけのそれは。
足にどがんという振動と共に伝わる爆発音に変わる。
そして、その音と同時にトイレの壁が吠えた先の鏡もろとも崩れ落ちた。
『やっちゃった~……』
あまり。この形態に慣れていないせいもあって、力加減が未だ上手くいかない。まるで幼稚園児の頃に戻ったようだ。力を少し入れただけで、これだけの威力。
やはり、ろくなもんじゃないな。
と、思いつつ。
梨紅は“神狼”のまま、トイレの窓を開けてとんと足を踏み出す。そうして学校のグラウンドへと三階の高さから飛び降りた。
獣の姿になっているので、着地はなんなく成功。
人間の時よりもこの手の動きはやはり容易い。
そして、駆ける。
“神狼”は風となり、校門前に立っていた教師の横を駆け抜けていく。
行く先は……決まっていた。




